第96話 お別れ


 ムキツ達との話を終わらせ、俺達はドワーフ達の返事を聞きに広場へ来た。

 ドワーフ達の答えは既に決まっていたようで、騎士団に従って旅支度をしていた。


「お疲れ様です魔王様……御足労いただきありがとうございます」


「ドワーフ達は移転を決めたようだな」


「はい、全員オーストセレス王国への移転を決めました。今準備を進めているところです」


「そうか、ドワーフ達の技術力が加われば国が更に繁栄するな」


「はい!魔王様にはいくら感謝しても仕切れません」


「俺の国だぞ、国を豊かになるのは当然だ」


「そうでしたね。私も魔王様のお力になれるよう今以上に尽力させていただきます」


 フィンフはドレスの裾を摘んでお辞儀した。


 ドワーフが今後どうなるかなんてどうでもいい。

 使えるものは有効活用してやらなきゃな。

 散々使い倒してもボロ雑巾のようには捨てたりは考えてはいない。

 一応俺のモノになったから、それなりの扱いをしないといけない。


「俺達は明日の朝に出発する。アインス達にはその準備を進めさせている」


「そうですか、ヴェストニア法国へ向かうのでしたね」


「あぁ、遠回りしちまったが今度こそ真っ直ぐに進むつもりだ」


「分かりました。お別れするのは寂しいですか魔王様の帰りをお待ちしております」


 フィンフは笑顔で礼をすると仕事に戻った。


 さてと旅支度はアインス達がやってくれるし、俺は疲れを癒すためにゆっくりと過ごすか。


 宿に戻って世話係のムキツと人形一号、それに何故か失礼女姉妹までいた。


「何でお前達までいるんだ?お前らには明日までに旅支度を済ませろと言ったはずだ」


「そうなのですが……一度魔王陛下に謝罪をしたく時間をいただきたいのです」


 失礼女姉妹は並んで床に正座すると深く頭を下げた。


「魔王陛下の功績を知らなかったとはいえ、今までの度重なる失礼な態度に言動……深くお詫び申し上げます」


「申し訳ございませんでした」


「この子達もやっと魔王様の偉大さに気付いたようです」


 側で立っているムキツが前とは違って偉そうに喋っていた。

 俺への意識が変わったことで此奴等へと態度も変わったってことか。


「分かっているとは思うが、お前達には隷婢になれる価値はない」


「……はい」


「だが、その態度に免じて特別に人形一号と同じ立場にしてやる……ありがたく思え」


「ありがとうございます」


 名前は適当でいいか。

 本当の名前なんて覚えてない。


「お前が人形ニ号でお前が人形三号だ。俺が名付けてやるんだ。有り難く思え」


 此奴等のことは全然気に入っていない。

 どうせ俺から呼ぶことはないし、すぐに別れるからこんなんでいいだろ。


「何度も失礼を働いた者達へこの配慮……魔王様の慈悲深い心の広さに感服致しました」


 ムキツが顔を赤らめて浸っていた。

 こいつも最初とは違って凄く変わったな。


「ありがとうございます魔王様、これより魔王様を真の主として忠誠を捧げさせていただきます」


「よろしくお願いします」


 人形姉妹が深々と頭を下げた。


「なら、早速命令だ」


「はい、何でしょうか?」


「明日の準備をさっさと終わらせろ」


「……え、えっと……」


「何をしているのですか⁉︎魔王様からの命令ですよ!早く動きなさい!」


 人形ニ号はビクンッ!と驚きいたが、妹を連れてすぐに出て行った。

 多分、ムキツ達にさせていたことを自分にもされるなどど思っていたのだろう。

 悪いがお前達よりもムキツ一人と遊んでいた方がマシだ。


「邪魔者が消えたことだし……人形一号!」


「はい!」


 人形一号は呼ばれるとすぐに俺の目の前で膝をついた。


「紅茶とお菓子を用意しろ」


「かしこまりました」


「ムキツは俺の相手だ……分かってるな」


「はい!存分に魔王様を感じさせていただきます」


 ムキツの相手は意外と楽だ。

 あっちが色々と動いてくれる分こっちはただ任せるだけで済む。

 時々こちらから手を出すが、ムキツは触られるよりも触る方が好きなようで、俺の手をその豊満な胸で押さえ込み常に優位に立とうとしていた。

 普段は周りと比べて一歩引いている感じだが、こういう時は俺よりも前に出て来る。


 途中戻って来たキサラギとヤヨイも加わった。

 姉妹それぞれ別々の場所に抱きついてきた。

 ムキツは腰、キサラギは脚、ヤヨイは背中と姉妹それぞれ好みは別々だ。

 ムキツは触るのが好き、キサラギは蹴られるのが好き、ヤヨイは甘い言葉を聞くのが好きだ。

 一番精神的に辛いのがヤヨイだ。

 甘い言葉を言うのも聞くのも何度もやっていると精神的に参って来る。


 キサラギを蹴るのはもう慣れた。

 背中よりも顔や胸など仰向けになって踏まれるのが好きらしい。


 ムキツも足下を気にするのをやめて偶にキサラギが踏んでいた。

 姉を踏むことにもう迷いがない。


 その日は三姉妹を十分に楽しんだ。





 次の日の昼、ついに別れの時が来た。


「それでは魔王様、しばしのお別れとなりますが、お呼び頂ければどこえなりと馳せ参じます」


「魔王様に与えられた任務を必ずや完遂してみせます」


「約束のために……頑張ります」


「魔王様の武運をお祈りしています」


 フィンフと三姉妹がそれぞれ別れの言葉を告げて去って行った。


「俺達も行くぞ」


「「「「はい!」」」」


 アインスに御者を任せて出発した。

 久しぶりの馬車の旅だ。

 宿暮らしもいいが、これもいいな。

 旅行好きの奴の気持ちが分かる気がする。


 長い寄り道だったが、得るモノがあって良かった。


 強敵用の対策は必要だが、今は目の前の欲を優先しよう。


 奴隷達と楽しみながら聖女に会えるのを楽しみにしておこう。





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「手を出さないでよろしかったですか?あの者は代表の敵ですよ」


 執事服をぴっちりと着た男が資料を見ながら報告する。


「泳がしておけ……今の彼では私の敵にはならない」


 特に着飾りはしないが、高級な潤沢の黒いスーツを身を包んだ男は執事の報告書に対して野良犬の話でもしてるかのようだった。


「敵になれるならなって欲しいものだ……その方が楽しめる」


 男は薄気味悪い笑顔を浮かべた。

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