第104話 選んだ道
ハルカがヴェストニア法国に転生したのはゼントが転生する15年前のことだ。
ハルカは赤ん坊から前世の記憶を持ったまま転生した。
名前は何故かハルカ・ホーラストという名前になった。
日本人の名前というのは異世界では珍しい名前だが自然とそうなった。
ハルカは女神様がそうしてくれたのだと思った。
さすがに苗字までは一緒ということは無理だが、これで少しでも彼と出会える可能性が上がった。
ゼントともう一度会いたいというのはハルカが女神に願ったどうしても叶えたい願いだった。
だから死んだゼントがどうしたのかも教えてもらって、異世界に転生することを選んだ。
ホーラスト家は下級貴族であった。
ハルカが10歳の時に没落してしまった。
両親は自分達の食事さえもまともに確保出来なくなり、娘であるハルカの幸せを願ってグロース教会に入れてもらった。
それはハルカにとって幸福であり、不幸の布石だった。
ハルカは優しい人間だ。
自ら進んで炊き出しに参加したり、光魔法の亜種『聖魔法』を習得し、回復魔法は魔物に襲われて命に関わるような重傷者を次の日には仕事が出来るまで回復させることが出来た。
ハルカはいつしか『聖女』と呼ばれるようになった。
その名前の意味には能力だけでなく見た目の美しさも入っていた。
そして運命の時は来た。
ハルカがもう一度会いたいと心の底から思った相手が目の前に現れた。
しかし、相手は『魔王』と呼ばれていた。
ハルカも勇者の物語は読んだことがあって『魔王』の悪行の数々を知っていた。
前世のハルカは二次元作品には疎かったが、転生した人が勇者となって活躍するアニメや漫画があることぐらいは知っていた。
幼い頃はもしかしたらゼントが勇者になっていて自分を迎えに来てくれるかもと期待に胸を躍らせた時期もあった。
この世界は残酷でそんな子供の頃の幻想が現実になるなんてことはなかった。
魔王ゼントの手をとることができなかった。
ハルカはベッドに横になりながら、今後自分はどうすればいいか分からなかった。
前世で子供の頃に見たアニメでは悪の心に染まった友達を主人公が改心させたのを覚えている。
あのアニメの主人公のように彼を改心させることが出来るだろうか。
どんな言葉をかけたらいいのか。
モヤモヤとした気持ちが心の中に広がっていく。
「やめて下さい!今聖女様は心を痛めているんです。そっとしておいて下さい」
部屋の前から大声が聞こえてきた。
「魔王と会ったのは知っている。だから大司教様はその心を癒してやろうと呼び出しているんだ。早く連れて来い」
「ですが……」
「これ以上抵抗するなら反逆罪、あるいは魔王に汚された心を『浄化』する処置を取らなくてならないが……それでもいいのか?」
「そんな……」
「『浄化』がどういうことなのかお前は知らないのか?」
「聞いたことはあります」
「なら早く選べ」
「…………」
「私をお呼びなのですね」
ハルカはドアを少しだけ開けて顔だけだした。
失礼当たる態度なのだが、さすがに寝間着姿を見せることなのできなかった。
ドアの前では20代後半ぐらいの神父と護衛のミリーが睨みあっていた。
「聖女様!」
「いいですよ。支度をしますので待っていて下さい」
「早くしろ。大司教様がお待ちだ」
「はい」
「私も手伝います」
「大丈夫です。ミリーは外で待っていて下さい」
「かしこまりました」
ハルカは着替えている最中に考えていた。
もう深夜という時間帯に呼び出すというのはどういうことだろう?
