第21話 天楼山の果実
僕が汗だくになりながら生徒会室に向かうと、会長は腰をかけてコーヒーを飲んでいた。
「遅いぞ」
その一言はそっけない。
最近忙しくて、リリスと二人になる時間もなかったし仕方ないのかもしれないけど。
「ごめんなさい」
こういうときは、謝罪をするに限る。
気持ちを込めて精一杯。
リリスの怒りメーターを溜めてはいけない。
リリスが乙女モードになって泣かれるほうが大変だ、可愛いけども。しかし、この先もチームプレイが多い中で仲が悪いと、いざってなったとき最悪だ。人間仲が悪くて世界が滅びました、って洒落にならない。……しかも痴情っぽい。過去の歴史上ではそういうので滅びた国家もあるだろうけど、歴史は繰り返すべきじゃない。
「う、埋め合わせってわけじゃないんですが、今度商店街においしいアイスクリーム屋ができたらしいんです。一緒にいきませんか? 魔法のトッピングを実演してくれるらしいですよ」
「いく」
あまりにもさらっと言いすぎて聞き返してしまう。
「え?」
「いくといってるだろう、やっぱりいきたくないのか」
「いきます!いくいく!」
はぁーよかった。女性はあまり怒らせたくないですね。ハーレム世界の人は一体、どうやってみんなの好感度を落とさないようにしてるんだろう。僕にハーレムが向いてないだけなのかもしれないけど。
「今行こう、と言いたい所だけど、そろそろガーベラの植物の様子を見に行きたい」
「ああ、天楼山で栽培した……」
それを口にして思い出す、ガーベラとの出来事。ガーベラの白い肌、甘い匂い、ああ何を思い出したてるんだろう。
「あの山は不思議と季節の植物が年中咲いてるらしいからな。昔の魔法戦争の名残だとか」
「戦争って、そんな花咲かせ合戦でもしてたんですか」
頭の中には童話の花さかじいさん同士が粉を相手にふりかける様子しか思い浮かばない。
「ユウはバカだね。どうすれば植物は立派に育つと思うんだい?」
「それは水と肥料ですよね」
「その肥料はどうやって手に入れた?」
「……まさか」
「そうだ、戦死した魔法遣いが肥料なんじゃないかって話だ。といっても言い伝えだがな。天楼山で死体だの幽霊だのという話は聞いたこともない。ただ私たちは、美しい花々を栽培したり見に行く、それだけだ」
「ならいいんですけどね」
そういう本当っぽい怖い話は苦手だ。
「なんだ、怖いのか」
「いや、怖くないですよ」
「本音を見せてほしいな」
「そんな可愛く言ってもだめですよ」
「私は可愛いか?」
「え? 可愛いほうなんじゃないんですか」
「ユウにとって私は可愛いかっていう話だよ」
「そ、そうですね。可愛いと思いますよ……何を言わせてるんですかこれ」
「ふふ、そっか。ユウが可愛いって言った」
「い、言いましたよ」
「ユウ照れてる。可愛いんだ」
「普段からそのリリスでいられないんですか」
「公私は使い分けないといけないからだめだよ」
そう言って僕に軽くデコピンしてから、
「サービス」
と一言囁いてから、触れるようなキスをいきなりされる。
「ずるいな、会長は」
「二人でいるときは絶対に名前で呼んでくれないとイヤ」
「わ、わかりましたよ、リリス……」
「うむ、それでは天楼山にいこう」
リリスはきりっとした表情に戻る。
切り替えはっや!
こうして僕らは、以前の様にワープで天楼山へ向かった。
そこにいくとガーベラが相変わらず土をいじっていた。
「あ、ユウ様ー」
土まみれで顔にもついてるのに不思議と絵になるなあ。
「ガーベラさんお久しぶり」
僕に向かって笑いかけるガーベラは可愛かった。
「もうっガーベラさんじゃなくてガーベラって呼んでくださいよ」
軽く胸あたりを叩かれる。
それを見ていたリリスに怒られるかなと思ったけど何も言わず事をすすめる。
「ガーベラ、久しぶりだな。植物の状態はどうなんだ」
「あ、リリスじゃない! 順調に育ってますわ。一応何度か口にして試しましたわ」
「え、そんなの口にして大丈夫なの?」
「ガーベラは毒草毒花を食べて抗体ができてるから大丈夫なんだ」
「うちの母親がなんでも植物を料理に入れる人でして。子供の頃は何度も倒れましたわ。毒抜きの魔法はいち早く覚えたんです」
「すごいお家ですね」
「自慢じゃないんですけど、魔法植物辞典ってご存知でしょうか」
「はい、書店にいつも置いてありますよね、毎年度更新されてて」
「あれ書いてるの、うちの家系が代々書いてきてるんです。うちの親で3334代目です」
「そんなに!じゃあガーベラも将来は植物辞典を書くんだね」
「はい、家系は別にしても、植物のことをこの先も多くの方に知って頂きたいんです。こんなにお花って美しいのに、みなさん空ばかり見てますからね」
ガーベラはどこか寂しそうな表情で僕に笑いかけてくる。
「それはすごいことじゃないですか」
