第72話 親睦会
王城内ではまだ城門や内部の修復に手を取られていた。
残った騎士団員は第一騎士団のみで、以前の半分以上の人が失われた。
いつもなら訓練の時間だが、そんなことをする人間は一人もいなかった。
第一騎士団長のギャラルでさえも城門や内部の修理を手伝わされていた。
まさに猫の手も借りたい状態だ。
平民からも志願者を募ったが、多くは集まらなかった。
それも仕方がなかった。
新たに女王に即位したシューネフラウは今回の事の顛末、さらには過去に第四騎士団を含めた者達がしてきた悪行をすべて暴露した。
住民達の騒ぎはその場で暴動が起きそうな勢いだった。
だが、それが行動に移されることはなかった。
それはシューネフラウ女王が魔王と協力関係にあることが知れ渡っていて、現政権に反対しようものなら、殺されるのではないかという恐怖心が抑えていた。
宰相を含めた貴族主義社会に反対していた貴族を大広場で処刑した。
大広場へ連行中も民から罵詈雑言を浴びせられたり、石や物を投げられたりした。
その結果もあって民達の怒りは少しばかりだが緩和された。
だが、信頼が戻って来るわけでもない。
協力もしないが、反対もしない。
保留として無干渉になっていた。
仕事の報酬や定期的な給料を目当てに修復作業や、志願兵などがいたが、合計しても百人もいかなかった。
人手が足りず、三日経ってやっと瓦礫の撤去作業が終わり、門を立て直せるようになった。
以前の門は国中の地魔法使える者達を集めて、やっとのことで完成させたものだ。
以前と同じ物を作るとなると、地魔法を使える者また国中から集めなければならなかった。
時間も金も掛かる。
ゼントが手を貸していれば、全ての作業を一日で終わらすことも出来るが、そういうわけにもいかなかった。
新女王が即位したばかりでいきなり魔王の力に頼るのは、新女王自身が力の無い無能者と発表しているのと同じだ。
新女王のプライドとしてそんなこたは出来なかった。
自分の住む城も直せないなどとは言えなかった。
だからこそ、残った人と金でなんとかするしかなかった。
その悩みも数日経って無くなった。
シューネフラウ女王への信頼はゼロということはなく、勿論支持をする貴族もいた。
貴族主義社会に賛成派の貴族はお抱えた魔法使いや冒険者を雇って王都に向かわせてくれたからだ。
修復に必要な材料や食料なども持たせてだ。
貴族内では新女王が誕生と同時に競走が始まっていた。
宰相に組みしていた貴族主義社会に反対派は全て断罪された。
つまり、オーストセレス王国に三人のみだった侯爵の椅子が全て空いたのだ。
今すぐにその椅子に座れることはないのだが、王国再建に協力的であることを示すことが出来れば、将来的に自分か子供かがその席に座れるかもしれなかった。
領地を持たない法復貴族は陞爵まではいかなくとも自分の領地を手に入れられるのではと考えた。
土地も限りがあるため、我先にと人員の派遣を急いだ。
さらには女王に恩を売りつつ、気に入られることが出来れば王族と親密なることが出来るのではと考える。
勿論女王は魔王と協力関係にあることは周囲の事実だが、そんなことはどうでも良かった。
力ある者とは敵対したくはない、だが絶対的服従もしたくない。
何世代も続いている貴族は既得権益さえ保障して貰えれば協力だってする。
例え御伽噺のように勇者が現れたとしても関係なかった。
勇者が勝てば、魔王に脅されてやっていた。など、いくらでも言い訳が立つ。
魔王が勝てば、魔王に最初から協力的であったと信頼と実績を得られる。
しかも現代の魔王は敵対しなければ、殺さないでいてくれるという噂が流れていた。
魔物のように面白半分で人を殺すことはない。
貴族達にとっては魔王に協力することに何の不利益はなかった。
それでも貴族達を動かしているのは、心の中にあるシューネフラウ女王への忠誠心だった。
十日経った頃に城門の修復は殆ど終わっていた。
といっても、形だけでもなんとかしただけであって、前の門と違って外観の煌びやかさなどはなかった。
本来であれば、もっと時間掛けて作るのだが、ここまで急いだには理由があった。
「気持ちいいです」
「こんな大きな浴場は初めてだわ」
「ひろーい!」
「ドライちゃん、泳いじゃだめですよ」
ゼントの奴隷達は王族のみ使用が許された大浴場で体と心を休めていた。
「でも、私達が使っていていいのでしょうか?」
