第107話 下降


 カーン大司教と祓魔師達に連れられてる途中でシスター服ではなく白を基調としたドレスのような服に着替えさせられた。

 シスター達に着替えさせられてる間も大司教達は部屋から出ていくことはなかった。

 視線が気持ち悪くて出て行って欲しかったが、逆らうのが無駄で早く終わらせるために抵抗することをやめた。

 それよりも会えない魔王様のことを考えている方がましだった。

 

 着替えさせられた私が連れられた部屋には教会所属ではない少年が一人いた。

 その少年は赤い服の上に白い防具にを身に纏っていた。

 祓魔師が着る防具とは全く違っていた。


「待ち兼ねたよ聖女ハルカ」


 短い金髪で幼いような見た目だが、可愛げのようなものは感じなかった。

 身長は160センチあるかないかぐらいで男性としては小さめだ。

 私に見るなりニヤリと顔を歪ませて気持ちが悪い。

 少年は私の顔ではなく大きく開けた胸元ばかり見ていた。

 本当に気持ち悪い。


「あらためて紹介します。勇者の家系で次男スリーフ様です」


「僕が勇者スリーフだ」


「ゆう……しゃ?」


 勇者の物語は読んだことはある。

 ミッテミルガン共和国に勇者の末裔がいるというもの噂で知っていた。

 正式に勇者の称号を手にした人はいるのかいないのか私は知らない。

 分かっているのは勇者とは魔王様の先祖を倒した人だ。

 勇者は魔王様の宿敵だ。



 つまり……私にとって最大の敵だ!



 私は無意識に目の前の勇者スリーフを睨んだ。


「聖女とは博愛を持った心優しい人だと聞いていたんだけど随分と怖い目をしているんだね」


 カーン大司教はすぐに私とスリーフの間に入った。


「すみません。聖女は最近忙しくあまり体調がすぐれないようでして……」


「体調がすぐれないのは君達のせいじゃなくて?」


「それは……その……」


「それよりも僕は彼女を気に入ったよ」


 スリーフは私に手を伸ばして来た。

 私は咄嗟に後ろに下がって距離をとった。


「いいね。みんな僕が勇者と知ると媚びてくる人ばかりでね。それも良かったんだけど、こういう人の方が手にしたいと思っちゃうよ」


 スリーフは上から下まで舐め回すように見てきた。


「気に入った!この娘を僕の正妃にするよ!」


「え⁉︎」


 スリーフがとんでもないことを言い出した。

 私が勇者と結婚する?

 魔王様のモノである私が勇者の妻になるわけない。


「スリーフ様⁉︎確かに聖女ハルカは美しく誰もが羨むような人ですが、それでも教会が聖女と発表している人でして」


「尚更いいじゃないか。勇者と聖女が結婚するんだ。それこそ国的には最高じゃないのかい?」


「それはそうですが……」


「他に何か理由があるなら言ってみなよ」


「…………」


 カーン大司教はもう聖女の体を堪能出来ないとなると惜しくなってしまった。

 そんなことを直接言うことは出来なかった。


「もし僕達の結婚を認めてくれるなら、ハルカにしたこれまでの粗相を帳消しにしてあげるよ。出ないと僕の妻に酷いことをした人達に天罰を下さなくちゃならないよ」


「そんな……」


 スリーフの言葉は私を守ってくれるように言っているが、全く心に響かなかった。

 この人は敵だ。

 敵に優しい言葉を掛けられても気持ち悪いだけだ。


「分かりました。ですが、ここまでも大事となると教皇様にも許可を頂かなくてはなりません」


「そうだね。ま、僕が頼めば二つ返事で許可してくれるはずさ」


 スリーフはまるでこの世全てが自分のために動いているかのような言い方だった。


 この世界は魔王様のモノなのに何を勘違いしているんだ。


「それと……これまで紹介してきたシスター達はどうなるのですか?すでにスリーフ様の子供を身籠もってる女性もいるのですよ」


「彼女達は側室にするよ。あ、勿論気に入ったら第二、第三夫人になってもらうよ。ハルカだけじゃ僕の相手は大変だろうからね……だからこれかも提供してもらうよ」


「そうですか」


「大司教だって勇者の血を受け継いだ子供が多い方がいいだろ。まぁ、聖女との子供が一番優秀になるだろうけどね」


 子供⁉︎


 私はお腹を抑えた。


 魔王様のモノである私が勇者と結婚して子供を産む。

 考えただけで吐き気がしてくる。


 絶対に嫌だ!

 私の全部は魔王様のモノなんだ!

 魔王様との子供を産むんだ!


 なんでこんな勇者との子供なんて……。

 私はその場に座り込んでしまった。


「ハルカも僕との子供が産めると聞いて泣くほど嬉しいみたいだね」


 スリーフはへたり込んで両手を顔を覆った私の頭を撫でた。

 自分の髪に彼の指紋がつくなんて気持ち悪い。


「大丈夫だよ。君はもう僕のモノなんだから幸せにしてあげるよ」


 スリーフは笑いながら頭を撫でた。


 魔王様……

 このままでは魔王様のモノである私は勇者に好き放題されてしまいます。

 早く助けに来て下さい。

 そしたら私は勇者なんかの子供じゃなくて魔王様の子供を産みます。

 だから……その手をもう一度私に伸ばして下さい!


