第91話 仕組まれた正義


 少し時間は遡る。


 

 ヤヨイこ救世主到着の報告を受けた俺は一人で聖槍の元に向かった。

 途中に出会った魔物達は適当に斬って倒していった。


 聖槍の前に着くと封印魔法を滅茶苦茶に無理矢理攻撃して破った。

 封印が解除された聖槍を抜いたら、地面の底から強い魔力を感じた。

 タール村の時と違って今回はすぐに出て来そうだ。


 俺は聖槍をアイテムボックスに仕舞うと急いで脱出するために走り出した。

 全力で走っている途中で壁や天井がどんどん崩れていく。

 生き埋めにされると流石に死んでしまう。

 風魔法と光魔法でスピードを上げるように補助する。


 出入り口が塞ぎかかっていたが、これは闇魔法で瓦礫を消してその一瞬の内に脱出することに成功した。


 強大な敵が現れてヤヨイ達はどう動くかな?

 戦うか、逃げるか。

 後者の方が俺にとって好都合だ。


 ツヴァイとドライには俺の指示があるまで待機を命じてあるし、ムツキとキサラギにもヤヨイが見える位置にいて命の危機が迫るまで助けることを禁止した。


 村の出入り口辺りでツヴァイとドライに合流した。


「ゼント様……あの魔物は伝説の……」


 ツヴァイもあの巨大な魔物の正体に気付いたか。

 俺も勇者の物語を読んだかいがあって、あの魔物については知っている。


「そうだろうな。彼奴等が何してるか見に行くぞ」


 反対側の出入り口の方へ移動すると、何人かのドワーフの死体を見つけた。


 そうなったか。

 予想の範疇で酷いがありがたい。


 ヤヨイの救世主は悪虐非道な奴らしい。

 前代表を指示してるドワーフを見つけたら殺す可能性が高いとは思っていた。


 ヤヨイは煌びやかに武装した男に押し倒されていた。

 豪華そうな装備から彼奴がこの部隊のリーダーっぽいな。


「でしたら、その美しい体を堪能しましょう。愛した人と繋がりながら死ぬなんて最高じゃないですか」


「もうお前なんか愛してないわ!離れて!」


「私は愛していますよ……ですから私の物になりながら死にましょ」


 男の「私の物」というのが俺に怒りのスイッチを入れさせた。


「そいつは俺のモノだ。手を出すんじゃねぇよ!」


 俺はムカつく男の脇腹を蹴っ飛ばした。

 地面を何回か転がった先にはツヴァイとドライがいた。


「殺せ」


「「はい」」


 ドライが大楯でメラードの頭を潰すとツヴァイが地魔法で地面の中に埋めた。


「どうして助けたの?」


「俺が正義の魔王様だからだ」


 俺は胸を張って言ってやった。


「俺は自分のモノは大切にすると決めている。お前が俺のモノである限り何度だって助けてやる。ちょっとの粗相ぐらい大目に見てやるさ」


 ヤヨイは不思議に思うような顔をしている。

 今はそんなに構ってやれない。


「魔王が正義を執行する!」


 これから俺を見下している蜥蜴野郎を殺さなくちゃならないからな。


「止めなさい!貴方が敵う相手じゃないわ!」


「引くわけにはいかない。さっきも言ったろ……俺は自分のモノを大切にすると決めている。俺が引いたら俺のモノが壊されてしまう。だから、絶対に引かない」


 俺はギガンツァーから頂いたシュヴェルトリーゼをシュラティールへ構える。


「そこで見ていろ。俺のモノであるヤヨイも守ってやる……俺を信じろ!」


 俺は光魔法でシュラティールへ飛ぶ。

 ヤヨイがどんな顔をしてるが分からないが、これで彼奴も俺に忠誠を誓うようなになるだろ。


 自分を助けてくれると思っていた相手から裏切られたところに颯爽と現れた正義の味方。

 これで彼奴もいい加減俺のモノとしてのありがたみが分かるだろう。


 奴隷と隷婢達にはあえて手を出させない。

 ここは一人で戦うから意味があるんだ。

 相手はあの巨大だ。

 それに巻き添えを食らう可能性がある。

 奴隷と隷婢達には自分とヤヨイの命を優先しつつドワーフも助けろと命令してある。

 ドワーフまで見捨てない心の広いところを見せつけてやる。


 俺はシュラティールに向けて水と風魔法で攻撃した。

 相手の皮膚が硬くかすり傷程度にしかならなかった。

 中級魔法レベルでこれか。

 レベル的にはギガンツァーよりは上だな。


 物語によるとシュラティールの攻撃方法は毒の牙、口からは雷を放つらしい。

 雷の魔法なんて俺はしらない。

 人間には使えない魔物特有の能力なのかもな。

 一度受けてみるのもありだな。


 だが遠距離攻撃を続けても一切反撃してこない。

 射程距離が案外短いのか?


 疑問に思うことはまだある。

 勇者の物語だとシュラティールの首は四つと書いてあった。

 あれはデマだったのか?


 俺は魔法での攻撃を止め、刀シュヴェルトリーゼに光魔法を込めてシュラティールの首目掛けて切り裂く。


 デカイ的だ。

 外す事は絶対にない。


 強化された刀シュヴェルトリーゼを上段構えから振り下ろした。

 多少の硬さは感じたが、簡単に切断出来てしまった。

 呆気ない幕引きだ。





 気を緩めた時、後ろの方から悪寒がした。

 振り向いてすぐ防御の姿勢を取った。


 切断したはずなのにシュラティールの首が再生していて俺を噛み砕こうと牙を向けていた。


 俺は牙に触れないように上顎を刀で、下顎を足で押さえた。


 何で再生してんだよ!


 原因と反撃の手段を考えていると、右方向からもう一つの頭が俺を襲って来た。


 俺は口の中に左手から中級火魔法フレイムボールを放った。

 自爆のようになってしまったが、その爆風で脱出には成功した。


 俺は改めてシュラティールを観察する。

 俺に吹き飛ばされた頭は再生を始めていて、更に首がもう一本生えて来て合計3本になっていた。


 頭を再生させる度に首がもう一本生えてくるとか、本に書いてなかったぞ!

 あれには勇者が首が4本ある巨大な魔物を倒したとしか書いていなかった。

 つまり、あともう一本増やせるということか。


 もしかしたらそれ以上増える可能性もあると考えておくべきか。


 面倒だな。


 奴を倒すには首だけじゃなくて、あの巨大シュラティールを丸ごと消滅させるだけの火力を出さないといけないのか。


 流星弾でも放てれば簡単に倒せるだろうが、それだと俺の奴隷と隷婢達も巻き込んでしまう。


 弱点を探してそこを攻めるとするか。


 こういう強敵との戦いは久しぶりだな。


 命が掛かっているのは分かっているが、やろうと思えば簡単に勝てるのに縛りプレイをするのもゲーマーの醍醐味の一つだ。


 楽しませてもらおう!

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