第74話 ロシアより愛を込めて…その③
2023年5月初旬。
大統領専用機に乗り、お忍びでひそかに来日した
ロシア連邦共和国…ウラジミール・プーチン帝は、
駐日ロシア大使館の公用車で八百比丘尼の村へと向かっていた。
目的は半年ほど前に日本に預けたロシアの八百比丘尼、
リーリャの様子を確かめる事である。
プーチン帝は美しいリーリャを自分の娘の様に気遣い、
深い愛情も持っていた。メール等で彼女自身から時折連絡はあり、
そこから次第に元気を取り戻していく様子が見て取れたが、
やはり自らの眼で一度確かめたくなったのである。
数台のロシア大使館公用車には屈強なロシアのSPが同乗しており、
周囲には数台の陸上自衛隊車両が護衛についている。
エスコートの為、内閣情報管理局の吉田寅次郎と如月鈴音が
その中の1台に同乗していた。
東京のロシア大使館を出発して、休憩と昼食を挟みつつ5時間あまり…
午後4時過ぎに一行は八百比丘尼の村に到着した。
先頭車両を運転する陸上自衛隊一等陸曹、近藤長次郎が
警備の自衛隊員に敬礼すると門が開かれ、車列が村へと入っていく。
到着した一行は、早速この村の迎賓館…白比丘尼館へと
案内された。プーチン帝が美しい調度の整った迎賓館の部屋に入ると、
その中ではリーリャ、小宰相、その娘の徳子と優美が待っていた。
鈴音がまずはプーチン帝に紹介する。
「プーチン閣下、リーリャの横にいるのは彼女のホストファミリー、
八百比丘尼の小宰相とその娘の徳子、優美です。この約半年間、
リーリャは小宰相の家で暮らしてきました。
小宰相もその娘達もロシア語は堪能ですので、御質問があれば、
直接して頂いて問題ありません。何卒宜しくお願い申し上げます」
「うむ」
プーチンはそう言うと、机を挟んで向かい側にいるリーリャを見つめた。
なる程、半年前にくらべると見違える様に血色が良くなり、
瞳に力が宿り、表情も明るくなっている。
欝の症状がすっかり改善している様子が伺えた。
「プーチン様、大変ご無沙汰しております。私の様な者の為に、
わざわざこの様な辺ぴなところまで会いに来て頂けるなど身に余る光栄…。
本来なら私が駐ロシア大使館に出向くべきところでしたのに…」
リーリャの言葉にプーチン帝は笑って返した。
「いやいや、私がリーリャの暮らしている環境を直接見たいと言ったのだ。
ここは本来外国人が来れる様な場所ではない。
融通を利かせてくれた日本政府には感謝している。
リーリャが息災そうでなによりだ」
「はい、この村の皆さんにはとても優しくして頂いています。
特にホストファミリー、小宰相姉様、徳子姉様、優美姉様には
凄く良くして頂いて…。食事もとても美味しくて、
空気や水も素晴らしく、私はすっかり元気になりました…」
リーリャが明るい声で答える。
「うむ」
プーチンはそう頷きながらリーリャのホストファミリーを見つめる。
小宰相、その娘の徳子、優美…。
3人とも透き通る様な美しい白い肌をした眼を見張る様な美少女だ。
艶やかな黒髪と赤い口紅、八百比丘尼の正装、
巫女の衣装とも相まって、そのコントラストの醸し出す
独特な優美さは、鈴音を初めて見た時と同じ…。
プーチン帝は年甲斐もなく、思わず胸の高鳴りを覚えた。
この様な美しい種族がこの世界では何故絶滅しかかっているのか…。
その中で今日に至るまで纏まった数をしっかりと保護し、
維持させている日本民族の英知には感心せざるを得ない…。
プーチンは今更ながらに想うのだった。
それから暫らく暖かく穏やかな歓談が続いた後、鈴音が言った。
「そろそろ夕食の刻限になります。プーチン閣下並びにロシアの皆様、
皆様の歓迎の為、別室に会食の場を用意させて頂きました。
御移動頂ければ幸甚です」
こうして迎賓館の食堂に移動した一行には、
護衛の自衛隊と同行して来た日本の一流レストランのシェフが
腕を振るった豪華な日本料理、ロシアの伝統料理と、
日本とロシアの様々な酒、高級なワイン等が惜しみなく振舞われた。
更には大使館、護衛のSPも含めて10人を超えるロシア側のスタッフに対し、
それを越える人数の八百比丘尼の娘達が、
給仕とサポートに付くという歓待ぶりだ。
本来なら護衛のSPまでこの様な会食には参加しないのだが、
「この村の100人を超える屈強な自衛隊員が本気を出せば、
この人数のSPなどいないも同じだ。
この村が自衛隊の完全な防備体制内にある以上、問題はない。
故に諸君らも気にせず食べ、飲みたまえ」
というプーチン帝の一言で、無礼講になったのである。
普段は神経が張り詰めているSP達…しかし元々酒には目のないロシア人である。
最高の食事に最高の酒、しかもそれをお酌してくれるのは、八百比丘尼の
絶世の美少女達となると…。いつしか彼らの緊張もすっかり解け、
やがてあちらこちらで歓声があがりだした。
普段はたいして酒は飲まないプーチン帝も、
隣に座ったリーリャのお酌にすっかり気分を良くして、
いつになくリラックスし、ほろ酔い気分になっている。
ロシア連邦の大統領になって以来、
これ程良い気分で迎えた夜がどれだけあっただろうか…。
プーチン帝はそう思いながら、更にグラスを傾けるのだった…。
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