第22話 仲間の帰還
一見、僕がしてきた事は世の男子からしたら羨ましい事柄の数々なのかもしれない。
だが、これは世界を救う為にしてることなんだ。
といっても、本物のユウと戦った勢力のことが未だに正体不明で、
どうなるんだ……これから。
「ふむ、それで私に聞いてみたか」
生徒会室、朝のリリスと二人きりの時間。
「はい、会長なら知ってるかもしれないと思いまして」
「そうだな……」
僕の座ってる背後にまわって後ろから僕に抱きつく。
「ここのところ、二人きりになれなくて寂しかったよ」
「わ、悪かったですよ」
やっぱりリリスの、僕以外もいる時と、僕だけといる時とでは、温度差って多重人格者なんじゃないかってくらい温度差ありすぎだろ。
「放課後ガラントいきますか」
「ううん、ユウと二人きりがいい……」
まあ、行けばガーベラがいるかもしれませんしね。
僕がいることで、リリスとガーベラの関係に亀裂が入らなければいいけど。
「で、私から何を聞きたいの、ユウ」
リリスは僕の制服のシャツに手を滑り込ませ、触り始める。
「ちょっ、とリリス。まだ……朝」
「……待てないよ、私はずっとずぅっと待ってたんだよ。それなのにユウは
来ないんだもん」
「それは……ごめん、なさい」
「それで……ユウは何が聞きたいの。私のスリーサイズ? 私のブラとパンツの色? それとも……もっと……」
僕の耳に息を吹きかけ、甘噛みをしてくる。
「ううっ、そうじゃなくて。仲間を助けに行かないじゃないですか、竜も仲間になったのに」
「それは問題ないよ。だから続きを楽しもう」
「問題ない……って助かったんですか」
ヒカリが音信不通で安否を心配してたのに?
「今、目の前にいるからな」
リリスがいつものトーンに戻る。
「え?」
「……気づかれてましたか。さすが魔法学園随一の会長」
どこからともなく声が聞こえる。
「え?どこ?どこにいるんですか」
会長との密会を誰かに見られるなんて、なんか恥ずかしいぞ。
しかし、辺りを見渡しても人は見当たらない。
「ここだ、ここにいる」
「え、リリスはどこにいるかわかるんですか?」
「ああ。盗み聞きとは相変わらずいい性格してるな」
「身を隠すのは、性分なので勘弁願いたい」
ミステリアスな声に包まれた主は、すっといきなり現れた。
やや小柄な身長に、学園指定のマントに覆われた少女、黒髪のショートで、眼には、どこかミステリアスさと思慮深さを感じる黒い闇が描かれている。
「わわわ、どこから出てきたんですか」
「最初からいた、というのが正しいかな。ふふふ」
「可愛い書記をあまりいじめるなよ、リタ」
「用心深いものでね、仲間がどんなやつか知っておきたいんだ。正体不明の魔法使いと戦い、記憶を失ったものの、退治、もしくは撃退、いやあるいはユウの記憶を消すことが目的で現れた、とか謎が深まるばかりでね。同業の中では話題が尽きないものだよ」
「そんなにスパイっているんですか」
「それは企業秘密だ。申し遅れた、私はリタ=フローゼル。リタと呼んでくれて構わない」
リタは淡々とした口調で話を進めていく。
「連絡が途絶えた時は終わったかと思ったぞ」
「いや、向こうはなにやら奇妙な魔法具を有しているらしく、私も危なかった。故に、魔法を発するもの全てを一時的に解除した」
リタは大きな黒い瞳で僕を上から下までじっくり見てくる。
「えーと何か?」
リタと目が合う。黒い眼に問いかけても何も返答はなさそう。
「ふむ、興味深い」
「え、な、なにがでしょうか」
「リタに気に入られたらしいな」
リリスが説明補足する。
「でも、なんか嬉しくないです。動物園の動物みたいに観られている気が」
「なに、人なんて多かれ少なかれ、興味あるものは、髪の1本から仕草、ゴミまでよく見ているものだ。心配はいらない」
僕は、それよりも本物のユウじゃないってことがバレそうで怖い。リタがきてからドキドキがとまらない。
「まあ、これから一緒に戦うかもしれない味方だ。存分にユウをみていいぞ」
「そんな、僕の意思は?」
「見事にリリスの尻に敷かれてるな。はて、記憶喪失前と性格がこんなに変わるものか」
心臓が痛い。
「え、僕と前に面識ありましたか」
「いや、君の情報は周囲から仕入れてるよ、生い立ちから妹と今は一緒に暮らしている、だとか交友関係から」
