第106話 懺悔


「誠に申し訳ございませんでした!」


 フィーアは俺の前で土下座をしていた。

 

 回復を終えて目覚めたフィーアは俺を襲った時の記憶を無くしていた。

 アインスが魔槍を構えながら何があったかを丁寧に説明していた。

 自分が犯した罪がどれだけ重かったかも含めてだ。


 俺の傷は完全に癒えて傷跡も残っていないが、嘘偽りのないことちゃんと説明した。


「聞きたいことがある。お前は誰に何をされたかは本当に覚えてないのか?」


「申し訳ございません。教会内のパーティ会場で教皇を発見したのは覚えているのですが、その後の記憶はありません。敵に操られて主人に刃を向けるなどと、私は『魔王様の奴隷』に相応しくありません。どうかゼント様の手で私を殺して下さい」


 フィーアは俯いて顔は見えないが、ポタポタと涙が溢れているのは見えた。


「フィーアは自分が重罪人であるという自覚が薄いようですね。ご主人様の手で殺されるという幸せを得ようなどとよく言えましたね」


 いつもだったらここで口喧嘩が始まるところだが、今は何も言い返せないでいた。

 アインスが言っていたことは正しかったということか。


「死を望むというのなら私達が断罪してあげましょう」


「フィーアさんをやるのは気が引けますが、ご主人様に殺されるという祝福を受けさせるくらいでしたら、私も協力します」


「ドライもたべたほうがいい?」


 ツヴァイまで同じ考えなのか。

 もしものときのためにどう介錯してやるか考えておくか。

 

「さっき伝えた通りフィーアは殺さない。ただ罪はちゃんと償ってもらうからな」


「はい。どのような罰で受ける覚悟は出来ています」


「よしまずは…………」


 俺はフィーアにいくつかの命令をした。


「分かったな。今夜は休んで、明日の朝早急に行動に移せ」


「かしこまりました。この任務を確実にこなし、魔王様へ忠誠心を示してみせます」


「期待している」


 フィーアとの会話を終え、俺はアインスとツヴァイに向かって「側に来い」と言って、馬車の中で横になった。


 邪魔が入ってしまったせいでもうその気では無くなってしまったが、精神の回復様に気分良く寝るための施策は必要だ。


「「失礼します」」


 右側にアインス、左側にツヴァイを抱こうとしたがドライが間に入って来た。


「何をしている?」


「ご主人さまと一緒に寝る」


「そうか」


 反論する気もない俺は好きにさせた。


「では……私はこちらに失礼します」


 ツヴァイは左足に抱きついた。


 うーん。


 右腕に伝わる感触も悪くはないが、左足が一番気持ちいいというのは何か複雑だ。

 左腕は論外だ。


 フィーアに見張りをさせているのは少し問題があるが、ちゃんと回復させたから多分大丈夫だろう。

 魔人少女のことも気にはなったが、まだ俺の側で寝させてやる程のことはしてないからな。

 外でいいだろ。


 今日は色々ありすぎて疲れた。

 瞼を閉じたらすぐに睡魔が襲って来て眠りについた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 ここはどこだろう。