「問題ないわ、魔王様のモノである貴方達にはその権利があるから」
シューネフラウも奴隷に混ざって大浴場に来ていた。
ゼントの王城襲撃に新女王の即位とシューネフラウは寝る間もないくらい忙しい毎日だった。
落ち着いて親睦を深めるために今回の企画が採用された。
「当たり前だ。フラウの物は全て俺のものになるんだ。俺のものをどう扱おうが俺の自由だ」
当然のようにゼントも女性陣に混ざっている。
このことに誰も疑問を抱くどころか歓迎されていた。
ゼントは今、アインスと向き合ってお互いの体を洗い合っていた。
背中はシューネフラウに洗って貰っていた。
「その通りです。私の全ては魔王様のモノです」
「分かっていればいいんだ。それよりもっと強く出来ないのか?」
「申し訳ございません。殿方の背中を流すなど初めてでして……この、ぐらい、でしょうか?」
「やれば出来るじゃないか」
「ありがとうございます」
「アインスもちゃんと手を動かせ」
「すみま、せん……ですが、その……」
最初は腕や脚を洗っていたが、先程からゼントは敏感な部分を攻めていてアインスは思うように手を動かせないでいた。
「出来ないのならフィーアに替わってもらうぞ」
「お呼びとあれば、私はいつでも応じることが出来ますわ」
「!!……いえ、この使命を必ずや果たして見せます。フィーアに手を出させる暇など与えません」
アインスの手の動きに俊敏さが増した。
前に狼、後ろに女王。
こういうサンドイッチも悪くない。
ツヴァイも参加出来たら良いのだが、ドライの影に隠れてチラチラとこっちを見るだけだ。
一緒に風呂に入れるようになっただけでも進歩か。
これが二人きりだとどうなるか?
まだ無理か……。
桶に溜めてあったお湯をかぶった。
「俺は先に上がるぞ」
「でしたら私も……」
「お前たちはまだ入ってていいぞ。ゆっくりしてろ」
ゼントが出て行った後はアインスとシューネフラウは泡を流して湯船に浸かった。
「フラウ様とこうしてまたゆっくり過ごせること。ご主人様に感謝します」
「そうね。魔王様がこの世に顕現してくださったおかげで今の私があるのだわ」
「女王様。一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「何ですか?」
「女王様はいつから魔王様を信仰していらしたのですか?」
フィーアの質問はドライを除いて奴隷達が疑問に思っていたことだった。
この中で一番親しいアインスもその理由は知らなかった。
「そんな珍しいことではないですよ」
シューネフラウは湯船の端に腰を落として、脚だけ浸かった。
そのプロポーションは誰もが羨ましく思う程に美しく洗礼されていた。
「有名な勇者の物語はみなさんご存知かと思いますが、私は勇者が救ったとされる世界に貴族主義社会が成り立っていたとは思っていません。現にこうして反対派を多くのさばらせている状態になってしまいましたから。ですが、魔王様が御存命の時代はまさに人々は貴族主義社会を胸に抱いていたと思うのです」
「それは、魔王様を討伐しようとみんなの心が一つなったから。ということでしょうか?」
「そうではありません。お父様は国王ですが、国王一人の力は強くありません。誰もが思わず膝を着いてしまうような絶対的な力を持った存在なのです」
「それは勇者でもよかったのではないですか?」
「勇者は一人だけで魔王様に勝ってわけではないのです。賢者や剣聖などこの力を借りて魔王様を倒したのです。対して魔王様はたった一人で勇者達を相手にしたのです。もし勇者が一対一の決闘をしていれば魔王様負けることはなかったでしょう」
シューネフラウは魔王が負けたことを悔しそうに話していた。
「そんな勇者が勝ってしまったから世界はこんなにも浅ましくなってしまったのです。勇者が死んでいればこんな事にはならずにすんだはずです。あの者は魔王様に敗れ、死ぬべきだったのです」
ツヴァイとフィーアはここまで勇者を罵る人物はこの大陸に一人だけだと思った。
「その通りです。フラウ様。勇者こそ悪の権化!魔王様こそ、この世界を高天へと導く存在なのです!」
「勇者はどうあれ、魔王様の行いは全て正しいです」
「魔王様は優しいです」
「魔王のご主人さますごーい!」
それからは魔王ゼントの褒め合戦が始まり、一時間以上続いた。
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