第82話 奴隷達の勉強と変化


 ゼントがオーストセレス王国を自分のモノにした数日後、キサラギは見合いとマクセルフ教会で祝福を受けるためにヴェストニア法国に呼ばれていた。


 付き添いとしてトゥルーが同行していた。

 トゥルーには既に婚約者がいる。ただただ妹が心配でついて来ただけだ。

 婚約相手はミッテミルガン共和国内で侯爵の嫡男だ。つまりは政略結婚だ。


 祝福だけ受けて見合いを保留にしようと考えていた二人だが、ヴェストニア法国で待っていたのは二人が予想もしない出来事だった。


 見合い自体はマクセルフ教会所属の若い司教だった。

 若いと言ってもそれは教会内部で若いということで年齢は30歳だ。

 18歳のキサラギにとっては高すぎる年齢だ。


 しかし、勇者の子孫との婚約となるとそれなりの地位を持つもので無ければ世間的に相応しくない。

 なので、必然的に年齢は高くなってしまう。


 キサラギの本心は断りたかったが、サトウ家現当である父親の命令に逆らうことなど許されなかった。

 不安な気持ちを少しでも晴らすように小さい子供が読む有名な絵本を何度も読んだ。



 絵本の中には政略結婚の道具として使われようとしていた貴族の娘を連れ出した男が主人公だ。

 連れ出した男は娘の護衛役だった。

 男が連れ出した理由、それは娘がまだ年齢が一桁の小さいころに結婚の約束をしていた。

 娘が自分のモノ以外になるのが嫌だったからだ。

 娘はそんな約束を覚えていないのかもしれない。

 それでも男は自分の生きる意味である娘が誰かと結婚するなど嫌だった。

 連れ去る時に娘が男との約束を覚えていた時、男は涙を流した。

 男と娘はいつまでも一緒にいたいという希望を持って逃げ続けたが、最後には娘の婚約者に殺されてしまった。

 娘も男の後を追うように毒を飲んで自決した。


 子供が理解するには難しい内容だが、キサラギには護衛役の男が女の子が憧れる王子様のように思えた。


 自分の前にもこの絵本の主人公のように連れ出してくれる男性がいないかと妄想を膨らませていた。


 絵本の中でキサラギが一番好きなセリフが、男が娘に「あなたは私のモノです!誰にも渡したりなんてしません!」だ。


 こんな風に自分のモノだと言って欲しかった。

 何十何百回も妄想した。

 その妄想が目の前で現実となった。

 正確なセリフは違ったがそんなことは些細な問題だった。


 キサラギは勇者の子孫として慕われて来たが、上からものを言うのは父親と兄と姉の三人だけだ。

 婚約者も優しそうな男だったが、自分の顔色を伺って喋ってるのが気に入らなかった。


 だが、ゼントは違った。


 勇者の子孫と知っていても、媚びるどころか言う通りにしろという態度だ。

 こんな風に強く言われるのが堪らなく嬉しかった。


「王子様」


「…………」


 キサラギは椅子に座っているゼントの足に顔と手を乗せながら、甘い声ではなく片言のように呟いた。


 この状態が三時間以上も続いていた。


 ゼントは読書の邪魔をしないならと特に気にはしなかった。

 キサラギもそれを分かっていて時々呟くだけだ。

 返事もせず顔も向かない。

 何の反応もせず、キサラギがいないのではないかという態度がキサラギにとって嬉しかった。


 本当は何かして欲しいと思っているが、今は自分の王子様が目の前にいるというだけで満足だった。


「少し早いが夕食を食べに行くか」


 ゼントはキサラギのことを気にせず立ち上がった。

 気が抜けていたキサラギはドタッ!と床に倒れた。

 慌てて駆け寄ったムツキは驚いた。

 キサラギはぞんざいに扱われたのに、嬉しそうな顔をしていたからだ。


「ご主人様から足蹴にされて喜ぶなんてとんだ変態ね。どこかの狼さんみたいだわ」


「私があれと一緒だと言うのですか?」


「えぇ、一緒だわ」


「違います。裸で踊る練習をしていたあなたこそ変態ではないのですか」


