第88話 甘い夜と甘くない朝


 入浴と飯を済ませて宿に帰ってきた。


「それでフィーア、アイツらはどうだった?」


「ゼント様の予想通りです。ドワーフの中で商人をしている者に何やら文を渡していました」


 フィーアには今日一日ヤヨイを見張って貰っていた。

 絶対にバレない距離を保って、だいたいでいいから何をしているか探ってこいと命令した。


「そのドワーフの予定は?」


「すみません。そこまでは……」


「なら今からアインスとドライと交代でそのドワーフを見張っていろ。そいつが村を出た後に捕まえる。殺すなよ。無力化するだけだ」


「ドライもですか?」


「出来るだろ」


「できます!」


 返事はいいが、期待はしないでおこう。


「見張りの件は了解いたしました。あの愚か者の処分はどういたしますか?」


「まだ泳がせておけ。あいつにどんな企みがあるか楽しみだ。自分の思い通りになってることが、実は俺の掌の上で転がっているだけだと知ったヤヨイの絶望の顔が楽しみだ」


「そうですか……もし処分を下すようでしたら私にご命令下さい。ゼント様のモノになることを拒否することがどれ程の罪か、この世のあらゆる拷問を与えて分からせてやります」


「ご主人様。その時は私にもご命令下さい。産まれて来た事を後悔させる程の苦痛を合わせた後、ツヴァイに回復させながらドライに生きたまま食べさせます」


 どんだけヤヨイを殺したいんだよ。


「ツヴァイとドライもいいのか?」


「ゼント様のご命令ならばやります」


「食べます!」


 二人ともやる気十分だ。

 もしもの時は本当にそうしてもらおう。

 その後にムツキとキサラギがどんな事をするか想像出来ないが、隷婢である限り俺に逆らうことはない。

 自ら死を選ぶ可能性があるから、それだけが懸案事項だ。


「もしもの時は頼むことにしよう。だが命令あるまでは手を出すなよ」


「「「「はい!」」」」


 人殺しに対してすごいやる気だ。

 俺もヤヨイの態度が変わらないままなら、殺すことも仕方ないと思っている。

 そうならないことを願う。


「じゃあ、フィーアとアインスとドライはドワーフの商人のことを頼んだぞ」


「「はい!」」


「あのーゼント様。私は何をすれば良いでしょうか?」


「ツヴァイは今夜俺の相手をしろ」


 !!!


