第81話 略取
俺は今ムツキの姉が乗った馬車を追いかけている。
ツヴァイ達は邪魔だから宿に帰らせた。
フィーアがいれば連れて来ていたが、宿で留守番させているので仕方ない。
アイテムボックスからフード付きのマントと念のためにツヴァイを連れ出す時に使った仮面を被った。
昼間なので目立たないように追いかけるのは大変だ。
馬車は円形の直径100メートル以上はありそうな大きな建物の裏側で止まった。
荷台からムツキの姉と数人の様々の年齢の男女が出て来て建物の中へ連れて行こうとした。
中に入られる前に手を出した方がいいな。
俺はムツキの姉の鎖を引っ張っている男の前に着地した。
「誰だて」
俺は魔剣を男の心臓部分に突き刺した。
男が何か言おうとしていたが、全部を聞いてやる必要はない。
その後も武器を手にする奴や逃げようとする奴、仲間だと思う敵を全員殺した。
「お前は俺のモノだから連れて行く。他は好きにしろ」
俺はムツキの姉を担ぐとその場から急いで移動した。
昼の時間だと飛んだり、屋根をつたって行くと目立つので、できるだけ人気少ないところを通って帰ろうと思った。
念のためにこの街の地図を手に入れていて正解だった。
宿の受付に聞いて手に入る店を紹介してもらって一番分かりやすそうなものを手に入れた。
これを見ながらなら俺でも大丈夫なはずだ。
宿の場所も印をつけてある。
あとは現在地が分かればだが、全く分からなかった。
取り敢えず、宿の場所は正門から離れてないので、壁を伝って移動すれば分かる道に出て帰るというのは分かった。
移動中ムツキの姉は何も喋らなかった。
騒がれるよりかはマシなので特に気にしなかった。
時々人と擦れ違うが、特に追いかけてくる奴はいなかった。
結局、一時間以上移動して宿にたどり着けた。
正門に行ったのは正解だった。
そこからは地図を見てちゃんと移動出来た。
宿の扉を開けると奴隷達が一斉に俺の前で跪いた。
アインスが一番前で一番後ろがムツキだ。
いつ示し合わせてるのか知らないが、こういう光景を見ていると気持ちがいい。
俺は担いでいた『モノ』を床に下ろした。
「フォーラ姉様!」
ムツキが急いで駆け寄った。
光魔法で癒そうとしたツヴァイを俺は止めた。
此奴にはまだその価値があるか分からないからな。
ムツキの姉はムツキと同じ黒色だが、耳がやっと隠れるぐらいのショートだ。
ムツキと同じくらい艶のある綺麗な黒色だ。
垂れた目には見た人を和やかにする力があるように感じた。
胸はムツキよりも小さく人形一号と同じくらいであまり期待はできない。
肌は黒めで所々に鞭で打たれたような後が見える。
服装がはアインスが最初に着ていた服に近く重要な部分しか隠れていないので、腕や足、背中と身体中に傷があった。
「おい、さっさと起きろ」
ムツキの姉は小さく顔を上げるが、腕や脚はピクピクとするだけで、全然動かなかった。
小さな声で「ぁー、ぁー」と聞こえるのがやっとだ。
仕方ないくヴァイに治療を許した。
喋ってくれなきゃ交渉できないからな。
俺は備え付けの椅子に腰掛けた。
フィーアが紅茶を淹れる。
ツヴァイが治療中なので、こういう時はフィーアに淹れてもらっている。
ツヴァイよりは下だが、フィーアの淹れる紅茶も美味い。
試しにアインスにやらしたら不味かった。
どうやったらあんな不味く出来るのか分からなかった。
紅茶を飲んで時間を潰している間に治療が終わった。
所々に鞭での痕が残っているが、見ていられない程じゃなくなった。
「感謝。フォーラです」
無表情で頭を下げた。
片言のような喋り方だ。
まだ呂律が回っていないのか?
「すみません。フォーラ姉様は少し喋り方が独特でして、ご主人様には感謝しています」
俺の機嫌を損ねたと思ったのか、ムツキが慌ててフォローする。
元からこんな喋り方なのか。
前世のアニメやゲームでこういうキャラは見慣れているので特に不快ということはなかった。
「別に気にしてない。そのままで構わない」
「ありがとうございます」
「感謝」
実際にこういう喋り方をする奴を相手にすると喋り辛いなと思ってしまう。
分かりやすいが、必要最低限の情報しか入って来ない。
「俺は奴隷になったお前を助けたんだ。つまりお前は俺のモノになるんだ。理解出来るか?」
「できる。あなたは私の王子様」
「は?おうじさま?」
俺は魔王だぞ。
王子様じゃない。
何を言っているか理解出来なかった。
「ムツキ、通訳しろ」
「すみませんご主人様。私にもどういうことなのか……」
「俺は王子様じゃない。魔王だ」
魔王と聞いて勇者の子孫のこいつはどう反応するだろうか。
「あなたは私を連れ出して『俺のもの』と言った。だから私の王子様」
「フォーラ姉様……もしかしてあの絵本のことを言っているのですか?」
「そう。私を『俺のもの』と言ってくれたこの人は私の王子様」
無表情のまま王子様呼ばわりされても嬉しくないし、戸惑うだけだ。
せめて笑顔だったり照れ顔なりしてくれたら分かるのだが。表情から感情が見えない。
「お前は俺のモノだ。ムツキと同じ隷婢になるってことでいいな」
「何でもいい。あなたのものになれるのなら隷婢でも構わない」
「フォーラ姉様⁉︎」
ムツキが驚いた声を上げた。
隷婢というのが分かってないのか?
「大丈夫……私があなたを欲してる。隷婢でも構わない」
俺は今どんな顔をしているだろう。
自分が全く理解出来ない存在を前にどんな顔をしたらいいのか分からなかった。
「俺のモノになるのなら細かいところは気にしないでおくか」
一度でも自分のモノと言ってしまった手前、引き返すことは出来なかった。
理解出来なくてもこいつはもう俺のモノだ。
こういう不思議な美人というのもいい。
俺の言うことに絶対服従のような態度が気に入った。
ムツキの姉は犬の待ての姿勢のように両手両足を地面につけて俺を見上げていた。
その目は子供が欲しがっていた玩具を買ってもらえると親から言ってもらえたような目で輝いていた。
あらためて思う。
隷婢になる奴はこういう目をしないとな。
魔王の隷婢になれることを名誉なことだと思ってもらわないとな。
俺は奴隷契約スキルを発動させた。
黒い電流のようなモノがムツキの姉の全身を襲い、低い叫び声を上げさせた。
額から頭を一周するように鎖の紋様が現れ、額の中心に黒い文字で俺の名前が刻まれた。
「今からお前の名前はキサラギだ。一生俺のモノとして俺に尽くせ」
「キサラギ……王子様からもらった名前。嬉しい」
キサラギは四つん這いのまま俺に近付き、膝の上に顔を乗せて擦り寄って来た。
アインスとフィーアが引き剥がそうとしたが、手でサインして止めさせた。
普段からこういう風に俺に甘えて来るモノはドライ以外いなかったからか、新鮮で気分がいい。
「王子様。いつしますか?」
「何をだ?」
「子作り」
あまりに突拍子もないことに全員黙ってしまった。
キサラギは、ん?っと首を傾げていた。
勿論、ムツキも含めてそういうことをしようという考えはあったが、こうも淡々と言われるとそういう気分にはならなかった。
俺はもうこいつのことを理解しようとすることを諦めた。
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