第83話 奴隷オークション
「キサラギ、お前はどうやって奴隷になったんだ?」
「スリーフ兄に売られた」
「スリーフ兄様が⁉︎」
ムツキが驚きの声を上げた。
「誰だ?」
「二番目の兄です。ご主人様」
アインスがこっそり教えてくれた。
「ふーん、兄弟仲悪いんだな」
「私達姉妹の仲はいいのですが、スリーフ兄様は誰よりも勇者という称号に執着しているんです。それでワーント兄様とも何度も衝突しています」
勇者が誰とかはどうでもいいや。
関わらないなら放っておくし、殺しにくるなら殺すだけだ。
「私が旅に出たのもスリーフに兄様にある噂が立っていまして、その調査のためだったのです」
「噂?」
俺は全く知らない。
「スリーフ兄様が勇者の称号を手に入れたという噂が立ったのです」
「けど、それは違った」
「勇者の称号を手に入れたのは嘘だったということか?」
「はい。スリーフ兄はヴェストニアで勇者を名乗っているだけで、勇者の称号を手に入れてはなかった」
「どうしてそれが分かったんだ?」
「それは既にワーント兄が勇者の称号を得ているからです。スリーフ兄が勇者を名乗って活動していてその真意を確かめるまでは告知は控えているのです」
「そうなのですか⁉︎」
「うん。ムツキには内緒にしてって言われてたけど、もういいよね」
こいつらの家の事情、面倒そうで理解しようとする気も起きない。
「それはもういいや。キサラギが捕まった時のことを詳しく教えろ」
キサラギの話し方だけだと時間がかかったが、なんとなく分かった。
まとめると、ヴェストニア法国でお見合いを終わらして、マクセルフ教会で祝福を受けようとした時、教皇がこれが祝福の方法だとキサラギの身体を求めた。
勿論キサラギは全力で拒絶した。
姉のトゥルーが騒ぎを聞きつけてキサラギを助け出した。
しかし、逃げた先に兄のスリーフが現れた。
二人は助けに来てくれたのだと思ったが、スリーフに不意打ちをくらって捕まってしまった。
その後二人は離れ離れになり、キサラギは野蛮な女だと言われ奴隷に堕とされてミッテミルガン共和国で売られることになった。
性的な行為については処女の方が高く売れるということで貞操は守られた。
「ひでぇ兄だな」
「前はそんなことをする人じゃなかった」
「その姉はどこに行ったんだ?」
「分かりません」
キサラギを見るからに落ち込んでいた。
自分のせいでこんなことになってしまったと思っているのだろうか。
特に慰めようとは思わない。
俺はこれは使えるなと思った。
「体を許さなかったのは褒めてやるが、その姉が捕まったのはお前のせいだ。分かっているな」
俺は立ち上がり、軽くキサラギの横腹を蹴った。
蹴る動作をしただけで、全く力を入れて無かった。
キサラギは自分から転がって仰向けになった。
俺はキサラギのお腹に足を乗せた。
踏んではいない軽く触れている程度だ。
なのにキサラギは嬉しそうだ。
目がもっと力を入れてくれと言っている気がしたが、冗談だと思いたい。
俺が本気を出したら貫通してしまうかもしれないぞ。
女を踏みつけるのが案外楽しいと少し思ったが相手は選ぶ必要はある。
「お前は罰を受けなくちゃな」
「王子様の好きにして」
そんな顔を熱らせながら言うな。
「ゼント様、戻りました」
フィーアは目の前の光景に驚き、キサラギ睨んでいた。
どういう意味を含んだ目なのかは分からない。
「ご苦労だったな。あれは手に入ったのか」
「はい。こちらです」
俺は数枚の紙を受け取って椅子に座り直した。
一瞬キサラギが残念そうな顔をしているように見えたが無視した。
「ご主人さまー、それなにー?」
ドライが後ろから覗き込んで来た。
ツヴァイが離そうとしたが、別にいいと手で合図した。
「これは奴隷オークションに出品される奴隷のリストだ」
「また、ドライの仲間増えるの?」
「さぁな。それだけの価値がある奴がいたらな」
俺は奴隷のリストを見て行く。
名前とどういう人物が書いてるだけだ。
当たり前だが、顔写真はない。
見た目を気にする俺は直接見に行くしかないようだ。
「ゼント様。奴隷オークションを襲った人物については捜索はしているようですが、ゼント様だと気付いている様子はありませんでした」
「それは良かった」
「ゼント様自ら攫ったのです。失敗する筈がありません」
「フィーア。攫ったというのは間違ってます。ご主人様が自分のモノにすると決めた時点でキサラギはご主人様のモノですよ。攫うのではなく返して貰うというのが正しいです」
また何か始めてる。
もう放っておこう。
