第44話 倶楽部…白拍子にて…その①

八百比丘尼の村まで運転手を務めた一等陸曹近藤長次郎は、

到着当日小宰相の自宅で料理の御相伴にあずかり、それが

お開きになると、比丘尼の村にある自衛隊員用の宿舎に向かった。

まだ夜の7時と宵の口である。


職務上、小宰相の家で酔っ払う訳にはいかないから、

酒は程々、ほろ酔い程度に留めている。

生まれて初めて来る八百比丘尼の村。そういう物が

存在しており、そこの警護を陸上自衛隊がやっている事は

無論事前に知ってはいたが、八百比丘尼の実物を見るのは

初めてである。小宰相の家で一緒に食事をした比丘尼も、

村で見かけた比丘尼達も、いずれ劣らぬ超絶美少女ばかり…。

近藤もさすがにここまでとは思わなかった。


【いやはや、別世界とはこの事だな…】

近藤長次郎はそう思いながら、比丘尼の村の警護をしている

男性自衛隊員をかなり羨ましく思った。


男性隊員用の宿舎に到着し、指定された部屋に入り、

しばしくつろいでいると、室内の内線電話が鳴った。

電話を取ると、ここに住んでいる先輩…上官の自衛官…

3等陸尉の池内蔵太からだった。

「近藤一等陸曹、普通は余程の事がないと来れない

八百比丘尼の村に来たのだ、俺が比丘尼の村の夜を案内してやる!

幸運に感謝しろ!」

軍隊という所は上官の命令には逆らえないし、

それに近藤自身、多少なりとも興味があったので、

応諾して、一緒に外出する事にした。

それにしても比丘尼の村の夜とはいったい…?


ふたりで歩きながら近藤はそれとなく村の中を観察してみる…。

八百比丘尼の村と言っても、森の中を塀で囲った中にあるのは、

岐阜の白川郷の様な、日本的な雰囲気の風光明媚な村である。

合掌造りの古風な家が点在し、小さな畑や日本庭園などもあり、

素朴で風流な雰囲気を醸し出している。村自体、結構な広さの様だ。

電気も水道もガスも街灯もあり、自衛隊員が経営するコンビニまであった。

そこに住む八百比丘尼達も含めて観光地としてPRすれば、

恐らくではあるが、絶大な人気を博すであろう。


「近藤陸曹、ここでは八百比丘尼の女性と警備の自衛隊員、

その他、村内での店の経営や、各種管理、医療の人員も含めると、

大体500人くらいが暮らしている。その内男は100人ほどだ。

警備以外の実務は女性自衛官が担っている事が多いからな」


池内がカッカと笑いながら近藤に説明する。


「その内八百比丘尼と呼ばれる不老の少女がだいたい300人、

上は1,800歳、一番下は3歳…しかし、どんなに歳を取っても

見た目は16歳くらいにしかならん。見た目に騙されるなよ」


それを聞いた近藤は言った。「しかし、八百比丘尼という女性は、

誰もかれも見た目が本当に美しいですね。

私も実物を見るのは初めてですが、度肝を抜かれました」


「そうだろう?俺も来た時、ここが世に言う桃源郷かと思ったぞ」


池内は楽しそうな表情をしている。


「それで、どこに行くんですか?」


「それは行ってのお楽しみだ」


こうして池内と近藤のふたりは、自衛隊宿舎から10分程歩いた、

村のややはずれにやって来た。と、そこには

怪しいピンク色のネオンに照らされた看板がある。

そこにはこう書かれてあった。

【倶楽部 白拍子♡】と…。


「倶楽部 白拍子♡って…まさか…」

近藤が絶句していると、

「そのまさかだ。ここは主に男性自衛官を慰撫する目的で、

八百比丘尼の有志で運営している店だ。

もう1件、倶楽部、白比丘尼というのもあるぞ」


「倶楽部…白拍子…」


「まあ、何はともあれ入ってみろって…」


こうして近藤は池内にいざなわれて店へと入った。


カラン…とドアの鈴の音と共に店の中に入ると「いらっしゃいまし…」

と、白拍子の正装をした優し気な女性の声が耳に入る。


「これは池内様、それと…今日鈴音様と一緒に来られた自衛隊の方ですね…♡」

「はい、近藤一等陸曹であります…」

近藤は緊張し、赤い顔をして答えた。


近藤の目の前には、そこはかとなく妖しげな

雰囲気を漂わす絶世の美少女がいる…。

今だかつてこれ程の美少女を近藤は見た事がない…。

その美少女は池内と近藤をソファーにいざないながら言った。

「亀菊と申します。お初にお目にかかりますが、

よしなにお願い申し上げます…」

何とも言えない女性的な甘い良い香りが近藤の鼻を優しくくすぐる…。


歴史上、後鳥羽上皇をかどわかした事で有名な傾国の白拍子、亀菊。

平清盛がゾッコンになったという白拍子、仏御前。

源義経の愛妾だった白拍子、静御前。

そしてこれも名高い白拍子、祇王とその妹、祇女。

彼女達は元々皆八百比丘尼…。

この5人を中心に、10名以上の八百比丘尼が在籍する

倶楽部…白拍子は、美しい八百比丘尼の中でも、

更に厳選された美少女ばかりが集まった、

まさに究極の美少女倶楽部だったのである…。


その②に続く…。

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