第17話 ユウ≠ユウ
「リリス会長」
「お、お疲れ様。ガーベラと登山デートはどうだった?」
「どうだった?じゃないですよ。過酷すぎますよ、魔法なしで」
「仕方あるまい、ガーベラが山頂でしか育てられないというから
ユウを派遣したのだ。こちらも心苦しかったぞ、会えなくて」
理不尽すぎる……僕は会長の駒なのか。
しかし過ぎるのは、保健室での出来事。あの甘い会長はなんだったんだ……。
「ええ、僕も会いたかったですよ」
……仕方なく、これは仕方なく、形式的挨拶を返しておくにかぎる。
「だが可愛い女子と山登り。よかったろう?」
「……そりゃ、いいといってはいいですけど」
ガーベラの豊かな身体が過ぎる。
「楽しいことがあったんだろう」
「……それより、自分の身体が貧弱なことを体感しましたよ、整体にも行きましたし」
なんかリリス会長怒ってない?
「魔法に頼ってばかりいるからそうなる。体育祭でつぶれるなよ」
「や、体育祭は不参加で」
「生徒会は全員参加だぞ」
「ココハドコワタシハダレ」
「現実逃避してもだめだ」
「脳内妄想で全力で逃げます」
おかしい、ここはファンタジーでメルヘンな世界なはずなのに。
「なら、私がそこに登場する。それだけだ」
「僕に安息はないのか。この美人鬼畜会長!」
「そんなほめないでくれ、ゾクゾクする」
「生徒会は平和ですね」
「……いやそうでもない。密偵として送った者が帰ってきてない」
「え、そんな。探しにいかなくちゃ」
「すでに捜索してるんだが、魔法の探査に全くかからぬのだよ。」
「手段はないんですか」
「アテがないというわけではない。ユウを襲ってきたやつの一派を探していたんだ、またいつ、学園の生徒が襲われるかわからないからな」
「そんな大事なことどうして言わなかったんですか」
「君は、あの戦闘で負傷して、記憶すらも失っているんだぞ。言えるはずがない」
「僕は学園を守るために戦っていたんですよ」
これは嘘だ。
「……彼女は密偵だ。問題ないことを祈ろう」
「助けに行くって選択はないんですか」
「訳のわからない敵と戦えるはずがない。記憶だけならまだしも、今度はどうなるか。しかも、それだけじゃないんだ。」
「会長がそんなに恐れてどうしたんですか」
「この学園の歴史文献を漁っていてわかったんだが、わからないことがあったんだよ」
「どういうことですか?」
リリスは埃をかぶった本を開きはじめた。
「これだ、このページ。原初の魔法使いサテュロス」
「確か授業では、サテュロスは自然を操る魔法遣いとかでしたっけ」
「この魔法遣いが大地に魔法を降らせ、私たちは魔法を使えるようになったとされる」
「ああ、そうだ。それが魔法の起源だ。古代人を相手にサテュロスは<ホワイト>を唱えて倒した」
「それがどうしたんですか?」
「古代人は何の技術で戦ってきた?ということだよ」
「僕と全く同じ魔法を使ってきたということはないんですか?」
「それはないな。火には水、水には木、木には火、木には金などと属性魔法があるのに、普通はジャンケンと同じで、ユウが得意な火属性にどうして水をあててこなかった? 使えなかったんじゃない、使わなかったんだ」
「しかし、それでは古代の技術に魔法が負けたということになりませんか」
「まだなんとも言えない……もしかしたら倒していたのかもしれない、君は」
「どういうことですか」
「アプサラス……をユウは使ったんじゃないかって」
「アプサラス、自爆魔法ですか。ですが僕はこの通り生きてますが……」
「ま、君がナバーゾになり変わって潜入したとか、別人になったとかでなければ、な」
その瞬間どきっとする。……その通りなんですが。
「僕はナバーゾではありません!信じてください」
「君の行動を私が把握してないわけないだろう。バカだな」
僕の頭をこつんと叩いてくる。信用してくれるだけありがたい。できることなら、僕はユウのままでずっといたいんだなって今思った。あの世界にも戻りたくはないけど。
「しかし、これからどうするんですか」
「もう少し様子を見るしかない。この古代の本が言ってることの謎もあるし、人類存続の手段もまだ試していないことがあるし、山積みだ」
「……僕でよければ手伝います」
「そんな言い方しないでくれ。ユウがいるから、ユウがいるから助かることだってあるんだ。」
「それは……僕が男だからでしょうか」
「確かに男性として助かる部分もあるが、ユウだからこそ助かることもある」
それは僕が本当のユウじゃなくてもかな。
「ごめんなさい、何か僕が変なこと言いました」
「いや、いいんだよ。最近君を使いすぎたから」
リリス会長は僕に近づいてきてそのまま抱きしめてきた。
「……リリス会長」
「二人でいるときはリリスって呼んで」
リリスは耳元で囁く。
「なんか生徒会での自分と、ただの生徒としての自分がごちゃごちゃしちゃって」
「私もそうだよ……こうしてユウと一緒にいたい自分と、魔法界をどうにかしたい自分、学園を運営する自分、ユウを助けたい自分とごちゃごちゃだよ。本当は、外を見てると、箒で飛び回ってる生徒みたいに考えなかったらどんなに幸せだったろうってね」
「でもリリスはそうしなかった、やっぱ格好いいです」
「自分にできることをしないまま、終わりたくないからね」
僕もユウとしての人生は、後悔したくないですよ。
「もし、この先、危険であってもついてきてくれるかい」
「もちろんですよ。貴方についていけることを光栄に思います、こんなに美しくて格好良い会長はいませんよ」
「……君はバカだな本当に」
「バカでいい」
ですよ、と言いたかった口は驚きのあまり伏せらてた。
唇の下に会長の吐息と湿り気を感じてキスされてることに気づいた。
「余りにも……恥ずかしいことをいうから……外しちゃったじゃないか」
「本当に嬉しいんですけど、複雑な気分です」
「それは、その女子達が君としたくて望んだことだろう」
「ええまあそうですけども」
「なら気にする必要もないよ。それより、私といるときは他の女の子は考えないでくれる?」
くれる? って言ったよな。普段なら、くれないか……だよな。
厳粛な会長さんより、こっちのリリスのほうがいい。
だけど僕はリリスから離れる。
「僕があの事件で変わってしまってもリリスは僕が好きですか」
リリスは少し間を置いてから応えた。
「正直、最初は戸惑っていたよ。だけどね、やっぱり他の女子と君が楽しそうに話してると心が張り裂けそうな気持ちになる。心臓が押し潰れて無くなってしまいそうになる。そのときに、君が絶対に好きなんだって……そう思った」
「もし、僕の記憶が戻ったときにまた聞いてくれますか。今はまだ」
「……わかってる。今日は私の気持ちを知ってもらいたかっただけだから」
「リリス……ありがとう」
「ふふ、やっと名前呼んでもらえたみたい」
「これからはずっと呼ぶよ」
僕はユウとしてこのままやっていけるのかと不安になるけど、
嘘の自分と向き合っていく難しさはある。
だけど弱いがために僕はユウを偽らないといけない。
といってもぶっちゃけ僕自身の性格は全く隠してないわけで、
自分で受け入れられるならいいかと、このまま生きていこうと思う。
前世が辛かっただけにね。
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