 ドライ以外の奴隷達が目を見開いて驚いた。


「分かったな?」


「…………はい。分かりました」


 ツヴァイは左右に目を移動させた後、意を決して頷いた。


 俺の言葉の意味をちゃんと理解したようで良かった。


「おい、早く動け」


「は⁉︎申し訳ございません。行きますよドライ」


「はーい」


「返事はちゃんとしなさい」


 三人は夜の闇に消えていった。

 ドライを連れってもらったのは、ツヴァイと二人きりになりたくて邪魔だったからだ。


「風呂はもう済ませたし、さっそく寝室へ移動するぞ」


「はい」


 ツヴァイは俯いたまま返事をすると俺の後ろをついて来た。

 部屋に入ると俺はツヴァイを抱きしめた。


「怖いか?」


「はい……でも……ゼント様なら怖くなくなる筈です」


 ツヴァイは俺の背中に回した手をギュッと力一杯握った。


「無理そうなら止めてもいいぞ。お前との約束だからな」


「いえ……その……あ、あのっ……私もゼント様のことが……すきですからっ‼︎」


 ツヴァイ絞り出すように一生懸命言葉を繋いで、俺にキスをした。

 唇が触れるだけのフレンチなものだ。

 あのツヴァイが自分からキスして来たことに俺は嬉しさと同時に興奮してきた。


「これで……私の気持ち……伝わりましたか?」


「あぁ、十分すぎるぐらいに伝わった。次は俺からお前にプレゼントがある」


 俺はアイテムボックスの中から銀の指輪がついたネックレスを取り出してツヴァイの首につけてやった。

 オーストセレス王国で既に準備はしていた。


「本当は正式に結婚してからしてやる約束だったが、婚約ということで許してくれ。それにお前の方からキスして来たってことはお前から誘って来たことになるよな」


「えーと……はい!私から誘いました!」


 俺とのツヴァイから誘って来るまで待つという約束という手前、そういうことにしておく。


「ゼント様は本当に……私でいいのですか?」


「お前がいいんだ。ツヴァイの全てが欲しい」


 ツヴァイは涙を流しながらネックレスについた指輪を見つめていた。

 数十秒浸っていると、不意にはっと目が冴えた。


「えっと、次は服を脱いで……いや違う……脱がせる?脱がせてもらう?」


 ツヴァイをが服を掴んだり離したり頭の中がぐるぐるしていた。


「まずは自分の服を脱ぐんだ。その後に俺の服を脱がせ……分かったな」


「ありがとうございます」


 ツヴァイはせっせと自分の服を脱いで裸になった。

 身につけているのは指輪だけだ。

 一緒に風呂に入ったりしてるから、抵抗が薄れていた。

 俺の服をいつも通り脱がしていく。

 いつもだと俺の裸を見ると毎回顔を赤くするが、今回はお互いが裸の状態だ。

 いつもよりも真っ赤に染まっていた。


 ツヴァイの視線は俺の下半身に向けられていた。


「そんなに気になるか?」


「いえ、その……」


「まずはこっちからだ」


 俺はツヴァイに熱いキスをすると、抱きしめたままベッドに倒れ込んだ。


「俺を受け入れろ。お前の全てを使って」


「私の全てはゼント様のモノです。お好きなようにして下さい」


 俺は今まで溜めていたものを全て吐き出した。

 フィンフに貰った避妊の薬を飲んだが、もしかしたらそれを上回るかもしれない。

 しょうがないと思う。

 それだけツヴァイの体の全てが最高だ。

 ツヴァイの体力が持つまで俺たちは求め合った。

 深夜の内にツヴァイが笑顔で気を失ったところで行為は終わった。

 俺の腕の中で眠るツヴァイは天使のように可愛いく寝ているツヴァイを襲いたい衝動に駆られていた。

 だが、今のこいつの眠りを妨げることは俺でも出来ない。

 そう思わせるぐらい素晴らしい寝顔だ。


 俺はツヴァイの額に唇を落とすと眠りについた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 目覚めると天使と悪魔がいた。


