第112話 迷い


「いったいどうすればいいんだ!」


「何故こんなことが⁉︎」


「魔物の大群に魔王まで……もう終わりだ」


 大司教達は教会から離れた王城の大広間に集まっていた。

 本来ならここで披露宴が行われていたはずだのだが、緊急事態でそれどころではなくなってしまった。


「早く逃げましょう」


「何処にですか⁉︎もう魔物達は首都を囲んでいますよ」


「逃げ場がないということですか……」


「教皇様は秘匿の通路で既にお逃げになられた……私達を置いて……」


「戦うにしても勇者は魔王にやられたという報告もあった」


「あれだけ好きにやらせたというのに」


「肝心なところで役に立たない子供だ」


 バーーン!!


 大広間の扉が吹き飛んだ。


 大司教達は魔物達がここまで攻めて来たのかと警戒したが、現れたのは人間の少年と獣人の少女、その後ろについて歩く聖女の三人だ。


「本当にまだいたな。バカな連中だ」


「何者だ⁉︎ここをどこだと!」


「あれは全員殺していいんだよな」


「いえ、生捕りにして有効活用する予定です」


「狙いは四人の話だが、一人足りないな」


「あの三人は大司教です。教皇はいませんね」


「もう逃げたか……逃げた先に思いあたるところはあるか?」


「すみません。教皇とその側近しか知らない道だと思います」


 奴隷達の計画はこのクズ共だけで足りるのか知らないが捕まえられなかったのは仕方ない。

 これは俺が悪いわけじゃない。

 杜撰な計画を立てた奴隷達がいけない。


「取り敢えずあのクズ共だけでも連れて行くか」


「さっきから何を言っておる!我々に対して失礼だろう!」


「この下賎な無礼者め!」


「おい聖女!そんな男から離れて早くこっちに来い!さもないと、いつかの映像がどうなるか分かっているのか?」


 ハルカが数歩後ろに下がった。

 自分が何をされたか思いだしたのだろう。

 

「俺のモノに気安く話しかけるな」


 俺は魔剣でクズの一つに魔剣を突き立てた。

 殺してはいけないからな。

 でも、一つぐらい無くなっていいんじゃないか。

 

「わ……我々にこんなことをして……」


「どうなるんだ?誰がお前らみたいなクズを助けるんだよ」


「お、おい聖女!早くこいつを止めろ!」


「あんな少女に助けを求めて恥ずかしくないのか?さすがはクズだ」


「…………」


「これらを何処に連れて行くんだ?」


「国民達と一緒の場所に連れて行きます」


「それでいいのか?」


「魔王様の期待に応えられるような結果になるかと」


「分かった。連れて行け」


 アインスはクズ共をロープで縛ると予定通りの場所に連れて行った。


「魔王様はこれからどうされるのですか?」


「ここは俺と成宮さんの二人だけだ。前と同じ呼び方でいいんだぞ」


「尊き魔王様は私の全てです。前世の関係ではなく、どうか私を自分モノのように扱って下さい」


「……分かった」


 俺と別れた後に何があったのかはレベル上げに来ていた祓魔師達に吐かせて知っていた。

 すぐにでも助けに行こうかと思ったが、アインス達の計画のためには放置するしかなかった。


 心の内は落ち着いた時にゆっくりと聞こう。


「それで魔王様、この後はどうのように動く予定ですか」


「ボスクラスの魔物が街に来るまで、ここで待機だ」


「分かりました」


「何も思わないのか?」


「何がですか?」


「俺ならそんな魔物ぐらい街に辿り着く前に倒すことができる。それなのにわざわざ犠牲が出るのを待つと言っているんだぞ」


「それが魔王様のお決めになったことなら従います。それでも……我儘を言っていいのでしたら、教会に預けられてある子供達と私に味方してくれたシスターだけでも助けてくれたら嬉しいです」


「そいつらは今どこにいる?」


「教会の敷地の何処かに避難しているかと思います。街にでる方が危険だと判断するかと思いますから」


「なるほどな……ならそっちに移動するか。俺がいた方が確実に守れるからな」


「ありがとうございます。案内します」


 俺はハルカの後ろで小さくホッと息を漏らした。

 考え方は魔王第一だが、ちゃんと他人を気遣う優しさが残っていたことに安堵した。


 なんだか魔王第一というのは嬉しいが、変わってほしくなかったと思う自分がいた。

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無能コンクエスト 秋月玉 @akitsukitama

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