「これは、こいつの性分だ。許してやってほしい。
これでも優秀なのだよ」
リリスに言われてしまってはどうしようもない。
「わ、わかりました」
「さて、挨拶はここまでにして、そろそろ会長の耳に入れてほしい情報が」
「そうか、すまないがユウは席を外してもらえないか」
「はい」
よかった、やっと解放される。
僕は緊張の糸がやっと切れた気がした。
ただ、リタには注意しないといけないかもしれない。
……今日は早く帰ろう。
僕はなんとなく家へと急いで帰った。
帰宅するとミルルが僕のベッドで座っていた。
「あれ、ユウ君。早くない? それにちょっと……おかしい?」
ミルルは僕を見て不思議そうに首をかしげる。
「ちょっとね……」
「ユウ君、抱きっ!」
ミルルは僕を頭から抱きしめる。
必然的にミルルの胸に僕の頭は挟まれる。
「……なんか大変だったんだね」
ミルルは赤ん坊をなだめるかのように僕の頭を撫でた。
「……うんっ」
ミルルの優しさに僕は洟声で答えていた。
「いいんだよ、私に甘えて、たくさん甘えて……」
僕はその言葉に応えるように、深く深くミルルの胸に頭を沈める。
ミルルの匂い……フルーティだな、何の匂いだろう。
「甘い匂いがする」
「私のおっぱいから?まだお乳はでないよ」
「ううん、柑橘っぽい感じ」
「ボディーソープかも。知り合いの果樹園農家さんがおすそ分けしてくれたんだ」
「ミルルの匂いと混ざって、とてもいい匂いだ」
「……なんか恥ずかしいよ、それ」
「じゃあ、もう嗅いだらだめ?」
「……聞かないで、ユウ君の……ばか」
ばかは弱々しい小声だった。
僕はミルルの柔らかい肌と匂いに癒された。
「じゃあ舐めるのは……?」
ミルルは目線を逸らして黙ったまま、こくりと首を縦に振る。
だから僕はミルルを頬張った。ミルルは汗でしょっぱくもなかったし、無味でもなかった。
匂いの通り甘くて、僕の舌に溶けていくような、さらっとした舌ざわりで、キャンディのように舌で転がしてみると、ミルルの優しい甘さがあった。
「ユウ君……はげ……しい」
僕は存分にミルルを味わった。
「ユウ君ひざまくらしたげる」
「いいけど……疲れない?」
「ううんっ、ユウ君なら全然」
「じゃあ、また甘えるよ」
柔らかいミルルの膝から、先ほどは頭を埋めたり、味を 堪能していた胸を眺める、その上にミルルの顔がやや覗かせている。
「ミルルは……聞かないんだな」
「え?なにを?」
「理由をさ」
「うーんだって、誰だって甘えたい時はあるし、悲しくて泣きたい時はあるもん。私からしたらやっと甘えてくれたって思ってるよ」
「……それはなんかごめん」
この世界に来て、前世の過ちを繰り返さない為に、必死で周りの人の有りがたさを忘れていた。
「ううんいいの、こうして家で待ってたら帰ってきてくれるから」
「持つべきものは幼馴染だなぁ」
「……うん」
その時だけミルルは複雑な顔をしていた。
「もし……もしもさ」
「うん」
「僕がユウじゃなかったらどうする」
「うーんそれは困るよ? 私は幻術で魔法かけられてるの?」
「いや違うけど、僕の身体はユウの身体で」
「だったらユウ君はユウ君だよ。一緒にいる時間が長いのは変わらないじゃん。記憶を失う前も後も、
私がずっといるよ。大丈夫」
「……ミルルは強いな」
「え?そうかな、普通だよ。ユウくんがお疲れ様なんだよ。
ずっとこの世界の為に頑張ってるんでしょ」
「うん」
……間違ってはいないんだけどやってることは、アレなアレだけにアレだけどね。
「だったら、私も自分にできることをやるだけだよ。ユウ君に尽くすことは、世界平和を遠回しに支えてることになるし」
「……まぁとても遠くはない、間違ってないね」
家に誰かがいて助かったって思うことはこの時ほどなかっただろうな。
ミルルは僕の手を握る。
「だからいつでも困ったら私で甘えてね」
そんな日が来たらいいなとは思う。
けど、全てが終わった後のことが想像できない。
リリスはどうするのか、僕はどうなるのか、とか。
選ばれし勇者の役目が終わったら元の世界に戻るのはお約束なんだけども。
ま、僕は別に勇者でもないか。
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