 高い天井だ。

 見たことある気がする景色だった。

 上体を起こして周りを見渡した。

 窓が明るく光っているから朝か昼だろう。

 頭の中がぼんやりとしていて意識がはっきりしない。


「ようやく目覚めましたか……あと十分寝たままだったら起こしていたところでした」


 声のした方を見ると若い男性祓魔師がこちらを見ていた。


「可愛い寝顔を見ているのも良かったですが、今のように美しい体を見ているのも最高です」


 祓魔師の視線は私の顔よりもしたに向いていた。


 私は下を向くとそこには何も身につけていない生まれたままの姿の私がいた。


「きゃあああ!」


 私は近くにあった毛布を拾って体を隠した。

 多分寝ている間は毛布がかかっていたが、起きたときに落ちてしまったんだ。


 想い人でもない異性に裸を見られたことに恥ずかしくなった。


「昨日のことは聞いてますよ。あんなことがあったのに初々しい反応をするのですね」


 私は昨夜起きたことを思い出した。

 赤かった顔から血の気がひいて青くなった。


「そそられますね。私もそういう気分になってきます」


 若い祓魔師は毛布に手をかけて来た。

 私は手に力を込めて抵抗した。


 毛布が少し浮いて胸や足が露わになっていった。

 祓魔師はもう片方の手で毛布の上から胸を鷲掴みしてきた。


「離して!」


「さすが教会で一番大きいだけありますね。私の手に収まりきりませんよ」


 私は手を引き剥がそうとするが、手は全く動かず男の力には勝てなかった。


 祓魔師は毛布と胸から手を離した。

 やっと解放されると思ったが、今度は私の両手首を掴んで仰向けに床へ押さえつけられた。


 私は上半身をばんざいされる姿をになり、毛布も剥がれて全てを曝け出さされてしまった。

 なんとか足だけは閉じた。


「聖女の体は美しいですね。このままいただてしまいましょうか。どうせこれから体を清めるんですからいいですよね」


 祓魔師は自分に言い聞かせて胸に顔を埋めた。


 気持ち悪い。


 昨夜のことごフラッシュバックしてきた。

 あれがまたくるのかと思うと涙が出できた。


「聖女様に何をしている!」


 いつの間にか男性祓魔師がもう一人入って来ていた。

 二人目の祓魔師は四十代ぐらい渋い顔の男性だった。

 私に覆いかぶさっている祓魔師の襟首を掴んで引っ張り殴り飛ばした。


「大丈夫ですか」


 殴った渋い祓魔師は顔を逸らしてなるべく体を見ないように毛布をかけてくれた。


「早く聖女様を連れて行くんだ」


 あとからシスターが三人入って来て私は囲まれて、素早く服を着せてもらった。


「ヤリテイ!聖女様に手を出すとは!貴様はどこまで落ちるつもりだ!」


「ガンバさんだって教皇様達が昨日何をしたか聞いてますよね。だったら私だっておこぼれを貰ったっていいじゃないですか。どうせこれか……」


「黙れ!それ以上喋ったら貴様を断罪する!」


 渋い祓魔師は腰にある杖を手をかけた。


「いいんですか?その杖を手にとったら断罪されるのはガンバさんの方ですよ」


「貴様程度に私が負けるとでも?」


「いえいえそういう意味ではありません。理由はこれから分かりますよ」


 若い祓魔師は立ち上がってヘラヘラと笑いながら出て行った。


 私は彼の言葉の意味が理解出来なかったが、渋い祓魔師は手で顔を覆っていて何か知っているようだった。


 シスター達に湯浴み場へ移動した。

 体のベタつくところが気持ち悪くて、早く流して綺麗にしたかった。


 既にこの身は汚され二度と治らない傷がついてしまったが、それでもなるべく綺麗にしたかった。


 もしかしたら魔王様が現れてくれるかもと信じているからだ。

 私が助かるにはもうそれぐらいしか考えられなくなっていた。


 入念に体を洗い終わると次は食堂へ案内された。

 そこにはもう全く人はいなく、私はパンと温かいスープをもらった。

 あまり食欲はなかった。


 普通ならこの後は仕事に取り掛からなければならないのだが、シスター達に案内されたのは昨夜親睦会が開かれたパーティー会場だ。


 中には昨日のパーティーのまま机や椅子が並べられていて、神父や祓魔師達が大勢いた。


「皆様やっと聖女ハルカが到着しました」


 舞台の上にはカーン大司教がいた。

 

 昨日のこともあって会場から逃げようと思ったが、両脇にいるシスター達に腕を掴まれて連行されるように舞台に上がった。


「ようこそ起こし下さいました聖女ハルカ」


 カーン大司教はニヤリに笑っていた。

 

「怯える必要はないのですよ。今日はグロース教会で働く皆さんにあなたのことを知ってもらうもらうだけですから」


 カーン大司教の言葉は絶対に私には理解できないことで恐怖しかなかった。


「やりなさい」


 カーン大司教が私の周りにいるシスター達に指示をだすと私のシスター服を脱がせにかかった。

 抵抗しようとするが、シスター達は服を破るような勢いだ。


 おおぉぉぉ!!!


 服を全て脱がされると男性達から歓声が上がった。

 私は生まれたままの姿でなるべく体を隠したくてしゃがんだ。


「立ち上がらせなさい」


 シスター達は左右と後ろに陣取ると私を無理矢理立ち上がらせて、体を隠せないように両手を広げさせられた。


 みないで!


 私は目を瞑って顔を背けた。


「ちゃんと貴方を見る皆さんの目を見なさい」


 後ろにいたシスターが顔を掴んで無理矢理正面を向けさせられ目を開かされた。


 みんな私に注目している。

 つま先から頭まで舐め回すように見る人、胸や股など一点をじっくりと見る人、全ての視線が気持ち悪くて仕方なかった。


 

 こんなにも大勢の男性に全てを曝け出させられるなんて地獄のようだ。

 彼を拒絶した。

 それはこんなにも重い罰だったのか。

 次に会えたらどんな事をしても彼を受け入れます。

 彼が魔王だろうが、大悪党と呼ばれていようが構いません。

 早く彼と会わせて下さい!

 彼の側にいることが出来れば……。


「さて、聖女ハルカには次の仕事がありますので移動して貰います。ですが、聖女を見た皆さんの心の中に祝福の心が増加していってますね。祝福は協力してくれたシスター達に与えてあげましょう」


「そんな!話が違います!」


「聖女を差し出せば私達を解放してくれるって!」


「もうあんなことはイヤです!」


「これは祝福なのですよ。安心しなさい貴方達の中に祝福の心が一杯になれば自然と解放の道へ進むでしょう」


 シスター達は逃げようとするがすぐに取り押さえらてしまった。


「さぁ!聖女ハルカのおかげで溜まった祝福の心を彼女達に分け与えるやりなさい!」


 カーン大司教が宣言するとシスター達は舞台から降ろさせれて男達に囲まれて見えなくなった。

 叫び声が聞こえるが、助けたいという気持ちにはならなかった。

 

「彼女達の体は飽きてきたところなんです。それに貴方の体に勝る人なんていませんから」


 カーン大司教は私の肩を抱いて来た。

 

「ここは貴方にはまだ早い段階ですから移動しましょう」


 カーン大司教が手を離すと今度は若い祓魔師二人が両手を押さえて無理矢理移動させられる。

 片方の祓魔師はさっき襲って来た若い祓魔師だ。

 私は裸のまま移動させられた。

 今度は何をさせられるかなんて想像したくなかった。

 何をすれば魔王様に会えるのか、そればかり考えるようにした。

 自分を助けてくれるの魔王様だけだ。


 彼のことを思っていれば正気を保っていられるからだ。

 前世で数少ないが彼と話したこと。

 この世界で見た魔王様の姿。

 どんな風に自分を助けてくれるのか。

 助けられた後は彼とどんなことをするのか。

  

 過去に想いを馳せ、未来を妄想することで頭の中が一杯になっていく。

 もう現実なんて見えなくなっていた。

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