第75話 ロシアより愛を込めて…その④

さて、宴もたけなわとなった午後8時頃…。

八百比丘尼の美少女達の給仕とサービスが効いたのだろう、

大酒飲み揃いのロシア側のメンバーで平静さを保っているのは、

もはやプーチン帝くらいである。

駐日ロシア大使のミハイル・ユリエビッチ・ガルージンも、

吉田寅次郎と何度も祝杯を上げ、すっかり酔っ払っている様だ…。


そんな中鈴音は、スマホを使って倶楽部 白拍子の亀菊に電話を掛けた。

「亀菊、かねて連絡の通り、今から酔っ払いのロシア人を

10人程案内するつもりですが、準備は如何ですか?」

「はい、鈴音様、準備万端整いましてございます」

「了解です!」

鈴音はそう言って電話を切ると、会場で大きな声を上げた。


「皆様、宴もたけなわではございますが、ここらで中締めとさせて

頂きたいと思います。尚、まだ飲み足らないという方々の為に

2次会の席も用意してございますので、

ご希望の方は、外に用意しました車へと御移動下さい」


「おお~!それはありがたい!まだまだ飲み足らないと思っていたトコロデス!」

駐日ロシア大使のミハイル・ユリエビッチ・ガルージンが日本語そう言うと、

他のロシア人達もロシア語で同じような事を唱和している。


【こいつら、いくら何でも羽目を外しすぎだろう…】

プーチン帝はさすがに顔をしかめたが、すぐ横にいる小宰相が

「プーチン閣下、今日は日本びいきのロシアの方々が一人でも増えればという

趣旨もありますので、どうか大目にみてやって下さりませ」

と、小声でささやいてとりなしたので、

やむなくプーチン帝も無言で頷いた。


「プーチン閣下は如何なされますか?」

鈴音が聞くと、

「私はもう暫くここでリーリャとそのホストファミリー達と

グラスを傾けるとしよう」

そうプーチン帝は答えた。


「それでは私は皆様を2次会の会場へ御案内しますね…」

鈴音はそう言うと、ロシアの一行を倶楽部 白拍子へと案内しに向かう。


「二次会の場所はどの様な所なのだね?」

プーチン帝が傍らにいる小宰相に聞くと、

「八百比丘尼の娘が経営している夜の倶楽部です。

極めつけの美少女揃いですので、皆様きっとご満足いただけると

思いますよ…」

と、小宰相が答えた。

【うむ。せっかくだ。後で覗いてみるとしよう】

プーチン帝はそう思いながら、更にグラスを傾けるのだった…。


さて、倶楽部 白拍子での2次会だが、

絶世の美少女達による抱擁とサービスに、

やって来たロシア人達は瞬時にメロメロになった。

屈強なSP達も、ひとりにひとりづつ付いた美少女達の

美しさとサービスに、すっかり形無しである。


何しろ亀菊は、この日の為にロシア語に堪能な美少女達を

八百比丘尼の村で集め、彼女達に徹底して接客を教育していたのだ。

八百比丘尼の秘密を握っているロシアと友好的にならなければ、

この村の将来には暗雲が立ち込める事になる。

その事を十分に理解している亀菊は、考えられる限りの

周到な策をめぐらせたのである。


高級な美酒に歌に踊り、スタートして1時間もしない内に、

白拍子はロシアの酔っ払いどもの桃源郷と化していた。

彼らと一緒に白拍子に来た近藤長次郎は、

傍らにいる仏御前に、

「ロシアの連中がこれ程羽目を外すとは思わなかった」

と言うと、仏御前もくすくす笑っている。

「コサックダンスというのを初めて生で見ましたが、

中々のものですね…!」

そう、ロシアのSPのひとりが比丘尼の少女達の前で

コサックダンスを踊り始めたのだ。


そんな宴が頂点に差し掛かった頃…。

突然カラン!と白拍子のドアが開くと、そこには

赤ら顔のプーチン帝が立っていた。

「あまり…私を怒らせない方が良い…」

ややろれつの回らない口調で店に入って来た

プーチン帝の迫力の前に、一瞬店内の雰囲気が固まる。


と、その時である。

「やっとおいでなすったか。待ちかねたぞ」

そう言いながら、優美な艶めかしい白のドレスを着たクレオパトラが現れた。

「殿方に待たされるなど、千年ぶりくらいでしょうか…」

そう言いつつ続いて現れたのは、魅惑的な赤のチャイナドレスの楊貴妃である。

「お姉様方、この方はロシアの貴人であらされますので、

お手柔らかにお願い申し上げます…」

最後に現れたのは巫女姿の小野小町。


世界史上における3大美女の登場に、さすがのプーチン帝もたじろいだ。

「うむ、無粋は言わぬが良い。こっちに来やれ」

クレオパトラはそう言いながらプーチン帝の手を引き、

ソファーにいざなう。そしてそれから暫くのち…、

世界の3大美女による熱烈な接待攻勢の前に、

さすがのプーチン帝も陥落した。


ロシア連邦共和国大統領…ウラジミール・プーチン。

ベロベロに酔っぱらった彼が、ネクタイを鉢巻き状に頭に巻き、

ワイシャツをたくし上げ、ウォッカのグラスを片手に歌を歌いつつ、

【ウラ~~~~!貴様ら全員シベリア送りだ!】

と絶叫する姿を見た如月鈴音は、

【作戦…大成功ですね!】

と、思わず微笑むのだった…。

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