第81話 心霊世界研究会!

2023年5月某日。

早苗実業学校高等部 文化部に所属する【心霊世界研究会】の部室では、

2年G組でこの部の女部長を務める日本卑弥呼(ひのもと ひみこ)が、

今年入部した新入生の前に立ち、心霊世界研究会として最初の研究テーマと、

今後の方針を話そうとしていた。


「皆さん、この心霊世界研究会は、そんじょそこらの

非科学的な似非心霊研究とは訳が違います。

この心霊研究会の今年の目標は、

【死後の世界は存在するのか?】を科学的に調査し、

その深淵を覗く事です。


なので、まずは今年に入ってから私が調査した結果を

述べると共に、今後の方針に関しても語りたいと思います。


さて、最初に述べた【死後の世界は存在するか?】についてですが、

世の中にはいわゆる臨死体験で死後の世界を見たという人が

沢山います。これは世界に何百、何千という記録が

過去から現在に至るまであり、その統計的な調査もなされています。


この統計的調査で見えて来るのは、

多くの臨死体験に共通する内容があるという事です。

例を挙げると、

・自分の人生を振り返る…日本で言う走馬灯体験。

・既に死んだ自分の家族や知人に出会う。

・トンネルを通って強い光を浴びる。

・川を遡ったり、渡ったりする。

・お花畑があったり、大変美しく静寂な景色、光景を見る…等ですね。


不思議な事に、これらの体験は国や人種、宗教が違っていても

共通した傾向がある様です。

神や天使が出てきたり、悪魔が登場するという例は

あまりありません。既存の宗教の教えとは異なる事が多い様なのですね。


ですが、今日の医学会は、総じてこういう臨死体験には否定的です。

これらの体験を今日の医学はこう説明しています。

そのひとつは脳内麻薬、エンドルフィンの作用。

人間が死を迎える直前、脳は大量のエンドルフィンを分泌します。

このエンドルフィンは脳に多幸感を与える作用があり、

その影響で幻覚を見ると言うのです。

エンドルフィンの作用はモルヒネよりも強力らしいので、

この説は今日の医学界の定説のひとつです。


もうひとつは脳の再起動説。

心肺停止等で一旦機能不全に陥った脳が元の状態に戻る時、

脳の再起動が起こり、これによって過去の記憶がランダムに再生される。

この時様々な幻覚を見ると言うのですね。


しかしよくよく臨死体験を精査してみると、

この医学界の定説では説明しきれないものがあります。

では、次にその例に関してお話ししましょう。


ひとつ目は日本の実例。

京都大学のカール・ベッカー教授(宗教学)の体験です。

カール・ベッカー教授は、ある日、病院から呼び出しを受けます。

バスに轢かれ、頭蓋骨骨折で脳の一部が飛び出し、

意識不明で病院に収容されていた15歳の少年が、

収容されてから50日目に意識を回復したのですが、

彼が何か奇妙な事を話しているので、それを聞いて欲しいと…。


ベッカー教授が病院で少年の話を聞くと、

少年はこう話したそうです。

『トンネルを3回くぐり、川を遡ると綺麗なお花畑があった。

なのでそこに行こうとしたのだけれど、見知らぬ男性が来て、

【来るな。帰れ!】と言われたので、帰って来た』


これだけだと良くある普通の臨死体験の様に見えますが、

後日、両親がその見知らぬ男性の特徴を少年から聞くと、

それが母親のお爺さん、つまりは少年のひいお爺さんに

非常に似ていたのですね。それで母親が少年にそのひいお爺さんの

写真を見せた所、【この人に間違いない!】と彼は言ったのです。


これを知ったベッカー教授はこう述べています。

「この少年は生前のひいお爺さんに会った事がないし、

写真は一度も見ていなかった。この事象は現在の医学では

説明出来ません。なぜなら少年の脳内の記憶に

ひいお爺さんは存在していないからです」


次の例は、アメリカの脳外科医、エベン・アレクサンダーさんの体験です。

