第101話 潜入前に
夕陽が沈みかけて、これから夜になろうという時間に俺とフィーアは森の奥で一人の若い神父を捕まえて尋問していた。
「それでお前が知っていることは全部か?」
「そうだよ!もう全部喋ったから解放してくれ!」
「どう思うフィーア?」
「まだ全部では無いです。教皇などの上層部のレベルやスキルなど祓魔師達についても吐いていないことが沢山あります……まだ、食べられ足りないようですね」
「仕方ないか」
「待ってくれ!俺はまだ入って一年も経ってないんだ!そんな人達のことなんて教えて貰ってないんだ」
「でしたらそれに変わる情報差し出しなさい。出ないと殺されてしまいますよ」
木に縛られた若い神父を置いて木の上に登って気配を消すと、若い神父の血の匂いを誘われてブラックフォックスの群れが寄って来た。
フィーア曰く、これが効果的な拷問方法だそうだ。
魔物に生きたまま食われるというのは、最も恐ろしい殺ろされ方だそうだ。
しかもこのブラックフォックスは手や足などから食べて、中々殺してくれないことで有名だ。
拷問するに最適な魔物だ。
さらに警戒心も強く、自分達より強いと思った奴には絶対近付かず逃げ出す。
だから、俺達が居なくなったことで若い神父を食べるために現れた。
左手の指は五本全部食べられ、右手もあと二本だ。
足も左は膝から下は無くなり、右足首が引きちぎられたところで、若い神父の絶叫がさらに強くなる。
このままだと死んでしまうな。
俺は木から降りてブラックフォックス達を睨んだ。
「去れ!」
ブラックフォックスは一目散に逃げ出した。
俺は直ぐに若い神父を治療してやる。
俺のレベルでやればこの程度の止血も、生きながらせることも容易い。
「どうだ何か思い出したか?何でもいいから喋れ、俺が納得するような情報を得られたら手も足も元通りにしてやるよ」
「はぁ……はぁ……」
「早くしなさい。また食べられたいのですか?!
「……いえ、その……私と同じ時期に入ったシスターの話なのですが……」
若い神父がした話は俺を驚かせた。
俺でも絶対にしないような酷い事件だ。
「それがお前が知っている一番の大事件らしいな」
「そうの通りです。これ以上の重要なことは何もしりません」
「分かった。約束通り治してやるよ」
俺は上級光魔法で若い神父の体を元通りに治して縄を解いてやった。
若い神父はここに来た時よりも手や足が軽くなったように感じた。
「行くぞ。フィーア」
「はい!ゼント様」
俺はフィーアお姫様のように抱えると飛び上がった。
「待ってくれよ!私はどうなるんだ?」
「自分の力で帰れ、魔物を倒せる力があれば無事に街に帰れるだろう」
「冗談はやめてくれ!約束が違うぞ!」
「そんな約束はしていない」
「え⁉︎」
「俺は『治療してやる』と約束はしたが『命を助けてやる』なんて約束した覚えは無いぞ。そうだよなフィーア」
「はい。ゼント様のお言葉に間違いなどありません」
「そんな……」
「恨むなら、神父のくせに娼館なんかに行く自分を恨め」
此奴を捕まえたのはこの街で一番人気の娼館の前だ。
奴隷達と食事(魔人少女を除いて)の後に一人で行ってみたら丁度お楽しみを終えた若い神父を見つけた。
このチャンスを俺が見逃すわけがない。
娼館は大通りから大きく外れた所にあるから、連れ去るのは容易かった。
一度宿によって拷問・尋問に慣れているフィーアを連れて森の深いところに来たんだ。
ここなら大きな声を上げたとしても誰も来ない。
死体の処理も魔物がやってくれるから楽だ。
神父が娼館に行くという罪を犯したんだ。
罪人を殺してやったんだ。
俺はなんて世間に優しい魔王なんだろうな。
そんなことも、両手で抱えているフィーアから感じる温もりですぐに上書きされた。
ハイレヴィゲンの門番には金貨を数枚渡しているので、記録上出る時も入る時も俺達は通ってなかったことになっている。
盗賊やスリュート伯爵から奪った物を監禁したり、フィンフから色々と貰っているので、金には全く困っていない。
金を湯水のように使えるなんて最高だ。
「「「「お帰りなさいませ。ご主人様」」」」
フィーアが開けた扉を潜ると奴隷達が一斉に跪いた。
今度は魔人少女も一緒だ。
アインスやツヴァイの教育の成果か。
念のために監視や盗聴しようとする奴等がいないことを確認して俺は奴隷達と教会侵入計画について話し合った。
三日後の深夜、フィーアと共に大きな教会『グロース教会』に向かっていた。
「情報通り見張りは少ないな」
「はい。このまま進みましょう」
若い神父から情報を得た次の日はフィーアと楽しみをお預けして、情報収集に専念した。
そこで今日が月の一度の教皇主催の親睦会が開かれることを知った。
つまりは飲み会だ。
なので、見張りなどのハズレクジを引く奴等は最低人数しか配置されてなかった。
侵入するにはチャンスだ。
だが、そうなると聖女も親睦会に参加するので接触するのは難しいのではないかと心配したが、聖女はそういう行事には全く参加しないらしかった。
近しい男性と接触するのを積極的に避けているそうだ。
俺にとっては都合が良かった。
誰にも染められていない聖女を魔王色に染めるというのは唆られた。
この情報は昨日路地裏で素行の悪い冒険者に襲われていた20代前半ぐらいのシスターを助けた後に楽しみながら聞いた。
そのシスターは楽しんだ後にバーのような店のマスターに預けた。
どうなったかは知らないが、金貨を数枚一緒に渡してるので、上手いことやってくれるだろう。
そのシスターがどうなるかなんて俺には関係ないので、忘れることにした。
俺に悪いような結果になったら店ごと潰すだけだ。
マスターもそれぐらいは分かってくれているだろう。
自分の命を掛けてまで俺を通報なんてしないだろう。
さぁ、聖女を値踏みしに行くか。
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