第79話 世界征服研究会!
その日、早苗実業学校高等部 文化部に所属する
【世界征服研究会】の部室では、ビル・Gとその仲間達が
パソコンに向かってキーボードをカタカタと鳴らしていた。
この研究会の目的は、世界をいかに効率良く征服するか?
なのだが、現在の世界を支配している最大の存在、
すなわち金を効率的に生み出す方法を只今開発中である。
研究会でのソフトの開発に先立ち、ビル・Gは部員達に言った。
「既にAIは将棋や囲碁、チェスの世界名人をも圧倒する実力をモッテイマス。
すなわち、一定のルール上での合理的計算に基づく結論の予測…
そういう分野では超優秀な人間よりも既に上デス。優れた企業経営とは、
市場のルールに基づくリアルタイムのマーケティングデータ、
技術データ、経済データ、財務データ、競合各社の動向などを総合的に分析し、
最も適切な最善手を迅速に打つコトデスガ、経営判断に必要な情報を、
過去の成功例、失敗例などの歴史も含めて総合的にデータ化し、
これらを前提としてAIが計算、独自のアルゴリズムにより自動的に優劣を判断、
この結果を実際の企業経営に生かす事が出来レバ、
その企業は競合他社に対し、圧倒的優位に立つ事がデキルハズデス。
プラスして、このAIは自ら必要に応じてネットの世界から
最新のデータを入手、随時情報をアップデートして思考出来る様ニシマス。
まずは我々が構築した仮想世界で企業経営を複数のAIに行わさせ、
ディープラーニングにより、その実力を高めてイキマショウ」
ビル・Gのこの開発方針により
世界征服研究会は、仮想世界市場をソフトで開発、
その市場は現在の世界経済をモデルに、出来るだけ現実に近いものにした。
そしてその中で人間と複数のAIソフトを企業経営者として戦わせ、
まずは地道にAIの実力を向上させていった。
これにはかなりの資金が必要になるが、バックにいるのは世界の巨大企業、
マイクローソフット社なので、全く心配はいらない。
早苗実業学校入学前から既にこの開発を立ち上げていたビル・Gは、
この企業経営用AIソフトを完成させ、世界に売込み、
これをウィンドウズの様なスタンダードソフトにしようと目論んでいた。
大体、この世界には無能な経営者、管理者が多すぎる。
それに人間の世界は感情という、企業経営にはあまり馴染まない要素に
支配され過ぎている。全てが急激な進化と変化に晒されている今日、
人間が作る巨大なピラミッド型組織などというものは、
まさに不効率の象徴そのものではないか?
このAIソフトが完成すれば、極めて少人数で、合理的、効率的、かつ迅速な
経営判断が可能になる。そしてそのソフトの中に極秘のマルウェアーソフト
…内部情報を密かに外部に送信する…を組込めれば、
ビル・Gは全世界の全ての企業情報を握り、世界経済の支配者になる事が出来る…。
ビル・Gはそう考えながら内心ほくそ笑んでいた。
さて、そんな2023年の5月某日。
ビル・G達の開発したAIソフトは、ディープラーニングによる思考進化で、
仮想世界における経営活動では、もはや人間を圧倒する様になっていた。
何しろ計算と判断が早い。あらゆる経営、投資判断で、
人間は常にAIに先を越されてしまう。その判断の正確さも人間を遥かに凌駕する。
そうしてその結果、資本の蓄積の差が一定以上になると、
もはや人間が劣勢を覆すのは不可能になってしまうのだった…。
有力な技術や優秀な人材も、金とスピードに物を言わせた
AIに全て攫われてしまう。
しかもAIは不要になった人材や設備、資産を切り捨てる事を全く躊躇しない。
人間の組織では起こりがちな派閥のいさかいや不正も一切起こらない。
人事も適材適所で非常に合理的。
全ては企業の利益の為に…。純粋にこれだけに集中するのだから極めて強力だ。
これでは過去の栄光や経験に縋った(すがった)古いタイプの経営者など、
全く対抗できない事は疑う余地もなかった。
【オゥ~、いよいよこのAI経営ソフトは実用レベルになってきましたネェ~】
ビル・Gの黒いサングラスがピカリと光る。
「待っていてクダサイ。ミス雪音!このソフトが完成シタラ、
ミーはユーにこの世界を捧げルネ!
ソフトの名前は…そう、私の尊敬する理想の参謀、
宇宙船USSエンタープライズのミスター・スポックにしましょう!!」
ビル・Gによる世界征服の野望は、こうして今、幕を開けようとしていた…。
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