「『裸で』というのは語弊があるわ。どうしたらゼント様が喜ぶか考えていたの」


「ご主人様に言われたら喜んでするのに?」


「当然です。ゼント様に命令して頂けたら喜んで肌を晒すわ。踊ることも出来ないあなたとは違ってね。あ!例え踊れたとしてもあなたでは揺れるものが何もなくて誘惑出来なかったわね」


「それが何ですか、ここに来るまでにご主人様に抱いて頂けた回数は私の方が多いのですよ。フィンフ様から避妊の薬を多く頂いたのに半分も使い切れてないのではないですか」


「自然の中では獣人の方が良いのでしょうが、宿のように落ち着いた場所では私の方がいいに決まってるわ」


「いいえ、場所など関係ありません。何処であろうとご主人様の相手は私です」


「私だわ!」


「私です!」


 二人の言い争いはどんどんヒートアップして、外にまで聞こえる程に大きな声になっていた。


「いい加減しろ。うるさいままなら、夜も飯抜きにするぞ」


 ゼントは苛立ちを露わにした。

 朝食は与えているので、別に制約は違反していない。


「「申し訳ありませんでした!」」


 アインスとフィーアは同時に片膝をついて頭を下げた。

 こういうところは息が合っていた。


「さっさと行くぞ」


「「はい!」」


「ムツキとキサラギは留守番だ。特にキサラギが見つかったら面倒だ」


「「はい」」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 俺達が入った宿は従業員にオススメしてもらった店だ。


 途中で人形一号と失礼女姉妹を拾った。

 キサラギのことを話すと面倒なので黙っていた。

 この店は奴隷達と人形一号には良い勉強になるはずだ。


 その店は俺達が入店してすぐに満席となった。

 店内は大いに賑わっていた。

 酒も食べ物もそこそこ美味い。

 だが、それ以上に満席になる理由があった。


 それがこれから中央にある舞台で行われるストリップショーだ。

 ランウェイのような道を普通の服を着た少女が歩いて来た。

 年齢はツヴァイと同じくらいだが、スタイルは全体的に小さい。猫背のせいでさらに小さく見えていた。

 モデルのような歩き方ではなく、恥ずかしがりながらゆっくり歩いて来た。


 少女を追うように後ろから今度は20歳は超えているだろう女が歩いて来た。

 こっちはベテランという感じで手を振りながら笑顔を振り撒いていた。

 こっちはグラマーという感じで歓声が大きくなった。


 中央にある円形の舞台に二人が並んで立った。


 ベテラン女は上から服を脱いでいってあっと言う間に奴隷が着るような薄い布地で局部だけ隠した下着姿の格好になった。

 胸が大きいせいで少し動いただけで溢れそうだ。


 少女の方は服に手をかけているが、脱ぐ勇気を出せないでいた。

 ベテラン女は少女を後ろから抱きしめると、服を一気に脱がした。


 オオオーーー!


 勢いが強すぎて下着が捲られて小ぶりな胸が露わになった。

 客の視線に気付いた少女が急いで下着を元に戻した。

 こっちは小さ過ぎるせいで、すぐにずれそうだ。

 少女が上を直してる間にベテラン女が少女のスカートを脱がした。

 こっちは少しずれただけで、脱げることはなかった。

 だが、こっちもサイズが合っていないのでずれ落ちそうだ。


 少女は上下の下着を一生懸命におさえた。

 その初々しさが客受けがよく、「もっと見せろー」「可愛い」「全部脱いじまえ」と色々な声が上がった。


 ベテラン女が色々と際どいポーズを決めていくに対して、少女はベテラン女のマネをするが、動きがガチガチで可愛いさはあったが色気はあまりなかった。


 すると、少女の隙をついてベテラン女が少女の下の下着を脱がして下半身が露わになった。

 少女がしゃがんで隠すと今度は上を脱がして、少女を全裸にした。

 さらに、ベテラン女が少女を羽交い締めにし、足を絡ませて無理矢理開脚させた。


 キャァァーーー!


