第89話 ムツキの欲望

「これがアインスとフィーアのネックレスだ」


 朝食を済ませた後で俺はアイテムボックスからツヴァイに渡した物とは色違いの指輪が付いたネックレスを取り出すと二人につけてやった。


「ありがとうございます!」


「一生大切にさせていただきます!」


「二人ともよく似合ってる」


「ご主人様が選んだものですから」


「素晴らしいセンスだと思います」


 アインスが赤い指輪で、フィーアが青い指輪だ。

 二人の髪の色に合わせた色だ。

 こういう時は大体髪の色やイメージカラーに合わせておけば大丈夫だ。

 一応ドライの分も用意はしてあるが、今はいないので渡せない。


「それで商人ドワーフの様子はどうだ?」


「今日のお昼前に出発するらしいです。今はドライが見張っています」


「ドライで大丈夫なのか?」


「一晩中寝ていましたし、食事も与えたので問題ないと思います」


 やはり、夜中のドライは見張りには向いてないか。

 9歳のやつにそんなこと出来ると思うやつはバカだな。


「ならその報告待ちだな。それまではお前達は寝て休んでろ。一晩中見張りをして疲れたろ」


「すみません。お言葉に甘えさせてもらいます」


「私も失礼いたします」


 フィーアとアインスは食器を片付けると早々と寝室に行った。

 体力的にも精神的にも大変だったろうからな。

 この後も働いてもらわなければならないから今は休んでもらおう。


「ツヴァイはどうだ?調子が悪いところはないか?」


「その……ゼント様のものがあるような感じがしますが……特に問題はありません。それに先程もゼント様のおかげで英気を養うことが出来ましたから」


「ツヴァイは見張りとかは出来るのか?」


「実戦でやったことはありませんが、フィーアさんから習ったことはあります」


「ふーん、ドライだけだと心配だからな。お前も行って来てくれ……ついでに飯も届けてやれ」


 アインスが食事をやったと言っていたが、腹が減って集中力が落ちるのは困る。


「それだとゼント様のお世話をする人がいなくなってしまいます」


「もうすぐムツキ達が来るから気にするな」


「分かりました。失礼致します」


 ツヴァイは立ち上がって一礼すると、キッチンで支度を始めた。

 ドライに渡す弁当を作ってるのだろう。

 最近のドライは大食らいだからな。

 その量を用意するもの大変だろうな。


 ツヴァイが出た後少し待っているとムツキとキサラギが来た。


「おはようございます。ご主人様」


「おはようございます」


 二人とも綺麗に一礼した。


「ヤヨイはどうした?」


「ヤヨイ姉様はドワーフの人達と用事がありまして……申し訳ございません」


「別にいい。だが顔ぐらいは見ておきたいし、何をやっているか気になるから案内しろ」


「えっと……その……」


「案内出来ない理由でもあるのか?」


「あの……それは……」


 ムツキは嘘をつくのが下手だ。

 何かを隠しているのが丸分かりだ。


「キサラギは何か知っているか?」


「秘密にしてって言われてます」


 こっちは色々とダメだ。


「それは!女性にとって秘密にしたいことなのです。決してやましい事はありません」


 セリフは真実っぽく言ってるつもりなのだろうが、目が全く合わない。

 ムツキが嘘をつく時の癖だ。


「やましい事がないのなら別にいいだろ。ヤヨイは俺のモノだ。俺のモノの事情を少しは知っておかなくちゃな」


「王子様は優しい」


 さぁ、どうする?