侵入者が魔王だったということでパーティどころではなくなり祓魔師達が忙しくしているのは知っている。
それでも心の整理をする時間が欲しい。
今日ぐらいはゆっくりしたかったが、大司教に呼ばれては断れるはず無かった。
自分が行かなくてはミリーを含めていろんな人に迷惑がかかるかもしれない。
それだけは避けたかった。
ハルカは自分のせいで誰が傷付くのを嫌っていた。
「お待たせ致しました。案内をお願いします」
神父はふんっと不機嫌な態度で歩きだし、ハルカと護衛のミリーがついて行く。
「お前は呼ばれていない。ついてくるな」
「私は聖女様の護衛です。お側を離れるわけにはいきません」
神父は少し考えると「すきにしろ」と答えた。
神父に案内されたのは大司教に選ばれた三人のみが使用を許されいる特別な建物だ。
見た目からも煌びやかとして特別な教会だと一目でわかる程だ。
聖女と呼ばれているハルカも中に入るのは初めてだ。
講壇の前には一人の神父福を着た50代ぐらいの男性が背中で腕を組んでいた。
ハルカ達はその男の前に並んで跪いた。
「大司教カーン様。聖女ハルカを連れて参りました。大変お待たせして申し訳ございませんでした」
「お役目ご苦労様でした。そちらは?」
「はい。聖女ハルカ様の護衛ミリーと申します」
「そうですか……すみませんが聖女と話がありますので席を外してください」
「えっ……」
「連れて行きなさい」
「かしこまりました」
ハルカ達を連れて来た男性は立ち上がり、ミリーの腕を引っ張って入り口近くにあったドアの奥へ連れて行った。
ミリーも大司教から命令では逆らうことなど出来なかった。
「聖女ハルカ。ここに呼ばれた理由は分かりますか?」
「それは魔王についてですか?」
「その通りです。これは大きな問題です」
「私は魔王に会いましたが、ミリーが守ってくれまして、何もされてはいません」
「いえ、『魔王と出会った』それが問題なのです」
ハルカは何が問題あったのかわからなかった。
「噂では魔王は美しい女性を次々とじぶんの奴隷にしているらしいです。オーストセレス王国の新女王も魔王の奴隷だといいます」
「そんな……」
奴隷がどのような扱いを受けるかハルカも耳にしたことがある。
彼がそんなことをしたなんて信じられなかった。
「魔王は必ずあなたを自分のものにしようとするでしょう……そうなる前にあなたには私達から祝福を受けて貰います」
後ろからバッとドア開く音がした。
ハルカが振り向くとなんと無念のあたりまで長く髭を伸ばした初老が二人の中年男性を連れて入って来た。
その初老の男性はヴェストニア法国聖皇だ。
つまりこの国のトップが幹部を連れて現れたのだ。
ハルカが驚き会いた口が閉じなかった。
「約束の時間より少々遅れましたかな。すまんね魔王が現れたことで色々と大変なんだよ」
「聖皇様にはわざわざ足を運んでいただき痛み入るばかりです」
「仕方ない。ことがことだけに場所は選ばなくてはね……この時をどれだけ待ったことか」
聖皇がハルカを見下ろす。
ハルカはビクンッと体が反応して強張る。
自分を見つめるその目には覚えがあった。
「それでは早速始めようか」
聖皇の言葉と共に教会の壁にかかっていた蝋燭がいくつか消えて、台の上の小さな蝋燭の明かりだけになった。
ハルカは怖くなって逃げ出そうとするが、後ろに控えていた二人の男性祓魔師がハルカの両手を抑えて動きを封じた。
「心配することはない。これは祝福なんだから」
聖皇がハルカに手を伸ばした。
ハルカは暴れて逃げようとするが、二人の祓魔師がそうはさせないと抑える力を強くした。
ハルカは迫り来る聖皇の顔を見た。
その目は前世で自分を強姦した大学生達と同じような目だった。
ヴェストニア法国の代表者ニアール教皇は独裁者として君臨していた。
三人の大司教達はそのおこぼれを貰っていた。
美しいシスターがいれば、皆の模範となるようなプロポーションをしているなどの理由から、裸の絵や彫刻マネキンのような物を作らせていた。
映魔鏡を使って映像も残していてシスターの弱みを握って脅迫して体を差し出させていた。
綺麗でない者には興味はなく、教会に入りたいと申し出る者には適当に寄付金を出させて薬草から作った回復薬などの身体にも心にも回復効果のあるものを持たせて帰らせていた。
その噂を信じた者はサラシなどで隠したりシスターもいたが、変に隠しすぎると怪しまれて服を無理矢理剥ぎ取られていた。
過去に一度強きなシスターが拒んだが、力尽くで無理矢理に犯された。
魔法で眠らされている間に信者達に輪姦させてその映像を残した。
次の日に本人と所属する教会の神父や信者達の前でその映像を流した。
「彼女は私達の導きによる女神様からの祝福を拒みました。その結果彼女は己の純潔を失いました。これは天罰なのです。女神様からの祝福を拒んだ異端者の末路をとくとご覧あれ」
シスターは叫び声を上げるが、教皇達はその反応も楽しんでいた。
「見るのも辛いでしょう、私も身を焦がす思いです。ですがこれが現実なのです。もう彼女のような異端者が現れないことを深く願います。そして天罰を受けた彼女にも新たなる祝福があることを祈ります」
それから信者の男達はシスター達へ向ける目が変わり、シスター全員が犯される対象となり、教皇や大司教だけでなく、その下の司教や新人神父までシスターに手を出すようになってしまった。