 左腕の中には天使、右にはそれを見つめる悪魔……もといフィーアがいた。


 その表情は般若のようだ。

 一晩中足手まといを抱えながら見張りをしていて精神を擦り減らしているのに、一方では幸せの絶頂にいたんだ。

 怒りが込み上げて来て当然か。


「ゼント様。すみませんがツヴァイに用があるので起きてもらってもよろしいでしょうか?」


「分かった」


 俺はそっとツヴァイから左腕を抜こうとしたが、ツヴァイが腕を掴んで離そうとしなかった。


 その行動がフィーアの怒りさらに上長させることになる。


「失礼します」


 フィーアはツヴァイの腕を掴むと無理矢理俺から引き剥がしてベッドの下に叩き落とした。


「いたっ!」


「いいかげん起きたらどうなの!ゼント様迷惑をかけなるんじゃないわ!」


 別に迷惑ということはなかった。

 ツヴァイが側にいる間、初めて会った時よりも成長した胸が当たっていて良い気分だった。


「すみません。わたし……その……」


「落ち着け、初めてだったんだ。みんなも最初はそんな感じだったんだ。フィーアもそれ以上怒るな」


「はい」


 不満そうだが、俺の言葉には納得するしかなかった。


「着替えと飯はどうなってる?」


「食事はムツキ達が準備しております。今日のお召し物はこちらに用意してあります」


 用意周到だな。

 徹夜で仕事をしていたんだから手を抜いてもいいんだぞ。

 と一度思ったが言葉に出す気はなかった。

 そんなこと主人が口にすることではないからだ。


 俺もベッドから降りて移動しようとすると、ツヴァイが俺の足を掴んだ。

 服を着ていたら裾やズボンを掴んでいたろうが、何も来ていなかったのでそこぐらいしか掴むものがなかったのだろう。


「待ってください……どこにも行かないで下さい……もっと側にいたいです」


 ツヴァイが俺の足を両胸で挟むように抱きついて来た。

 最近俺の足を好きなやつが増えすぎだろ。


「そういう行いが迷惑をかけているのよ!」


「別に迷惑ということはない。これが案外いいらしいぞ……フィーアもやってみるか?」


「え⁉︎そんな……」


「遠慮するな……早く来い」


「では、お言葉に甘えて……」


 手に持っていた俺の着替えをベッドの上に置くと、しゃがんで抱きつこうとしたが隣のツヴァイを見て手を止めた。


 やらないのか?


 フィーアは服を脱いで上半身だけ裸になると俺の左足に抱きついた。

 何の対抗心として服を脱いだのかしらないが、その方が感じられるだろうな。

 俺もその方が気持ちいい。

 できれば足じゃない別の場所がいい。


「これは……ほどよく引き締まっていて、肌触りも匂いも良いです。どうしましょう……キサラギの気持ちが分かってしまうわ」


「私もです。この足になら例え蹴られてもいいと思ってしまいます」


 二人は頬、手、胸と俺の足を味わうようにスリスリしている。


 変態が二人増えてしまった。

 俺の足にはどんな恐ろしい魔法があるんだ?


 バンッ


 部屋の扉が勢いよく開き、アインスとキサラギが立っていた。


「キサラギ!ご主人様がいるのにそんなことをしたら失礼ですよ!」


「嫌な予感がした……私の勘はよく当たる……予想通りだった」


 アインスは信じられないものを目にしたかのように驚いていた。


 そうなるだろうな。

 裸の男の両足に二人の女が抱きついているんだからな。


 ツヴァイとフィーアもアインス達の方を見て驚いていたが、俺の足を離そうとはしなかった。


「私の特等席を取られた」


「俺の足は俺のものだ。お前が勝手に決めるな」


「すみません」


「食事の準備は既に出来ています。着替えもまだなようですし、その変態達は置いて行きましょう」


「そうだな」


 バッ!バッ!


 俺は二人を蹴るように引き剥がした。


「蹴られてみましたが、キサラギの気持ちは全く分かりませんね。何故あんなにも嬉しいのでしょうか?」


「そうですか?私は偶にはいいかなと思います」


 アインスとフィーアがツヴァイから少し離れるのに対し、キサラギがツヴァイの手を握った。


「同志」


 キサラギは仲間を見つけられて嬉しいようだ。

 ツヴァイの方は一緒にされたくはなさそうだが、俺から見れば同類だ。


「早くしろアインス」


「すみません。失礼致します」


 アインスが俺に服を着せる。

 最近はムツキにやらせてたから久しぶりで嬉しいだろう。


 下着とズボンを着せる時にアインスが俺の足に注目していた。


「アインスも試してみるか?」


「え⁉︎」


「仰向けになれ」


「それは……」


「なれ!」


「はい」


 俺はアインスの平たい胸を軽く踏み付けてやった。


「気持ちいいか?」


「いえ、私にはそういう趣味はないので……ですが……ご主人様の望みなら全力で受け入れます」


「俺にもそんな趣味はない」


 やはりアイツらがおかしいんだ。

 俺は正常だと確認出来た。


「悪かったな。大丈夫か?」


「大丈夫です……あ⁉︎」


 俺はアインスをお姫様抱っこしてやった。


「さっきの詫びだ。このままリビングまで移動してやる」


「……恐縮です」


 部屋を出る時に後ろから「羨ましい」という声が三人分聞こえたが、お姫様抱っこに対してだろう。

 絶対そうに違いない。

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