第14話 念願

「私はまた図書館で調べ物をするから、ユウは後片付けをやっておけ」

とリリスから言われたわけで僕は学校の倉庫に片付け。

魔法を使って片付けるのも禁止と言われてしまったので大分しんどい。

盛大にやってくれた魔女方々は、散々にやらかしてくれたわけだから。こんな時ぐらい、魔法の使用を認めてもらいたいぐらいだ。

でも逆に考えれば一人だから気楽なのかもしれない。

「ユウくん」

いきなり背後から抱擁される。胸が背中に当たって、なんだかそこに意識がいってしまう。リリスとあんな事があったばかりなのに。

「こんな所まで、どうしたの。ミルル」

「ここ最近ずーっと相手してくれないんだもん。

私のこと……嫌いになった?」

そういえば、 最近相手にしてなかったな。

「ああ、会長やらこの行事の準備で忙しかったんだよ」

半分は本当で半分は嘘。生徒会の面々と仲良くやっていました(物理的な意味合いで)

「……よかった」

泣きそうな表情に僕の心がズキリといたむ。

ナイフで一突きされたかのように。

「ごめん」

やはり僕には謝るしかできない。

「ユウくんが記憶喪失になったときから、色々変わっちゃって……」

確かにずっとそばにいたミルルからすれば大きな変化だったのかもしれない。僕の性格が紳士からヘタレに変わった事は相当ショックだったろう。ミルルとの記憶も消えたことになっているし。それなのにまだ僕のそばにいるのは、まだ昔のユウがいつか戻ってくると、思ってるからかもしれない。

健気すぎて申し訳なくなる。しかし、異世界からやってきたものはどうしようもない。

僕にもどうしようもできないのだ。

だけどせめても、せめても気が楽になるなら、と。

「……ユウくん」

ミルルを抱き寄せる。精一杯、大切なんだよと思わせるくらい。

「ごめん」

「もう言わないで」

ミルルに制止される。

その瞬間、唇に体温が伝わった。その後にミルルの吐息も。

ぼ、僕はキスしている……。

ミルルの唇は、ぷるんとゼリーのような柔らかさで

噛めば、甘い果汁が出てくるんじゃないかって思うくらい。でも噛めはしないから、そのかわり。

「ひゃっ、ふうくん」

ミルルの温かい唇の中に舌を進ませる。

初めは、驚いて退いたミルルの舌は、僕の舌を受けいれるように絡ませてきた。

ああ、これが甘いってことなのか、とぼんやり思いつつ、この後僕はどこまでしてしまうのかわからない。とにかく舌を這わせるんだとミルルの舌の感触を味わう。ミルルは目をつぶって、頬を真っ赤にしている。気持ち良くて、舌の動きがとまらない。ゆっくりお互いを確かめるかのように舌が躍っていく。ミルルの腰は思ったより華奢で力をいれたら壊れしまいそうで、愛おしい気持ちにさせてくる。

名残惜しくミルルの口内から離れる。

「う……れ……し……い。夢なのかなあ」

きっと幼い頃から好きだったんだろう。

本当のユウの気持ちはどうだったんだろう。ユウの部屋からは、誰をどう思っているかとかの手掛かりは全くなかった。魔法書ばかりで本の虫かとしか思っていなかったけど。それでもミルルがくれたと思われるのぬいぐるみがあった。

もしかしたら、両想いだったのかもしれない。

そう思うと口が裂けても俺がユウ=ニコルじゃないとはいえない。

だから代わりにミルルには優しくしようと思った。

ミルルの笑顔が見れるように、純粋な子の夢を壊さないように、ユウ=ニコールはユウ=ニコールであるように。

「そろそろ、片付けしなきゃ」

僕がミルルの腰から手をほどくと名残惜しそうにミルルはうんと言った。

「わかった、またあとでね」

ミルルはいつものミルルの笑顔で去っていった。

その後タイミング良く、リリスから声がかかる。

ーー今すぐ、図書館に来てくれ。

「会長、見てました?」

ーーそんなわけないだろう、とにかく早くこい!

「はい、わかりました」

嘘だー、絶対見てるよ。ミルルが去ったのを見計らって声をかえてきたんだ。だけど、保健室でのことがあって、会長は僕の事どう思ってるんだろう。

い、いや今は遅刻しないように早く図書館にいくのが先だな。

僕は最近の甘い出来事を思い出しながらも図書館へ向かった。

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