第111話 選別
「うわぁぁぁぁ!」
王都では別の場所でも魔物達が人々を襲撃していた。
「たすけてくれー!」
「いやだ!死にたくない!」
「誰か私の子どもを助けてー!」
死体が築かれ多く血が流れる中、二人の少女が魔物達を倒していった。
「あの人達は……」
「見たことあるぞ!勇者の子孫だ!」
一人の男性の声によって恐怖と絶望の他に希望が生まれた。
勇者の子孫が現れたことで街の人達は安堵した。
これで助かると。
ヤヨイとキサラギが魔物達を倒していった。
二人に遅れてムツキが人形一号と二号を連れて到着した。
民衆はムツキ達の通り道を空けた。
「貴方達は魔王様に忠誠を誓いますか?」
人々は何を言われたのか理解出来なかった。
言葉のどこかを聞き間違えたのかとも思った。
「私達は偉大なる魔王様の隷婢です。魔王様に忠誠を誓う者だけを助けよと命令を受けています。早く答えて下さい」
ムツキは前髪を上げ、誇るように額にある隷婢の証を見せた。
人々の響めきは凄かった。
魔王の隷婢と堂々と名乗る人が現れたんだ。
魔物に襲われた恐怖の後に魔王の隷婢の登場だ。
混乱はさらに増していった。
「答えない方々は全て忠誠を捧げる気がないと判断されていただきます」
街の人達の考えや気持ちが整理するのを待つ気をムツキは捨ててしまった。
昔の彼女なら慈悲深く全ての命を救っていたはずなのに……。
「ムツキ、選別は終わりましたか?」
「どうやら誰も忠誠を捧げるつもりがないようです。ヤヨイ姉様」
「それは残念だわ。やはり魔王様の言う通りこの国は人の心まで何もかも毒されていて全てを浄化する他ないのね」
「王子様の行いは全てただしい」
「その通りです。魔王様の言う通りにしていればこの世界を高天へと導いてくださるのです」
「そうね。ここにもう用は無くなったわ。行きましょう」
ヤヨイ達は街の人達のことなど見えていないかのように歩き出した。
怪我人や倒れている人も視界に入っているはずなのにその人達を助ける気がまるで無かった。
「ま、まってください!」
一人の男性がヤヨイ達を呼び止めた。
「何ですか?」
「俺たちを助けてくれないんですか?」
「魔王様の隷婢である我々がこの状況かでも魔王様に忠誠を誓わない者を助けることはないわ」
「そんなわけ……隷婢なんて嘘だ!だって勇者様なん」
「私達を勇者と呼ぶな!」
ヤヨイは怒号が響き一瞬で静まった。
「我々は魔王様の隷婢だ!勇者なんかの弱者と二度と呼ぶな!」
ヤヨイも額にある隷婢の証を見せた。
キサラギも続けて隷婢の証を見せた。
本当は勇者の子孫と呼ばれた時点で怒りが湧いてきていたが、その時点では助けなければならないモノなのかもしれないと我慢していた。
勇者と思っていた人が隷婢になっていた。
敵である魔王のだ。
街の人達の中で目の前で何が起きているのか理解出来る人はいなかった。
「なんで……魔王なんかの……」
キサラギが呟いた男に槍を突き立てた。
「王子様を侮辱するな……次は殺す」
感情をあまり表に出さない子だからこそその言葉には殺意があり、本当に殺す気なんだと本能で理解した。
「おうじ?……魔王なんだろ?」
「王子様で魔王様」
キサラギの言葉を理解出来る者は誰もいなかった。
ムツキとヤヨイもキサラギの頭の中でゼントがどうなっているのか理解出来ていなかった。
だが、キサラギが本気で殺意を向けているのは理解してこれ以上何も発言出来なかった。
「行くわよ。ここには用はないわ」
「はい。ヤヨイ姉様」
「早く王子様に会いたい」
ヤヨイ達の後ろを人形一号と二号がついて歩いた。
「ぼくたちを……たすけてくれないの?」
十歳前後の少年が泣きそうな顔で聞いた。
ムツキがしゃがんで少年と目線を合わせた。
「あなたは魔王と勇者、どちらがこの世界を救ってくれると思う?」
「それは勇者様だよ」
「どうしてそう思うの?」
「だって本にそう書いてあったし、お父さんもお母さんも勇者はすごい人だって言ってたから」
「そう……ならその本はすぐに捨てなさい。この世界を救うのは魔王様です。勇者のような悪の権化ではないの」
「でも……」
「今この時あなたを魔物から助けたのは誰?いったい勇者は何をしているのかしらね?」
「でも、お姉ちゃん達は勇者のしそんなんでしょ」
少年の言葉で少女達の顔が暗くなった。
「えぇ、昔はその忌まわしき名を名乗っていました。恥ずかしい記憶です……ですが!慈悲深い魔王様は私達に新しい名と称号を与えて下さったのです!魔王様こそ!この世界を高天の世界へ導いてくれる救世主様なのです!」
ムツキはもう少年の反応など無視して語り始めた。
少年は数歩下がった。
これ以上聞いていてはいけないような気がしたからだ。
「それぐらいにしときなさい。その子はもう聞く気はないようよ」
「そうですか……魔王様の偉大さをお伝え出来なくて残念です」
「王子様はそこにいるだけで素晴らしい」
「そうね。早く行くわよ」
ヤヨイはキサラギを聞き流して、民衆に一度振り返った。
「もし魔王様に忠誠を捧げたくなったら着いて来なさい。もしそれが嘘だった場合は容赦しないわ」
何人か着いて行こうと立ち上がろうとするのが、すぐに座り直した。
自分達を睨んだあの眼はもう自分達が知っているものではなかったからだ。
勇者は助けてくれない。
魔王は助けてくれるかもしれないが、どんな人物か分からない。
街の人達もうどうすればいいのか分からなかった。
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