「えっと……ご主人様の今日のご予定はどうですか?また魔物狩りに行かれるのでしたら今日は私も同行したいです」


「今日は一日休日にする予定だ。偶にはゆっくり過ごす日も必要だからな」


 本当は違う。

 今もツヴァイとドライには働いてもらってる。

 俺だけがのんびりとしている。


「それでしたら……私と遊んで下さい」


「ムツキとか」


「キサラギお姉様もどうですか?ご主人様と一日中遊びませんか?」


「遊ぶ。王子様と一日側にいる。嬉しい」


 毎日側にいると思うがそれでも足りないのか。

 だが、折角の誘いだ。

 隷婢との中をもっと深めようじゃないか。


「それで、どうやって俺を楽しませてくれるんだ?」


「それは……えっと……わ、私の体を……ゼント様の好きにしてください!」


「好きにねぇ」


 ムツキは下げた両手拳を握りしめて叫んだ。

 それは魅力的で面白そうだ。


「賛成……私の体も好きにして欲しいです」


 キサラギの場合はただの俺に奉仕したいより自分の願望のような気がする。


「いいだろう。二人とも可愛がってやる」


 俺も実は昨夜の余韻が少し残っていて誰かで解消したいと思っていたんだ。

 丁度いい。






「ほら、ちゃんと力を入れろ……こうやるんだ」


「あぁん!」


「お前もやれ」


「はい……すみません」


「んんっ」


「謝るな。這いつくばりなさいって言うんだ」


「えっと」


「言え!」


「…………は、はいつくばりなさい!」


 パンッと肌と肌がぶつかる音がする。

 ムツキがキサラギの背中をえいっと踏んだ。


「どうだ?気分がいいだろ」


「王子様の方がいい」


「お前には聞いてない」


 俺はもう一度キサラギの背中を踏んだ。

 キサラギの口からあんっというムツキとは違う鳴き声が聞こえた。


「人を足蹴にするのは楽しいだろ」


「こんなはしたいない事を……」


「はしたなくて何が悪い、自分が楽しいと思っていば他人の気持ちなんて二の次でいいんだ」


「そんな……私は…….」


「お前は自分を犠牲にし過ぎだ。失礼女のために隷婢になり、あんな姉のために自分の純潔を捧げるなんで馬鹿げていると思わないのか?」


「私は……誰かの役に立つ事をするのを生き甲斐としてます。だから……」


「それが馬鹿げていると言っているんだ。誰かじゃない自分の役に立つことをしろ」


「私は……誰にも望まれずに産まれました。姉達と違って私だけ母が違います。勇者のとしての能力も全くありません。そんな私が自分のためになんて……」


「お前は何だ?」


「え?」


「お前は俺の何だ?」


「私はご主人様の……隷婢です」


「何故俺がお前を隷婢にしたと思う」


「それは、あの子の命を助けるために」


「違う。お前が欲しいと思ったからだ。俺はいらないモノの願いなど聞かない。必要ないお前の願いなど無視してまとめて全員殺してる。そうしなかったのはムツキが俺にとって必要だと思ったからだ」


「なぜ……私が必要だと思ったのですか?」


「勘だ」


「かん?」


「俺は自分の勘を信じてる。そのおかげで俺は勇者の情報を得て、キサラギとヤヨイを手にすることが出来た。キサラギも俺と出会えて喜んでいるぞ」


 俺にぐりぐりと踏まれて喜んでいるキサラギを見て、複雑そうな顔をする。


「お前はどうだ?自分の事をどれだけ信じてる?」


「私は……」


 ムツキは考えるが答えは出なそうだ。


「ただのお前じゃない。俺に必要とされた隷婢としての自分を信じろ。俺は隷婢としてのお前を必要としてるぞ」


「隷婢は、でも……」


「隷婢であることを誇りに思え!人形一号や失礼女は隷婢にすらなれない女だ。そんな奴等より俺はお前が必要だ。この世界で一番ムツキを必要としているのは俺だ!何故ならお前を隷婢にしたのはこの世界で俺一人だけだからだ!」


