第14話 他人のプライバシーを分析して楽しみつつはじめての改造計画を練る
姉様の部屋を出た後、僕は自室の勉強机に向かいながら、涙を呑むような気分でレポートに目を通し、解決の為に必要な情報だけを抽出し、それらの関係を読み解いていくという作業を続けていた。
時計の針は十時半を指している。読み始めてからおおよそ一時間半が経過したことになる。
僕は書類の束をデスクの上に放り投げ、ベッドに寝転び、今回の関係者についての情報を頭の中で整理する。
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黒ギャル先輩の本名は
彼女を男子サッカー部の練習に誘い、それを実現するために部活の先輩や顧問を説得したのが彼女の同級生でもあった、当時サッカー部の新入部員だった
横山先輩と柱井先輩を加えた二軍チームと一軍チームで模擬戦を行い、そこで横山先輩がハットトリックを決めたことが決定打となり横山先輩は男子サッカー部の練習への参加を認められた。
一年生にして不動のレギュラーに食い込んだ彼女は決して強豪ではない女子サッカー部を牽引し、二年の夏には全国大会出場目前のところまでこぎつける。
しかし二年生の秋、練習中に負った足首の大怪我によって選手生命を絶たれ女子サッカー部を退部。それがきっかけで素行が悪化した。
横山先輩と親しかった同級生や慕っていた後輩たちの一部も後を追って退部し、彼女と行動を共にした。やがて横山先輩たちは桜花門高校最悪のギャルヤンキー集団として恐れられるようになる。
一方で柱井先輩は豊富な運動量に裏打ちされた守備力と戦局を変えるロングパスの供給能力、そして稀有なキャプテンシーにより男子サッカー部の部長に就任。
横山先輩との距離が離れていく中で、柱井先輩は当時同級生だったバスケ部レギュラーの男子に気分転換という名目のもと女子生徒へのナンパに引っ張り回されることになる。
以降、三年次の所属クラスこそ同一であるもの、横山先輩と柱井先輩の間に目立った接点はない。
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横山先輩と柱井先輩の関係とその時系列の経緯を眺めて思った。
何だろう、この青春ドラマみたいな二人、と。
そして同時に思う。
ナンパに付き合わされる僕も含めて、誰も悪くないのに誰も幸せにならない話ですね、と。
僕が見た黒ギャルとナンパにいそしむサッカー部部長の姿からは想像もつかないエピソードだ。
先輩方の情報を突き合わせ、全体像が浮かび上がるまでの過程を、僕は正直楽しんでしまっていた。そして、自分もサッカーしてみたい、柱井先輩の誘いに乗ってもいいかもしれない、青春ってイイよね、と思った。
けれど僕は千条院初なので本格的な部活動には所属できないし、今は恋のキューピッドに徹さなくてはいけないのだ。そう思いなおして、僕は問題解決への道筋を探りはじめる。
正直に言えば、今の自分はノッている。やる気に満ちていると言い換えてもいい。
この話は誰かがパソコンの前でにらめっこしたり原稿用紙を丸めたりスマホに黙々と指を滑らせたりして出来上がった物語ではないのだ。
僕が実際に顔を合わせ、良好な関係とは言えないけれど言葉を交わしたこともある二人の先輩が実際に歩いてきた現実で、おそらくはもう二度と交わることのない未来がその後に続くことになる。
そしてそれはどこか、男の娘とショタ好きの先輩という絶望的な距離を隔てて離れてしまった僕と冬姉の間に存在する現実と未来とを思い起こさせた。
だから僕にはこの結末を見過ごすことは出来なかった。
このまま悲しい結末を迎えてしまうくらいなら、全力でハッピーエンドに向かう手助けをしたい、僕は今、完全な私情でそう考えていた。
その最中、僕は現在取り組んでいる問題とは外れたところで不意に芽生えはじめた、一つの疑問に気づいた。
……あれ、僕は姉様の手によって恋のキューピッドに改造されながら、同時に僕が二人の結末を改造しようとしているのでは?
◆◇◆
その後、僕が問題解決のシナリオ……いやもう認めてしまおう。先輩二人の改造計画を固めて眠りにつく頃、時計の針は十二時を回っていた。
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