彼は脳外科医という仕事柄、臨死体験話をしょっちゅう聞いていたそうですが、

非科学的だと殆ど信じていなかったそうです。

そんな彼がある日、細菌性髄膜炎という脳の重病に侵され、

意識不明の昏睡状態に陥ります。


昏睡している間、彼は光に包まれた美しい、静寂な森の中に居ました。

そこで彼は既に他界していた彼の親戚や友人達に出会います。

そして最後に見知らぬ美しい女性と出会い、彼女にこう言われます。

【あなたは大勢の人に愛されている。帰りなさい】

アレクサンダーさんがそう言われて周囲を見ると、

病院のベッドに寝ている自分の周りに5人の人々が居て、

自分を心配そうに見守っている光景が見えました。

これで彼は帰る事を決心し、意識を取り戻します。


病気から回復した後、彼は脳外科医らしく、

昏睡していた時の自分の脳のデータを調べました。

すると脳幹部分は機能しているものの、

大脳皮質は完全に機能を停止しており、

昏睡中の脳が複雑な幻覚を見る可能性がなかった事を知ります。

大脳皮質が機能しなと人は夢を見ないのです。


では、脳が機能を回復する時に脳の再起動で幻覚を見たのか…。

しかし、これはある後日談によって否定されます。

実はアレクサンダーさんは生まれてすぐ養子に出されており、

実の両親とは面識がありませんでした。

この病気から回復した後、彼は実の両親に会おうとしたのですが、

少し前に彼の実の妹にあたる女性が死去した為、

実の両親はそのショックから立ち直れるまで、

暫く待って欲しいと彼に言ったそうです。


その代わり、彼が会いたがっていた、

実の妹の生前の写真を送ってきてくれました。

その妹の写真を見た彼は驚愕します。

それは何と、彼が昏睡していた時に臨死の世界で彼に帰る様に言った、

あの見知らぬ美しい女性だったからです。


また、彼はこの時5人の人々が彼を心配そうに見つめる光景を

見ていますが、実は彼が目覚めた時に周りにいたのは3人で、

5人だったのは彼が完全な昏睡状態にある時でした。

つまり、彼が五感でそれを自覚できる状況にはなかったのです。


この体験ののち、アレクサンダーさんはこう述べています。


【現在の医学では、臨死体験の全てを完全に否定する事は出来ません。

私達は今まで、たった70年前後を生きるのが人生だと考えて

来ましたが、この世界はもっと豊かなものなのです。

私達は無条件の神の愛を知る事ができる】


さて、今までは私が今年になって調べた臨死体験に関する

お話ですが、皆さん、如何思われましたか?

今年は皆さんの周りにある臨死体験や過去の様々な事例、

それにまつわるお話しを調べ、死後の世界の探求を行いましょう!」


「1年B組の浅井江(ごう)です。先輩の話はとっても興味深い。

私の実家は近江の戦国大名の系譜なので、色々そんな話があります。

是非調べてみたいですね!」


お江がそう言うと、卑弥呼は更に付け加えた。

「今年は更にもうひとつ極めて興味深い調査対象があります。

私のクラス担任の如月鈴音先生…。

私の家は千年以上の歴史を誇る旧家ですが、

家にある古文書には、なんと彼女の名前が出て来るのです。


私の家に伝わる古文書によると、彼女…如月鈴音は、

原初の神で八百比丘尼の祖と言われる宗像(むなかた)三女神…

その中のひとり、市杵島姫命(イチキシマ ヒメノミコト)の娘だそうです。

こんな興味深い対象が学校に居て、私のクラスの担任をしているなんて、

物凄い事ですよ!!」


「!!!」


部室にいる全員が、声にならない声を上げた。


「今年はとても充実した部活動が出来そうです。近い内に

鈴音先生を部室にお呼びしましょう!」


卑弥呼の眼が爛々と燃え、部員達の眼も燃える。

今年の心霊世界研究会はもの凄い嵐を呼ぶのかもしれない…。

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