「でも、この世界で隷婢は……」


「俺は魔王だぞ。魔王の隷婢がそこらのくだらない隷婢と比べるな。魔王の隷婢は特別だ。お前は特別な存在なんだぞ」


「……魔王様は私のどこを特別に感じているのですか?」


「教えてやる」


 俺はムツキを抱きしめてキスをした。


「ムツキの魅力的な体はこんなにも魔王である俺を快楽へと導けるんだ。誇りに思っていいぞ」


 間近でみるムツキの顔は火照っており、俺と目を合わせようとしなかった。


「魔王に抱かれながらするキスは最高だろ」


「私の体は……あん!」


 俺はムツキの胸を揉みしだく。


「心も捧げるようになったらさらに良くなる。お前の全てを捧げれば、天にも昇るような気持ちになるぞ」


「今度はお前からするんだ」


「え⁉︎」


「早くしろ」


「はい」


 ムツキは背伸びして俺に口付けた。

 すぐに離れようとするが、抱きしめて許さなかった。

 一分以上離さなかった。


 唇を離すとムツキの顔はとろけるような甘い顔をしていた。


「次は何をしたい?何をされたい?」


「えっと……」


「自分の思いに正直になれ、姉達のことなんか忘れて心の衝動に従え!」


「はい!」


 ムツキは俺に口付けた。

 さっきと違うのは俺の頭を抱き寄せたことだ。


「自分の衝動に争わずにするのは気持ちいいだろ」


「まだ分かりません。ですので……いっぱい教えて下さい」


「そこは『欲しい』って言うんだ。欲望の思い通りに動け」


「魔王様が欲しいです!」


「やっと言ったな……お前は自分の欲しいモノのために何を捧げる?」


「私の体は既に魔王様のモノです。これからは心を捧げます」


「ならその証としてお前の好きなようにしろ」


「好きなようにですか?」


「お前がしたいと思った通りにすればいいんだ」


「分かりました」


 ムツキは俺の腕を掴むと両胸で挟んで体を擦り付けた。


「魔王様の腕……気持ちいいです。魔王様はどうですか?」


「最高だ」


「ありがとうございます」


 腕がねじれて少し痛いが、それ以上の気持ちよさがムツキの体にはあった。


「王子様……私は?」


 四つん這いになっているキサラギが見上げながら聞いてきた?


「外に出ていろ」


 今は邪魔だ。


「……はい」


 キサラギは見るからにしょんぼりした態度でドワへと歩く。


 しょうがないな。


 俺は片方の靴を脱ぐとキサラギの背中目掛けて蹴っ飛ばした。

 当たった衝撃でキサラギは少しよろめくと転がった靴に目を向けた。


「それを使って一人で慰めていろ。だから邪魔をするな」


 ムツキは靴を拾って匂いを嗅ぐと「ありがとうございます」とすぐに部屋を出た。


 あんなのがいいのか?

 やっては見たが、本当に理解が出来ない。

 もう放っておこう。

 今はこっちの方が重要だ。


「それだけでいいのか?腕だけじゃなくて特別に俺の体を好きなようにしていいんだぞ」


「それでしたら……横になってもらえますか?」


「いいだろう……だがその前に相応しい格好があるんじゃないか?」


「すみません。少々お待ちください」


 ムツキは今までと違って、早くに裸になりたかったと言わんばかりに乱雑に服を脱いだ。

 自分の服を畳もせずに放置して俺の服を脱がしにかかった。

 俺が言わなくても分かるようになったか。


 お互いに裸になるとムツキは覆い被さるように体を密着して俺の胸板に顔を埋めた。


 俺の体はレベルのせいか16歳と思えない程大人びて整っていた。

 ちゃんと胸板もあって、腹筋も割れていた。

 ムツキは顔をスリスリしたり、ペタペタと手で触っていた。


 そこからは俺は手も足も最小限にしか動かさず、ムツキの好きにさせた。

 ムツキは今まで貯めてきたものが爆発したかのようにずっと動いていた。

 意外に責められるより責める方が好きなのかもな。

 俺の予想で「これをして欲しい」「それをください」と強請るんじゃないかと思っていた。

 いい意味で予想を裏切ってくれた。


 ムツキが俺に馬乗りになっているところを部屋に入って来たツヴァイが目撃したところで終了……しなかった。


 ツヴァイも参戦しようとしたが、眠りから目覚めたアインスとフィーア達によって止められて強制終了した。

 ムツキはアインスとフィーアが止めるように指摘するまで続けていた。


 俺はツヴァイから商人ドワーフが動いたという報告を受けて急いで着替えた。

 掃除などの片付けはムツキに任せてアインス達と移動した。


 廊下でうつろな目になっていたキサラギについては誰も触れなかった。

 ムツキですら視界に入っていないような態度だ。

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