第110話 真実


 目の前にいるハルカは魔人だ。

 その事実に気付けたのは魔人少女のケーナにあったからだ。

 魔人の魔法は特殊で通常の魔法が使えない代わりに特殊な魔法が使えるようになる。

 それは交わった魔物によって決まる。

 ケーナがまだ魔法を使えないのはレベルや年齢が関係しているのだろう。

 ハルカが魔人だと分かったのはそれだけじゃない。

 多分俺ぐらいしか気付けないだろうからな。


 だが、魔法についてはケーナが親から伝え聞いていたということと、この街で調べたら魔人が特有の魔法を使うことはすぐに分かった。

 

 けど、そうなると可笑しな点がいくつかある。

 ハルカが魔人だということをこの国の上層部が全く知らないなんてことはないだろう。

 魔人だと知っていて利用していたのだろう。

 

 ハルカの見た目や使える魔法がシスターよりで都合がよかったこと。

 見た目から魔人の特徴があまり出ていないことから、そういう血の受け継ぎ方をしたのか、クウォーターのように四分の一か八分の一程度しか受け継いでないのか、色々な可能性が考えられる。

 

 それとこの国は魔人を特に嫌っている筈だ。

 なのにハルカを襲ったのはどういうことか。

 ハルカの見た目が美しくしすぎて、魔人だとしても抱きたかったのか。

 それか元々魔人に対して嫌悪を感じていなかったのか。

 またはそういう趣味なのか。


 真実なんて俺にとってはどうでもいい。

 今更魔人が俺のモノになったからといって動揺なんてしない。

 既に一人いるし、もっと恐ろしい奴等がいるからな。



 本人と邪魔者は相当驚いていた。

 

 ステータスとかを見れば気付ける部分とかあると思う。

 ハルカのステータスを見たことないから分からないけど。


「出鱈目を言うな!貴様の言うことなど信じられるか!それより僕の聖剣を早くかえせ!」


「これはもう俺のモノだ。五月蝿くて邪魔だから早く消えろ」


「こん、のー!」


 邪魔者は血管が浮き出て爆発するじゃないかというぐらいに怒っていた。

 その勢いで左手でアイテムボックスから剣を取り出して斬りかかって来た。


 さっきの時より乱雑な振り下ろしだ。

 利き手じゃないとそんなもんか。


「アインス」


「はい!」


 俺が名前を呟くとアインスは魔槍で剣を払い、突きの連撃を放った。

 邪魔者は剣を使って受け流したりかわすので背一杯のようだ。


 テラスの端に追い込まれて、アインスの渾身の突きを剣で受けた時にバランスを崩して民衆の中に落ちていった。


 死んでくれたらいいのだが、多分生きているだろうな。

 

「ご主人様、申し訳ございません。仕留めきれませんでした」


「邪魔者を俺の前から消したんだ。上出来だろ」


「寛大な言葉、ありがとうございます」


「じゃあ、やるか」


「はい!」


 アインスはテラスから下にいる人共に向かって大声で叫んだ。

 魔物がー、勇者がーと五月蝿かった奴等がアインスの言葉で一気に静かになった。


「群がる下等物共!これより魔王様からお言葉がある静粛しなさい!」


 アインスは横に移動して頭を下げた。


 俺はアインスのいた場所に立った。


「お前達はこれから魔物の大群に襲われることになる。それで……誰に助けて欲しい?」


 またざわめき出すが俺は構わず続けた。


「魔王の俺か、そこらへんに転がっている勇者を名乗るバカか選べ……ただし俺に助けて欲しかったか俺の忠誠を誓え!そうしたら助けてやる。しかし、それが偽りの場合は俺がお前たちを殺す」


 さて、これでどう動くか。

 俺はどっちでも構わない。

 もうこんな国は滅んだっていい。

 俺のモノにあんなことをしたんだ。

 本当は面倒なことはせずに俺が殺し回っているが、しょうがなくしてやっているんだ。

 

 奴隷達が俺のために考えてくれた計画だ。

 俺が台無しにしても文句なんて言わせないが、一応は台本通りに動いてやる。

 そのかわりの対価はちゃんと払ってもらう。


 民衆達がさらに混乱している時、大きな爆発音がした。

 多分祓魔師の誰かが中級以上の火魔法を使った音だろう。


「もうそこまで魔物達が来ているぞ。早く選べ!」


 自分達の死がすぐそこまで迫っているのに未だに答えが出せないのか。

 助けて欲しいと思ってない奴を助ける気なんてない。


「死んでも魔王のモノになりたくないなら勝手に死ね!」


 俺は傀儡共に興味をなくしたので顔を背けた。


 お、あれはブルーウルフの群れだな。

 十匹はいるな。

 スピードが速いから他の魔物よりも早く防衛線を抜けて来たんだ。


 民衆の端にいた家族四人が噛みつかれた。

 親二人も兄弟も楽々死んでいった。

 父親が「誰でもいい、助けてくれー」と叫んだが他の奴等は離れるばかりで誰も近寄ろうとしなかった。

 その後も老人、子供関係なく食い殺されていく。


「助けてください勇者さまー!」と誰かが叫んだがすぐに死んでいった。

 あのバカが助けてくれると本当に思ってるのか?

 だとしたら、筋金入りのバカだ。

 

 その後三匹のブルーウルフが娘を抱きしめる母親に狙いを定めた。


「どうか……娘だけは……」


 そんな願いが魔物に届くわけがない。

 三匹のブルーウルフが同時に母親に向かって跳んだ。


「助けてください!魔王様!」


 母親を目を瞑り、これからくると思っていた強い衝撃に供えていたが、いつまで経っても痛みは襲ってこなかった。


「いつまでそうしている」


 母親が目を開けるとブルーウルフが首を切断されて倒れていた。


「やっと呼んだな。俺に忠誠を誓う気になったか?」


「え、えっと……」


「嘘なのか……だとしたら娘ごと俺が殺してやる」


 俺は母親が抱きしめる娘に剣を向けた。


「誓います!誓います!だから、どうか助けてください!」


「いいだろう。アインス!」


「ここに!」


 アインスはすぐ近くに跪いた。


「この親子はツヴァイとドライが待っている場所へ連れていけ」


「他にも俺に忠誠を誓う者は一緒に連れて行ってやれ。ただし、お前が嘘だと判断したら即座に殺せ」


「かしこまりました。魔王様への偽り忠誠など万死を持ってしても足りません」


 アインスが「ついて来なさい!」と言うと、母親は娘を連れて恐る恐る後ろをついて行く。


 途中で一人の男がアインスを何かを言うが持っていた魔槍で心臓を一突きされて絶命した。


 それでいい。

 誰でも助けるわけじゃない。

 俺に嘘の忠誠などということを口にする奴は死んで当然だ。


 その後は土下座のようう格好で懇願する奴等などそれぞれ似たような態度や台詞を言って生き残ろうと必死だった。

 何人かアインスに殺されている奴もいた。

 それはそいつの心が悪い。


 俺はブルーウルフを倒し、その後に続くレッドベアやブラックワーウルフなど様々な魔物を倒しながらアインス達見送った。


 この程度レベルの魔物だったら俺一人でもここを防げる。

 だが、四方八方から攻められては俺でも無理だ。


 そこはフィーア達にかかっている。

 俺に反対してまで押し通した作戦なんだから成功させなければならない。

 魔王のモノなんだから。

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