一応、どういう人物かのチェックはしているが、特に気になるような奴隷はいなかった。
最後のページを見るまでは。
「フィーア、こいつは本当に出品されるのか?」
「はい。盗んだ資料に間違いはありません」
俺の言葉に言い争っていた二人はすぐに口喧嘩を止めた。
「そっか、良かったな。お前達の姉が見つかったぞ」
「え⁉︎」
「…………」
俺は捲られたページを二人に見せて、一つの名前を指差した。
そこにはトゥルー・サトウの名前が書かれていた。
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奴隷オークションは夕方から開催された。
参加資格は金が払えるかどうかだ、
予算が金貨30枚以上あれば問題ない。
俺は100枚の金貨が入った袋を見せたら、笑顔で通してくれた。
フィンフに貰ったものではない。
オーストセレス王国でスリュート伯爵から奪った物を全部売ったら、200枚以上稼げた。
無くなったら、フィンフにせびればいいだけだ、
奴隷のモノは俺のモノだ。
オークション会場には俺とアインスとフィーアの三人で乗り込んだ。
こういう救出作戦には大人数の乗り込んで騒ぎを大きくして撹乱させたりするのがいいかと思ったが、いま用意できる人材は十人もいない。
仕方ないので三人で行くことにした。
念のために屋台で買った絵本に出てくる勇者を模したお面をつけて行った。
特に浮いているということはなかった。
周りには私情をばらされたくない人が多く、仮面を付けるのは珍しくはなかった。
開場から一時間くらいでほぼ満員となっていた。
「皆様。大変長らくお待たせ致しました。これより人材派遣オークションをはじめさせていただきます」
拍手と笑い声が混ざり合った。
奴隷オークションとは大声で言うのではなく、あくまで仕事を紹介しているということらしい。
正直どっちでも同じ意味なのでどうでもいい。
「それではエントリーNo.1出て来てください!」
手錠を鎖で繋がれたドワーフが出て来た。
「鍛え抜かれた体は数多の戦場を生き残って来た証、さぁ金貨10枚からスタート!」
そこから15、20と金額が競り上がって行く。
男の奴隷に興味などないので早く終わって欲しい。
「エントリーNo.6出て来てください!」
おおおおぉぉぉぉぉぉ!
今度の奴隷はなんとエルフだ。
初めて見たが、その見た目は美しいという言葉がよく似合う。
175cmはある身長に体も腕も脚も細い。
痩せ細っているという印象は受けない。
長い緑色髪や切長の目など一つ一つのパーツに美しさがある。
残念なのがこれが男だということだ。
男でもこの美しさなんだ、女だったらどれ程美しいのか楽しみだ。
今回出品されているエルフはこの男だけだ。
やはり欲しいモノは自分の手で手に入れるべきだ。
今からそれを証明させてやる。
それからは人属や獣人など様々な奴隷が出て来たが、俺が気に入るようや奴はいなかった。
最後の一人を除いて。
「皆様。次が最後のエントリーになります。あの有名な勇者の末裔!その美しさと強さは折り紙付き!用心棒としても優秀、性奴隷としても最高でしょう!さぁ、出て来てください!」
その女は首と手を長方形の木の枷を付けただけで、それ以外は何も無く、裸で出てきた。
口は布でを巻かれて喋ることは出来なかった。
170cmの身長に腰まで伸びた艶のある長い黒髪を揺らしながらゆっくり歩く。
鍛えられ引き締まった腕と脚、フィーアと同じくらには大きい胸は歩く度に揺れて男どもを誘惑している。
一つ一つのパーツが芸術品のようだ。
気に入った。
その身体の美しさもだが、目が死んでいなかった。
今までの奴隷はもう諦めたような目をした奴が殆どだったが、こいつは一番目に熱がこもっていた。
「行くぞ」
俺が立ち上がるとアインスとフィーアも立ち上がった。
舞台に向かって走り勢いよくジャンプしてキサラギの姉の横に着地した。
アインスとフィーアも俺の左右斜め前に着地した。
ちゃんと俺に被らないように絶妙な位置だ。
こいつらのこういうところが俺は好きだ。
「我こそは真の勇者の後継者である!偽物とはいえ、勇者の子孫を名乗る者を見過ごすわけにはいかない!故に、正義を執行する!刃向かう者は正義の心が分からぬと知れ‼︎」
俺はギガンツァーから手に入れた刀シュヴェルトリーゼをかざしてカッコつけた。
美人の偽物勇者を手に入れよう。
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