第12話 魔女召喚祭3

アーシアとは学園の西にある人があまり寄り付かないベンチ(なぜかはわからない)で待ち合わせていた。急いでアーシアのもとへと向かう。

ベンチには、すでにアーシアが待っていて、こちらに気づくと笑顔で手を振って迎えてくれた。

「ふふ、生徒会のお仕事おつかれさま」

「ごめん、会長や魔女で立て込んでて……」

「ううん、来てくれて嬉しい」

「こ、こちらこそありがとう」

「ううん、こちらこそだよ」

「ふふふ」

「ははは」

お互い見合わせて、笑い合う。

遅刻してもこの笑顔で返してくれる。アーシアって話すまでは地味だったけど、こんないい子だったんだな。

しかし、リリス会長とはこうならないよな。もう少し会長もこういう可愛い所があればいいのに。

でも、会長が可愛いかったら生徒会長はやってないし、拘束魔法をかけられてたらとしたら、禁断のデート、禁断の放課後、禁断のお家デート……

「うわあ、やばいなあ」

「んーなにがやばいの?」

い、いけね。口にでてた。

「ご、ごめんなんでもない」

「もう、会長さんの事考えたでしょ、わかるんだよ。……確かに私は会長さんみたいに綺麗じゃないし、リーダーシップもとれないし」

アーシアは寂しそうな目で涙を溜めて、顔を手で覆う。

「そ、そんなことないよ! アーシアだって可愛いよ。優しい所も好きだな!」

「本当?」

「うん、ほんとほんと!」

「そっかぁ……好きだな、かぁ……」

顔を紅くするアーシア。

「ん?」

一瞬思考停止。

……そんな僕、いま告白なんてした?

僕の言ったことを思い出してみる。

ああっ! 優しい所も「好きだな」好きだな、好きだな、好きだな、好きだな(以下エコー)

うわああ、そんな聞き間違えってある?

「いやっ、そのっ、違くて……」

「え、違うの?」

途端にまた、アーシアは顔を歪める。

「うわうわ、そうじゃなくて」

「そうじゃなくて?」

その切ない顔はずるすぎる。とても訂正しづらい……。

「優しい所が好きだよ」

「……うん。まだ私頑張るね」

アーシアは少し残念そうな声でうなづいて言った。

いやあ、危なかった。一時の勢いでもし告白してしまったら、色々大変なことになる。アーシアも深く傷つけることになるし、僕は前世同様のクズ人間に他ならなくなってしまう。さすがに人生やり直しのチャンス3年目をこんなとこで棒にふるわけにもいかない。

そんなこんなで、ヴィヴィの社までたどり着いた。

「わあ、綺麗」

アーシアが驚くのもわかる。

社は古びている筈なのに、赫く光を放っていて、

根拠はないけど、人気がないようながした。

光に包まれた古びた木材の扉を開けると、そこは、

社のサイズと見合ってない広大な洋風の部屋だった。

「こういう時、魔法が物理法則を捻じ曲げてることを実感するなぁ」

「といっても、恐らく空間系の魔法は一般の魔法使いには扱えないと思う。

学校では習えないし」

「え、知らなかった」

「学校の教科書にも注意書きが書いてあるよ」

「そ、そうなんだね」

こんな所で勉強に不真面目なことがばれてしまった。なんだか恥ずかしいぞ。

「ヴィヴィの化粧水はどこにあるのだろう」

「どうでしょう。一説によると、ヴィヴィの部屋の鏡台の引き出しに入ってるとか」

「年に一度しか蘇らないのに、お肌を手入れするってすごいな」

「そうでもないですよ、女性は色々大変なんです」

うんうんとなぜかアーシアは頷くけど、僕は全くわからない。

まあそういうものかと思っておこう。

しかし、なんだか嫌な予感がする、こう忍びながら他人の家(故人ではあるけど)を物色するのは。ヴィヴィの部屋は紅く妖しげな雰囲気で、何の匂いかわからないけど、甘い匂いがした。

「ユウくん……ベッドがあるよ。あそこで休憩しよう」

「そ、そそそんな時間ないよ。ヴィヴィが帰ってきたらどうするの」

「まだ召喚祭だって始まったばかりだし大丈夫だよ」

アーシアは、とうとうベッドにダイブ。

うつ伏せになって僕を見つめてくる。

これは誘われてるのかな。

アーシアがいきなり積極的になるのは今に始まったことじゃないけど。

それでも何かがおかしい。

もしかしたら、この匂いのせいかもしれない。

アーシアはベッドの上でスカートをまくり上げる。

白い肌とクリーム色の下着があらわに……。

「来ないの?」

悩ましげな表情をするアーシアに、そのまま飛び込んでいきたい。

「い、いや。だめだ。いっちゃだめだ、化粧水はどうしたんだ」

自分で言っていて気づく。

……好きにさせられる化粧水? 甘い匂い? 

もしかしてこの部屋にふりかけられているのか。

だとしたら、僕らはまんまとゴキブリホイホイにかかっただけじゃないか。

「アーシア、ここから出ないと」

「ユウ君、きて……」

だめだこれじゃラチがあかない。

しょうがない! ここは、拘束魔法で得たリリス会長の魔力で!

解呪魔法を放出した。

アーシアは途端に動きを止め、段々顔を赤らめていった。

「あ……私、ユウさんに何かしました?」

やっぱりアーシアはお淑やかのほうが可愛い気がする。

「ううん、とりあえず早くここを出たほうがよさそうだ、いこう」

「え、でも……化粧水が」

「いいから、いこう」

「は、はい」

僕は少し強く手を引きヴィヴィの社から出た。

「あの、私はどうしていたんでしょうか」

「ヴィヴィの化粧水の効果で……」

「ああ、そ、そんな、ごめんなさい」

「いやいや、別に気にしないでよ」

「あの……どうでした……?」

アーシアがまた顔を赤らめて訪ねてくる。

「どう……ってなにが?」

「私の……ぅぅ……」

消え入りそうな声でアーシアはしゃがみ込む。

スカートの中がまた見えていた。

エッチいけど……かわいいな。

本当なら僕も恥ずかしがるところなのに、なぜかそのときは冷静だった。多分、目の前に恥ずかしがってる人がいるからなのかもしれない。

おっと、こんな恥ずかしいことを聞いておいて答えないのは悪いな。

「き、きれ」

「きれ?」

突然、頭の中でリリス会長の声がする。

――ユウ!いるか?

「はい、います。会長」

――無事そうでよかった。アーシア君とのデートはどうだった?

「知ってたんですか……」

「拘束魔法さえあれば、なんだってわかる。ユウの身体の隅々まで」

「なんか不公平だ……僕はわからないのに」

綺麗といおうとしたところでリリス会長のテレパシー。タイミングを見計ったのかな、会長ならあえりえるな。

――そんなことはいいんだ。学校に早く戻ってきてくれ。一大事だ。魔女達が暴走した。

「ええ、どういうことですか」


僕らは急いで学校へ戻った。

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