「えへへ、でもユウさんだって素晴らしいじゃないですか。
お一人で悪の魔法遣いを撃退したとか」
「い、いや……。そのことは全く覚えてなくて」
「またまた、そんなご謙遜なさらずに。ユウさんは色々
素晴らしいものを持ってるのは知ってますから、ふふ」
少し変な話をしてるはずなのに、ガーベラの笑顔と声から清々しい気分にされてしまう。
「楽しく話してるのはいいが、その果実はもう試せるのか」
「うん……試食してみたよ。でも、ね……」
ガーベラはもじもじしながら顔を赤らめて続けた。
「効果ありすぎなの」
さらにリンゴの様に真っ赤になった。
「あっ」
「ユウ様想像しないでください……恥ずかしいです」
無理だー!。ガーベラみたいな可愛い子が果実を食べて興奮して乱れるところを想像しないとか無理だー。心の中で言い訳を叫ぶ。
しかも僕の名前を呼びながら。
「ユウ様ぁ……ユウ様ぁ」
喘ぎ声とこの前の、ガーベラの白い肌が頭の中でごちゃごちゃになってくる。
「ユウ書記!」
リリスは拘束魔法で僕に痺れるお仕置きをしてきた。
しかし、このお陰で正気に戻った気がする。
「あ、ごめんなさい、ガーベラ。暴走しまして」
「い、いえ……ユウ様は私を想像してくれたんですよね」
「は、はい……とても素晴らしかったです」
なんとか弁解を込めて、褒めておきたい。
「はわわ……」
余りの恥ずかしさに、土の上に座り込むガーベラ。
「ガーベラは本当に恥ずかしがりだな」
リリスはさも当然の様に言う。
「え、昔からなんですか」
「ああ、小学生の時に同じクラスになった時も、クラスの恥でもじもじとしていたから、話かけたらさらに真っ赤になってな」
「その時に比べたら大分治ったんですよう」
涙目になりながら訴えるガーベラは可愛かった。
「ガーベラから羞恥心を採取できればよかったかもな」
「私もそうしたいくらいですぅぅ、こんな羞恥心なんて……」
「ガーベラに羞恥心があってよかったですよ」
「ユウ様……やっぱりお優しいですね」
ガーベラに潤んだ瞳で見つめられる。
「いや、そんなことは」
僕も照れてしまう。
「こら、ユウ書記! どうして君は単純なんだ」
「いだだだだ、耳を引っ張らないでくださいよ」
「お前が惚けていたから、現実に戻しただけだ」
「リリスは……私とユウさんに嫉妬してるんですよ」
「違う、ガーベラも余計なことをいうな。乳を揉むぞ」
「ああんっ、やめてっ、リリス。よわ、いのっ。変な感じになる、からぁ……」
ガーベラのえっちな声が天楼山にこだました。
「わかっててやってるにきまってるだろ、こんな果実を実らせて! 私にもわけてほしい!」
「リリスのだって可愛らしいじゃないの」
「うるさいぞ」
リリスの手がガーベラの胸にめり込んでいく。服の上からでもわかる柔らかそうな胸が形をかえていくのがわかる。あまり見過ぎると変な気分になりそうだ。
「ちょっと……やめて」
リリスの身体が痺れるように痙攣していく。
「会長、やめておきましょうよ」
「ユウだってガーベラの反応を楽しんでるじゃないか」
「そ、そんなことないですよ」
「この際だからガーベラが育てた果実を試してみようじゃないか」
「ちょっとリリス。まだ試験段階よ」
「ガーベラは試食して害はなかったんだろう」
「そうだけど……いまはダメっ……」
リリスから変わらず、胸を責められているガーベラは拒絶も弱々しい。
「私が食べさせてやる」
「やめましょ、むぐぅ」
リリスは葡萄の様な果実を口の中に入れて、僕に口移ししてきた。
あまりにも唐突だったので、僕もなすがまま。
リリスの舌と僕の舌との上で果実は噛む事なく躍る。まだ果汁も出ていないのに、不思議な甘みがある。それと同時に、リリスの舌をもっと味わいたい気持ちになってくる。舌を動かすだけの動物なんじゃないかってぐらいに、何度も何度も繰り返し繰り返し、舌を前後に出し入れして、果実を転がす。
その様子をみていたガーベラもどこか羨ましそうに
ぼーっとみている。
ガーベラのその視線に気づくこともなく僕は、前後に前後に絡ませていく。次第にリリスの舌さえも美味しく感じてきた。噛みたい、味わいたい、舌を。
僕の意思関係なくリリスの舌を噛んでいた。
リリスは快感なのか、痛がったのか、驚いたのか、
身体をぶるっと震わせたけど、そのまま僕を受け入れていた。
「ユウ……いたいよ」
どこか切なそうな顔をしたリリスが可愛くみえて、
今度は何度も甘噛みする。
じゅるじゅるじゅるという音をたてながらも、果実は無くならず僕らの口を行ったり来たりする。
それを見ているだけでは耐えられなくなったのかガーベラも僕に抱きついてきた。
ガーベラの胸が当たる。そして、それが大きくて甘い果実に見えてくる。
服の上からかぶりつく。
「ゆ、ユウ様。服……着たまま……ですよ」