「感謝してね。これでお前は僕以外を受け入れなくて済むぞ。それと……楽しみは初夜にとっておこうね」


 スリーフはニヤリと笑うとハルカを立たせた。


「結婚式と披露宴の日取りを決めよう。これから準備で忙しくなるけど一緒に頑張ろう……夫婦なんだから」


 わざと夫婦という言葉を強調されて嫌悪感が増していった。


「カーン大司教達も協力してくれよ。これはヴェストニア法国の未来に関わる大事な式なんだからね」


「勿論でございます」


 カーン大司教は聖女を取られたことをまだ悔やんでいたがしょうがないと諦めていた。


 これも『勇者』の称号を獲得するかもしれない人物をヴェストニア法国が手にするためだ。


 勇者の末裔、サトウ家次男スリーフ。

 『勇者』の称号を手にするために武者修行の旅に出てヴェストニア法国へ立ち寄ったと本人が言っていたが真実は明らかになっていない。


 噂だが既に『勇者』の称号は長男ワーントが受け継いだと聞いているが、正式な発表がないと噂止まりだ。

 下手に調べようとすれば、怒りをかって逆賊扱いされかねない。

 過去に勇者の怒りをかった貴族が都市ごと滅ぼされた。

 これは真実だ。


 だからこそ誰も『勇者』と『勇者』になる可能性がある者には逆らうことはしなかった。


 本当は次女のフォーラを取り込む予定だったが、スリーフがフォーラと一緒にいたトゥルーを奴隷落ちさせたことで計画が変更になってしまった。


 勇者の血をヴェストニア法国が手に入れられるならどちらでもいいかと思ったとその時は思っていた。

 スリーフの横暴さは大司教や教皇の予想を超えていた。


 美しいシスターの殆どはスリーフに奪われてじった。

 おかげで大司教達が手を出せるシスターが少なくなってしまった。


 しかも勇者は「もう飽きた」「妊婦を抱く気はない」と子供のような言い訳で次々とシスターに手を出していった。

 既に身籠もってるシスターもいるが、本当に認知してくれるのか不安になってきていた。


 だがスリーフも女を抱いてばかりではなく、祓魔師と一緒に魔物や魔人退治をしてくれていた。

 スリーフの力は強力で大幅な戦力アップのおかげで国内は安定していった。


 武者修行というのも嘘ではなく、十何人もの祓魔師を殺した強力な魔物が現れたときもたった一人で倒してしまった。

 それも勇者の家系に受け継がれた伝説の武器『聖剣』のカケラを使った武器を所持しているもの大きい。

 『聖剣』は特定のスキルを持っていなければ力を発揮出来ない。

 例え一般人が『聖剣』を振るったとしても相手を斬ることは出来ず、自分が逆に斬られてしまう。

 

 だから『勇者』というのは特別で、この大陸にある国々は一国をを除いて勇者を手に入れたいと思っている。

 

 だからスリーフの暴虐武人な態度にも何も言うことはなかった。


 カーン大司教はスリーフが『勇者』の称号を手に入れることはほぼ諦めているが、その子供に可能性を掛けている。

 

 だからこそ何人もシスターをスリーフに紹介して来た。

 聖女ハルカも勇者との子供なら素晴らしい才能を持った子供になると期待している。

 出なければ折角何年も待った意味がない。

 わざわざハルカが産まれた家をでっち上げの罪で没落させたのだからな。

 あの体をたった一夜だけで手放すのは惜しいが、これも力を手に入れるためには仕方ないと割り切るしかなかった。

 ハルカには及ばないが、将来有望な少女は何人か教会内で育てていた。

 来年成人を迎える少女、まだ年齢が一桁の少女、自分の欲を満たすための材料は常にストックしてあった。


 カーン大司教は他二人の大司教を呼び、勇者スリーフと聖女ハルカの結婚について話した。


「聖女ハルカは諦めるしかないですが、他を楽しむとしましょう」


「まだ有望な少女はいますからね」


「今夜も楽しめると思っていたのですが、誰か代わりを用意しなくてはならないですね」


「偶には成人前の女性を誘うのはどうですか?」


「それなら私はまだ幼いあの娘を呼びたいと提案します」


「いやいや、娘よりも大人に熟成した体を楽しむことを私は提案します」


「熟成した体でも心が壊れかかっているあの祓魔師はどうでしょう」


 それぞれの大司教が自分の好みの女性を喋る姿は非常に気持ちの悪い光景だった。


「でしたら今日はそれぞれ一人ずつ楽しむのはいかがですか?」


「あまり大胆に動くのはよろしくないと前に決めていたはずですよ」


「いえいえ、それは私達だけで楽しむのには大胆に行動するのはよろしくないというだけですよ」


「どういうことですか?」


「今日の昼過ぎに神父と祓魔師達に飽きた子達を与えてやったのですよ。だから、いっそのことそのまま彼らにも楽しんでもらいましょう」


「なるほどあの子達の使い道としては十分ですな」


「捨てるには絶好の機会ということですね」


「これは祝福なのですよ。あまり酷い言葉を使わないで下さい。彼女達にも喜ばしいことなのですから」

 

 その日の夜はシスター、女性祓魔師として最大最悪の夜となった。

 祝福は日が昇るまで続いて何人もの女性が心を壊すことになった。

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