反対派がいないわけではないが、その人数は教皇派に比べれば一割にも満たなかった。
反対派の中にも信者達は教皇派になればいつか同じ思いが味わえると寝返る人もいた。
この国では人種差別のようなことはない。
だが男尊女卑が激しかった。
男は女性を性の捌け口の道具にしか思っていない人物が多くいた。
教皇も大司教も教会のシスターや子供達、悩みを持つ人々を解決させるために体を差し出させ続けた。
それは未成熟の男性を受け入れる準備も出来ていない女の子も容赦なく犯していた。
教皇はまだ幼かったハルカの容姿を気に入り、すぐに教会に向かい入れた。
だが、すぐに襲うことはしなかった。
それは美しい容姿と将来性を見せていた胸部にあった。
その部分は他の女性達よりも目立っていた。
これは成人になるまで純潔でいてもらい、成熟したその美しい体を犯そうと決めていた。
その性欲を我慢するためにそのときのハルカと同じ年頃の娘を襲っていた。
ハルカは今年で15歳になり成人となった。
教皇達はいつにしようか、場所はどうするか、どんなことをして楽しもうか、今後も楽しんでいくにはどうするかを話し合っていた。
そこに魔王の登場だ。
今回大丈夫だったが、次に魔王が現れた時にハルカが誘拐されるかもしれない。
そんなことになったら何年も待った意味がなくなってしまう。
そうされる前に魔王を追い払った安全な今夜に急遽決行した。
「助けてミリー!」
「無駄だよ。彼女も今頃は祝福を受けている」
「!!」
「それに今夜はもう場所近づかないように命令してありますからどんなに叫んでも無駄ですよ。例え声が聞こえて人が来たとしても貴方の味方をしてくれるとは限りません」
カーン大司教の言葉にもう何をしても無駄なんかと諦めかけるが、ハルカはどうやったら何とかして助かる方法考えるが全く思いつかなった。
頭の中で考えている間に服に手をかけられて、隠していた肌が露わになっていった。
もう教会関係者に自分を味方してくれる人は殆どいないのかもしれない。
だとしたら外部の人だが、誰がこんなとろこに来てくれるのか。
しかもこの国の代表者を敵に回すなんて。
一人だけいた。
十五年振りに再会した彼。
前世よりも顔は若かったがすぐに分かった。
毎日のように思い返していたから忘れるはずがなかった。
彼が助けに来てくれるかもしれない。
あの時のように命懸けで自分のことを助けてくれるかもしれないと期待したが、それはないとすぐに思った。
「貴方の果実は最高だ。こんなにも大きく成長しても崩れをみせない形、鮮やかな色、手に収まり切らず指の間から溢れる程の柔らかさ」
「シスター服でも隠しきれないこの至高の果実は見ているだけでも癒されます」
「細い手足や腰も美しい」
「この張りのあるお尻はさぞ健康な子供が産まれるでしょう」
「さぁ、みなさんで堪能しましょう」
これは罰なのだと思った。
私は彼を拒絶した。
その手を取ることが出来なかった。
彼が魔王だったから。
たったそれだけの理由で彼から離れてしまった。
もしあの手を取っていたら、今頃はこんな気持ちの悪い思いをしなかった。
心が幸せに満ちた気持ちになっていたかもしれない。
この胸だって前世と変わらないぐらいに成長して、彼が喜んでくれるかもと妄想したこともあった。
だが、今自分の胸に吸い付いているのは歳のかけ離れた気持ち悪い男だ。
この体を差し出すのは彼だけだと決めていたのにどうしてこうなってしまったのか。
純潔の証だって彼に捧げるつもりだった。
しかし教皇がそれを破ろうとして来ていた。
何とか抵抗しようにも手足や顔を抑えられて身動きが取れない。
彼のために準備してきたものがすべて汚されてしまった。
月明かりに照らされた少し光る窓を見た。
もしかしたら彼がもう一度来て助けに来てくれるかもしれない。
心の中で「助けて」と何度も願った。
目の前で順番に私を汚していく男達を倒して、御伽噺の王子様のように助けに来てくれるかもしれない。
けれど彼は現れなかった。
窓の明かりが無くなっていった。
月が雲に隠れたんだ。
そうだ。
彼は魔王なんだから明るいときは潜んで、暗くなった今こそ現れるんだ。
それでも彼は現れなかった。
また月が出て暗い時間が終わってしまった。
彼が来ないのに体の中には受け入れたくないものが何度も来た。
これは罰なんだ。
命懸けで助けてくれた彼を『魔王』と呼ばれていた、たったそれだけの理由で拒絶してしまった。
彼の言葉を何も聞かずに拒絶してしまった。
そんな私が彼のものになりたいだなんて、おこがましい。
体中を何度も汚されてしまった私でも彼は自分のものにしてくれるかな。
助けてください青島さん。
助けてください魔王さん。
いえ、魔王様。
あなたのものになれるのなら何でもします。
どうかこの地獄から一秒でも早く連れ出してください。
助けてください魔王様!
「聖女ハルカ……祝福が今夜だけで終わるだなんて思ってはだめだ。これから何日も続くので感謝しなさい」
「貴方に祝福を施したい神父は山程いますからね。勿論私達も手を抜いたりなんてしませんから」
「祝福を拒絶したらどうなるか……言わせないでくださいね。あなたの全てはもう私達のものなんですから」
魔王様……
わたしは……
あなただけのものになりたかった。
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