第109話 信仰
第109話
信仰
ハルカは何を言われたのか理解出来なかった。
自分を求めてこんな危険な場所に乗り込んで来たはずだ。
手を伸ばしてくれた。
一度拒んでしまったが反省した。
あれからこんなにも想い続けてきた。
どんなに多くの人に体を汚されても心だけは捧げてきた。
魔王様のモノだからという希望があったから耐え続けてこれたんだ。
それなのに目の前の魔王様は自分のモノじゃないと言った。
冗談だと言って欲しかった。
「嘘ですよね……だってわたしは……」
「お前は俺のモノになることを拒んだんだろ。それが答えだ」
近付きたいのにショックで足が動かない。
何を言ったら、何をすればいいのか分からなくなってしまった。
魔王様はアイテムボックスから大きなタオルを取り出すと私に被せてくれた。
体を隠せということなのだろうが、腕が上手く動かせなかった。
「僕を差し置いて何を話しているんだ。この女は僕のものなんだ。お前のような得体の知れないような奴のものじゃない」
「話を聞いていたろ。こいつは俺のモノじゃない。バカなのか?」
「なんだと!勇者である僕にむかって!」
「馬鹿にバカと言って何が悪い」
「こいつ……これを見ろ!」
スリーフは腰に刺していた剣を取り出した。
本来花婿が剣を携えているのは不敬だが、この剣はスリーフが勇者であること証明するための物なので許されていた。
「その剣がどうした?」
「低脳すぎて理解できないようだな。これは過去の剣聖が所持していた聖剣だ!」
スリーフが握っている剣に魔力を込めると剣が小さく黄金色に輝いた。
「これが勇者である証拠だ!今なら無様に頭を下げて謝ったら、僕の気が変わるかもしれないぞ」
「だからどうした?そんな剣を光らせたからってお前がバカなことは変わらないだろ」
「また言ったな!殺してやる!」
スリーフが斬りかかるが、ゼントはそれを難なくかわした。
さらにスリーフを腕を掴んで動きを止めた。
「この剣はお前には相応しくないから俺が貰ってやる。やれ!」
「はい!」
屋根の上に控えていたアインスがテラスに降りると魔槍でスリーフの右腕を貫いた。
結婚式用の服では防御力は皆無でスリーフの腕は血まみれになった。
手に力が入らなくなり聖剣は地面に落ちた。
「うわぁぁぁ!僕の腕がー!」
「五月蝿い!」
ゼントはスリーフの腹を蹴り飛ばした。
部屋の中央まで転がったスリーフは腕と腹の痛みでのたうち回っていた。
「さてと……欲しかったものは手に入った。行くぞ」
「かしこまりました」
「待ってください!」
ゼントが聖剣を拾って去ろうとしたので、急いで止めに入った。
「なんだ?お前にはもう用はない」
「お願いします!私を連れて行ってください!私はもう魔王様のモノなんですから」
魔王様に抱きつこうと手を伸ばしたが、届く前にアインスさんと呼ばれた獣人の女性にその手を強く掴まれてしまった。
「貴方が魔王様のモノ?そんなことはありません。一度だろうと魔王様の誘いを断ることがどれだけ罪深いことか分かっているのですか?」
「はい……魔王様の誘いを断ったばかりに私は女性として重い罰を受けました。もうあんな思いはしたくありません!どうか私を助けてください!」
「助けて欲しいならあそこに転がっている奴にでも頼めばいいだろ」
「私は魔王様のモノなんです。それ以外男なんて嫌です。魔王様の言うことならなんでもします」
「この女……殺しますか?」
アインスが槍を構えてきたが、私は引き下がろうとは思わなかった。
これが最後のチャンスだからだ。
ここでもし置いて行かれるようなことがあったら私は自殺する。
それぐらいの覚悟はあった。
「魔王のモノになるということがどうなるか分かっているか?」
「分かってます」
「俺の目的は世界征服だ。この世界を敵に回すことになるぞ」
「魔王様の以外の男は全員敵です」
「お前は俺のために何ができる?」
「私は回復魔法しか使えません……なのでこの体と魔法を使って魔王様を癒すことができます。それに……魔王様の子供を産みます!」
「…………」
魔王様は難しい顔している。
私はまた間違えてしまったのでしょうか?
いまだに槍を向けているアインスさんはさらに険しい表情になったいた。
「本当にいいんだな?」
「私は魔王様のモノですから」
「わかった。お前を俺のモノにしてやる」
「ありがとうございます!」
私は魔王様に抱きついた。
夢にまで見た魔王様の体だ。
その感触や匂いを思う存分感じた。
現実は想像よりも比べものにならないぐらい最高だった。
一生こうしていたいと思ってしまった。
「そろそろ次の作戦に移らなくてなりません。邪魔なので離れなさい」
アインスさんに肩を掴まれて無理矢理離されてしまった。
名残惜しいが仕方ない。
でも、あの匂いを私は一生忘れません。
「そうだな移動するか」
「おい待て!」
気持ちの悪い男が布でグルグルにまとめた右手を抑えながら叫んできた。
「ハルカは俺のものだ!早く俺の腕を治せ!そいつから俺の聖剣を取り返せ!」
私は魔王様の背中に隠れた。
あんなにも気持ち悪い男の視界に入りたくなかった。
「こいつは俺のモノだ。お前のものじゃない」
「ハルカ!勇者である僕を裏切るのか!」
「勇者だったら少しは自分の力でなんとかしたらどうなんだ?」
「なんだと⁉︎」
「それにお前達教会側が最も嫌っている存在に助けを求めるなんて滑稽だぞ」
「どういう意味だ?」
「気付いてなかったのか?こいつは魔人だぞ」
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