そんな声も聞こえず、目の前の大きな果実に、しゃぶりつく。
「ひんっ」
快楽なのか、苦痛なのか歪めた顔をしたガーベラの胸にうずめて揉みながら、僕の中にガーベラの味を取り込む。
「こんなの……こんなのっ、耐えられない」
ガーベラは土の上に寝込んでしまう。
それでも僕は離れずくらいつく。
「ちゃんと……食べて……ください」
ガーベラは、僕の唾液で濡れた胸部をめくって、ピンク色の乳首を露出させる。
それは僕に食べてほしいのか飛び出してるように突起していて、自然とむしゃぶる。
ガーベラはバラの香りがして、甘かった。それなのに噛みごたえがあって、飽きさせない。
「ユウ……ユウ……」
リリスは僕の名前を何度も呼びながら、欲しそうに空で舌を動かしている。
何を思ったのか僕は気がつけばリリスの腕を掴み、ガーベラの横に寝かしていた。
「ああっ」
驚いたのか、腕に触れた時の快楽の声かわからないけど、喜びの顔をするリリス。
そこからはもう記憶がなかった。
夢を見ていた。無くならない果実をただただむしゃぶる。舐め回す、噛む。するとまた甘い果汁が出てきて、食欲が増して食べたくなる。それを無限に繰り返していた。
「なんだこれは、失敗じゃないか……行為になっていない」
「まだ試験段階ですわ。欲という意味では共通してますわ」
「僕としては、それでよかったですよ」
「よくない」
「よくないですわ」
「は、はい……」
二人の言葉に萎縮させられる僕。
「しかし、ある意味禁断だな。人を果実だと思うなんて」
「はしたないですわよね。ですがヒントを得られるかと思いまして……。
私も、初めて食べた時は、ユウ様を一杯夢の中で食べて……はっ……何でもありません」
ガーベラは赤らめた顔を手でおさえて、イヤイヤと首を振る。
「まあ、実際に食べるのではなく、口に入れたくなるくらいなのでよかったです。
これからも頑張ってください」
「ユウ様からそんな言葉を聞けるなんて、もったいないですぅ。ありがとうございます、ユウ様」
ガーベラはまぶしいほどの満面の笑みで微笑む。可愛すぎて……花畑すら見えてくる。
「ここから、羞恥心に作用するものはできるのか」
「それは断言できませんわ。ですが、やってみますわ。ところで男性が試食したのは初めてだったんですけども、どうでしたか?ユウ様」
ガーベラが僕のことを上目遣いで見てくる。
不安の様な期待の様な、どちらともつかない表情で、ガーベラの目に釘付けだった。
「どう、です?」
「え、ああ! 良かったです!じゃなくて、ぼーっとするというか、なんだかお二人を見てるだけで美味しそうに見えてきて……その後は正直覚えてないです、ごめんなさい」
「いいんです、いいんです。そうですか、男性には聞きすぎてしまうんですわね」
ガーベラは手を掴んで喜ぶ。
「あの後、僕どうなりました?」
「ふふっ」
リリスは意味ありげに含み笑いをする。
「あの……ですね。ユウ様にお伝えしたいんですけども、お伝え……にくいです。とても恥ずかしいので」
「僕は何をしてしまったんだ」
リリスは笑うし、ガーベラはとにかく顔を赤くするし、何か楽しいことがあったのに違いない。どうして僕は大事なことを覚えていられないのか。
「さて、ユウをいじるのはさておき、この果実でうまく羞恥心に作用させるのは可能か、ガーベラ。
「今回は、食欲のほうでしたけども、方向修正はそんな大きくならないかと思いますわ。
「そうか、手間をかけさせるな」
「いいのよ、昔馴染みのお友達じゃないの。それに、ユウ様とも会えますし」
「ユウはあげないぞ……優秀な部下だし」
リリスとガーベラの目線が交差する。
「ま、この件はまた落ち着いた時にでも、ガラントで話そうじゃないか」
「ガラントって商店街にあるアイス屋ですか?」
「ええ、そうですわ。そこは私が育てた花をアイスに加工して販売してますわ」
「なるほど」
この前、リリスが機嫌悪かった時に連れて行こうとしたとこだ。灯台下暗し……なのかなあ。
「今度ぜひ!いらしてくださいね!」
ガーベラに手を強く握られる。こんな可愛い子に、笑顔でそんなこと言われたら断れはしない。
「はい」
「あ、ユウ様だけでいらしてもいいんですよ」
「えっ」
「私も、忘れるぐらいに夢中になってみたいです」
と小声で耳打ちしてくる。
いや、まじで僕は何をしたんだ。
「何を話してるんだ、ユウもう帰るぞ」
「はい、いまいきます」
ガーベラと目が合わさる。
ガーベラは何も言わず笑う。
僕も笑顔で「ありがとう」
と言ってリリスの元へと戻る。
ガーベラみたいな子とずっと植物を育てるのもきっと楽しいんだろうな。
でも僕にはリリスがいるし、この拘束魔法も解かれないと無理なんですけどね。
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