第18話 魔法訓練
魔法商店街には、魔法訓練をする場所がある。
いくらでも魔法を吸収する壁があるから影響を受けないということで、訓練にはうってつけだ。
「ユウさんが私を呼ぶなんて珍しいですね」
会長はやる事が沢山あるし、他のクラスメイトやら幼馴染は、僕が相手だと本気で魔法戦闘とかできるはずがない。そうなると生徒会のメンバーで連絡をとれるのはヒカリしかいなかった。
「ヒカリの能力を高くかってるからね」
「ユウさんて私のこと、評価してくれてたんですね」
「うん、ヒカリは会長の右腕として頑張ってるじゃないか」
「えへへ、そんな照れることいわないでくださいよ」
リリスに遣われるという意味では同じ境遇の仲間なんだよね……泣けるぅ。
「生徒会の広報の仕事はどう?」
「リリス会長に頼まれて、ユウさんが記憶喪失になった周辺の情報を集めてるんですよ」
「気をつけてくださいね」
「……大丈夫ですよ。私は、現場にはいきませんし」
「そう、それならよかった」
「それに、カロ子なら大丈夫です」
「カロ子?」
「……あの子は潜伏能力が長けてるのできっと、魔法が届かないところにいるってだけです」
カロ子とは、リリスが言ってた斥候の子の事だろう。
「ヒカリは会ったことがあるんだ?」
「ありますよ。スタイルがシュッとしててお尻がいい形してるんですよ、だからハグしてお尻モミモミしちゃいます」
なんかとってもエッチな女の子っぽい。以前から思ってたけどこの世界は素晴らしくエッチな子が多いな。
「セクハラじゃないか」
「女の子だからいいんですよー。スキンシップです」
「セクハラスキンシップだ」
「セクハラちゃう」
右フックが僕の顔にめり込んだ。
「……痛い。会長にもこんなパンチもらったことないのに」
「やー……ごめんね。まさか避けないなんて」
「いや、いいんれす」
顔に思い切りめり込んでいる、多分。
「……あの子ばかだよね、捕まっちゃってさ」
「ヒカリ……」
「なんで、私っておちゃらけてたのかって思うよ」
「こんなご時世だし、それは仕方ないよ。みんな危機意識が低下しちゃったんだよ。なにもかもが手に入るから、自由だからってさ」
「……相手は魔法が効かない相手かもしれないよ。
なにもかもが完璧主義のあの子が負けるなんて」
「僕も戦った相手かもしれないね」
「バッツォ?だっけ」
「うん」
「戦った記憶はないの?」
「ないよ、僕が気がついた時には、誰もいなかった」
「謎ね。魔法が通用しない相手じゃ」
「だからこそ、格闘なのさ」
「私も実家が魔法格闘技の家じゃなかったら、やんなかったろうな、武術とか」
「僕もこれが相手に有効かなんかわからないよ。だけど何もやらないよりはずっといいと思って」
「……ありがとね、ユウ」
「仲間は大切だからね」
うんうん、前世は友達少なくてしんどい思いしたから、大切さがよくわかるうううう。
「ユウって優しいね、自己中心的ばかりな人が多い時代なのに」
それは異世界から来たからだよ!とか言えるはずもない。
「ばあちゃんが言ってたんだ。どんなに苦しいことがあっても人に優しくするんだよって」
はい!定番のばっちゃがいってた!ってやつ。
「いいおばあちゃんだったんだね」
ごめんなさい、おばあちゃん。僕のおばあちゃんは生まれた時もう天国にいっておりましたあああ。
「なんかアタシ。普段と違う気がするな」
「僕は今のヒカリのほうがいいよ」
「生徒会の広告だって楽じゃないからね」
「楽じゃないだろうけど、楽しそうにしてるじゃん」
「楽しいよ、人のスキャンダルはー。いつかユウの記事もかいてあげようか」
「いいよ、僕の記事なんて書いたって面白くないだろう」
「え、そんなことないですよ。会長とユウさんの絡みは、密かに女性に人気があるんですよ」
「僕がただ一方的に会長に使われてるほうですよね?」
いやまさか、会長が実は乙女になってる姿をそりゃ僕以外知らないと思うけど。
あれ、なんだろうこの優越感。
僕しか知らない会長の秘密……なんだか特別な感じがする。
「その割にには、会長の話をするとき楽しそうだぞおおおおお、左にスキありにゃあああ」
不意打ちで左からアッパーをいれにきたヒカリのスイングはスローモーションに見えた。
「うそー、絶対ヒットしたと思ったのに」
今度は右手一本で左アッパーはうけとめた。