 オオオオオォォォォーーー!!


 少女の悲鳴を掻き消す程に歓声が上がった。


 少女のあらゆる部分が見えていて、多くの客が少女の秘密の部分を知ることになった。


 ベテラン女が体を離すと少女は走って舞台裏に隠れた。

 ベテラン女も色々な部分がはだけて見えているが、気にするどころか見せつけるように舞台裏に歩いていった。


「悪趣味だ」


 失礼女がボソッと呟いた。


「奴隷達や人形一号の勉強になると思って連れてきたんだ。ちゃんと男がどうやったら喜ぶのかを学べよ」


「「「「はい」」」」


「……かしこまりました」


 奴隷達の返事に対して人形一号の声は小さく覇気がなかった。


 その後も色々な種族の女が出て来た。

 ドワーフやリザードマンの女が出て来たが、彼女らに対しては特に感じることはなかった。

 獣人が首輪に繋がった紐を別の女性に引っ張られている姿を見てアインスに「今度試してみるか」と言ったら、「お願いします!」と予想外の返事が返って来た。

 フィーアが「私が引いてあげましょうか?」という台詞を皮切りにまた口喧嘩が始まってしまった。

 聞く気もなく邪魔だったから直ぐに黙らした。


 三時間程でショーは終了して閉店した。

 食事代も含めて金貨五枚となったが、それだけの価値はあった。 


 帰りに人形一号達と分かれたところで、140cmぐらいの少女が正面から走って来た。


 お互いに避けるつもりがなく、ドンッとぶつかった。


 俺はぶつかった少女を睨んだ。

 少女も睨み返してきたが、微笑むと俺の後ろを走って行こうとしたが転んでしまった。


「ご主人様の歩みを止めるだけでなく、謝りもしないなど罰を与える必要がありますね」


「それだけじゃない。金の入った袋を持って行こうとしていた」


「殺しますか?」


 フィーアが指に糸の準備をする。


「必要ない。それよりあんな惨め格好をしている奴を笑ってやれ」


 盗人少女は起き上がろうとするが、短パンが膝下まで下げられていてすぐに立てなかった。

 それだけでなく上の服も捲り上げらていた。

 胸を隠していたはずの下着はゼントの手に握られていた。


 盗人女は胸を隠しながら「返せ!」と叫んだ。


「人のものを盗んだんだ。盗まれて文句を言うなんて滑稽だぞ」


 盗人女周りの注目を集めて恥ずかしくなる。

 今は夜だがそれなりに人は通っている。


 俺が服を手放そうとすると、盗人女が片手を伸ばして服を取ろうとした。

 俺は手を掴み背中にまわして関節技を決める。

 素早くもう片方の腕を背中に回し、盗人女の服で縛る。

 盗人女は上半身を曝け出したまま、両手を後ろで縛られた格好になった。

 俺が手を離すと転んで地面に横になった。

 取っ組み合いの時に落ちた俺の金が入った袋を拾うともう興味がなくなったので歩き出した。


 ツヴァイが振り返ると盗人女は数人の男を囲まれて路地裏に連れて行かれた。

 兵士に通報している者がいるかは知らないが、自分のものではない奴がどうなろうと知った事ではない。

 特に自分に危害を加えたなら。


「どうした?気になるのか、同情なんてするなよ」


「いいえ、ただ……いい気味ですと思いました」


 俺も含めてツヴァイ以外の奴隷が目を見開いて驚いた。

 ツヴァイもついにアインスやフィーアと同じようなことを思うようになってしまった。

 俺は嬉しいようなそうなって欲しくなかったような複雑な気分にさせられた。


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