「二度はさすがに通用しないよ」
「確かにそうだね、でもそのうけとめ方、なかなか見ないから驚いちゃった」
「勝手に動いただけだよ、まぐれだよ」
「ふふ……やっぱり会長とユウの記事を書くね」
「その含みのある笑顔はなんだよ」
「実は今のアッパー、魔法を付与した防御貫通型だったんだよ」
「ただのアッパーにしか見えなかったけど」
「見えないように、普通のアッパーに見せたんだよ」
「へー、格闘のことは全くわからないや」
「目で見たものだけを信じちゃだめだよってことだよー」
「なんか曖昧でふわふわするけどわかったよ」
「この魔法学校だってただの魔法学校じゃないってわかるでしょ」
「え……伝統がある最古の魔法学校で、優秀な人がたくさんいるってことはわかるけど」
「にぶいにゃー、にぶすぎるにゃー。今までよく生き残れたにゃ。背中に気をつけるにゃ、いつ刺されてもおかしくないにゃ」
「いやいや、さりげに怖いこというなよ」
確かに、こっちの世界で数々の子とあんなことやこんなことしてきたけどさ。
「でも本当の事だよ」
ヒカリが真顔になる。
「おいおい、冗談だろ」
「今は冗談ととらえてもいいけどね」
「ヒカリらしくない」
「隙ありパァァァァンチ」
「おっと」
僕はとっさのことで、うまくガードができなくてよろけて、そのまま二人で倒れた。
「いたた……ちゃんとガードするにゃ」
「あ……うん」
ヒカリが僕に倒れ込んできたから、抱き合ってるような状態になっていて動けない。ヒカリから柑橘系の甘酸っぱい匂いがする。なめたらオレンジ味なのかなとバカらしいことを少し考える。
「……なんとか言えにゃ」
「ヒカリこそ、その猫語っぽいのは治らないの?」
「私の魔法は、動物系の魔法で解除は時間が経たないと無理だにゃ。その代わりユウの考えも匂いでわかるにゃ」
ヒカリの手が僕のお腹に入ってくる。
「ちょ、いきなりなにを」
「ユウの匂い、なんだか温かくて、なんか触ってたくなるにゃ」
ヒカリは小ぶりな胸を押し付けながら、僕の身体に触れる。
「人であそぶなよ」
「遊んではないにゃ、弄ってるんだにゃ。ユウも私の耳を弄ってほしいにゃ」
ヒカリは切なげな瞳で僕に訴えてくる。
頭の中で会議が開かれた。
お題は、ヒカリの耳に触るか否か。
「女の子に求められて触らないわけにはいかねえ」
僕の中の悪魔はそう囁きかける。
確かにヒカリのこの顔は反則的だ、猫耳、猫語はツボだ。
触ってしまおうかなと手を伸ばす。
「だめですー! 君にはリリスがいるから絶対に手を出してはいけないよ」
横から僕の天使が出てきて止めてくる。
ぐう……どうすればいいんだ。
終いには頭の中の天使と悪魔がケンカを始めたあ。
「天使てめーコノヤロー」
「争いはだめですー、あーれーっ」
天使は悪魔のワンパンで吹っ飛んでいった。
悪魔勝ってるし! 僕の天使弱いし!
ええい! 僕はこの耳に触りたいんだぁ。
「ふにゃあ、ふあ」
触るとフカフカして手触りがいい、それになんかヒカリがエッチな声を出してる。
僕はその声に導かれている様な気がして、猫耳を人差し指で、縦になぞる。
「耳だけなのかにゃ、もっと下も……」
「わ、わかった」
僕は頭がクラクラしていたけど、そんなことより、触れていたかった。
だから人差し指を耳から首へと進ませる。
ヒカリの肌は熱く湿っていた。
「もっと、もっと下にゃ……」
ヒカリはおそらくそう言ってたんだとおもう。
でも僕には、リリスに重なって聞こえていた。
「もっと、もっと触ってほしい」
あの保健室の時のリリスを思い出す。
「ごめん……」
僕はヒカリの身体から手をどける。
気がつけば僕の頭の中にはリリスがいた。
「……気にしてないにゃ! 会長さんにはかなわないな……」
ヒカリの本音の様な気がした。
「また別の形でかえすよ」
「ほんとかにゃー、私、商店街のパフェ屋でいきたいところがあるんだにゃ」
「じゃあ、これが終わったら食べに行こう」
「そうとなれば、やる気がでるにゃ。パンチ1万本を10本にゃ」
「身体を壊さないくらいにしてくださると……」
「グダグダ言わないニャー」
このあと、夜までみっちりしごかれた。筋肉痛で次の日動けなかったのはいうまでもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます