第73話 王位継承


 親睦会から一夜明けた日。

 本日はシューネフラウが正式に王位継承の儀式の日だ。


 シューネフラウは朝早くから衣装や段取りの確認で忙しくしていた。

 本来であれば、何ヶ月も前から準備をして、あとは時間を待つだけなのだが、

 人手不足、急な儀式に準備、城内や門の修理など、人も時間も全く足りていなかった。

 それでもしなければ、ならない。


 王のいない国などあってはならない、臨時の代表を決めて時間を稼ぐことも考慮されたが、それはシューネフラウが許さなかった。

 シューネフラウも一分一秒でも早くなりたかったのだ。


「皆さんのおかげでなんとか間に合うことが出来ました。感謝いたします」


「私達は女王陛下に忠誠を誓っています。当然のことであります」


「そう通りです。協力を断る理由などありません」


「すべては貴族主義社会を掲げるオーストセレス王国の未来の為です」


 謁見の間では王座の横で立つシューネフラウと十数人の貴族達がいた。


「国民達も女王陛下の晴れ姿を待っております。早くその姿を見せて差し上げましょう」


「いえ、まだあの方が到着されてません」


 晴れやかだった貴族達の顔が曇る。

 『あの方』というのが誰なのか声には出さないが、全員分かっていた。


 バアッと扉が開くと奴隷達を連れたゼントが入室した。


 ゼントは雰囲気など気にせず、まっすぐ歩いて王座に腰掛けた。


 貴族達の中で発言しようと思った者もいたが、シューネフラウと奴隷達が跪いて首を垂れる姿を見て、自分達もそうしなければいけないと思い、全員跪いた。


「面をあげろ」


 奴隷達は息を合わせて首を上げた。

 ドライもアインスとフィーアの教えのおかげで、合わせて行動出来るようになっていた。


「今日は新しいオーストセレス王国の誕生の日だ。準備は整っているんだろうな」


「はい問題ありません。魔王様の命令であり、私の望みでもあります。今日は私の人生で最高の日になります」


「そうか、その衣装よく似合っているぞ」


「!!勿体ないお言葉……ありがとうございます」


 シューネフラウは顔を真っ赤にして再び首を下げた。

 今日の衣装はブラックダイヤモンドのように輝かしい黒を基調として、赤や金色の装飾がよく目立っていた。


 従来の衣装は白を基調としており、絶対にありえない衣装だった。

 準備の段階でもシューネフラウは黒のドレスというのは絶対に譲らなかった。


 それは自分は今までのように人間がトップに立って治めるのではなく、自分はあくまで女王という肩書をしているだけで、真のトップは魔王という決意の表れだ。


 桃色に似た赤い髪とはあまり似合ってはいなかった。

 周りの視線からそれは感じていたが、ゼントに似合っていると言われては、そんな周りの視線などどうでも良かった。


「失礼ですが、そろそろお時間なので移動された方がよいかと進言します」


 フィーアは淡々と言った。

 一応今回の主役が誰なのかぐらいは分かっている。

 その言葉の奥底には余裕のような感情が見える。


 奴隷達も今回の儀式のためにドレスアップをしていた。

 シューネフラウ程ではなく、ドレスコードに合わせるため程度のものだ。

 その際、ゼントにドレス姿を見せて、先に褒め言葉を貰っていた。


「なら移動するか」


 ゼントが立ち上がると、シューネフラウはゼントの手をとり、奴隷達は扉を開けたりなどした。


 城の外には装飾が美しく光る超豪華馬車だ。

 屋根は無く、座るところが高めに作られていて、何処からでもよく見える。

 暗殺対策とかの防犯機能は皆無だ。


 目立つため、魅せるためにある物だ。


 馬車を引いている馬は二頭とも白馬で毛並が純白でよく手入れをされているのが分かる。


 俺が先に座り、その隣にシューネフラウが座る。

 操車はアインスを指名した。

 本来なら王族専用の操車がいるのだが、俺の判断でそうした。

 中年おやじより、アインスのような美女のほうがいいに決まってる。


 シューネフラウも仲の良いアインスがいて嬉しそうだ。


 城門が開くと大通りの端に国民達が並んでいた。

 シューネフラウの晴れ舞台を一眼見ようと来てくれたのだ。

 だが、王都に住んでいる人が全員来ている程ではないようだった。

 それでもシューネフラウ自身の見た目や人柄には人気があり、賑わっていると言えた。


 騎士人数が減って交通規制をするのが大変そうだが人が溢れる程ではなかったのが幸いして移動に問題は無かった。


 王都を一周すると、再び王城に戻って来た。

 ゼント達は馬車を降りて城の展望台へ上がった。

 眺めると城の広場いっぱいに人が集まっていた。


「オーストセレス王国民の皆様。本日は魔王様と私のためにありがとうございます。わたしオーストセレス王国新女王となることを宣言致します。高天への道のりを共に歩みましょう」


 オオオオォォォ!!!


「では魔王様。お願いします」


 シューネフラウはゼントの方を向いて目を瞑った。


 ゼントは奴隷契約スキルを発動させた。

 シューネフラウの胸元上に奴隷紋が刻まれた。

 そこに一滴の血を流すと奴隷紋が光り契約は完了した。


 シューネフラウは一瞬苦悶の表情をしたが、すぐに笑顔になった。

 だが、目をまだ開けようとしなかった。


 ゼントは仕方ないと思って唇を落とした。


 触れていた時間は一秒程ですぐに離れた。

 シューネフラウは半目で顔を赤く火照らせていた。


 民衆からは声を上げる人もいたが、驚きの方が大きくてそれどろではなかった。


 騎士や兵士達も中にも聞いていた予定と違ってそれどころではなかった。

 声も出ない程に驚いていた。


「オーストセレス王国女王よ。これでお前は俺の奴隷だ。今から『フィンフ』と名を変えろ。それが俺の奴隷の証拠だ」


「魔王様から名をいただき、嬉しく思います。私はこれから『フィンフ』と名乗らせて貰います」


 フィンフは膝を着いて頭を下げた。


 俺は両手を広げて、高らかに宣言した。


「オーストセレス王国の女王は俺の奴隷となった。つまり……その国民であるお前達は魔王である俺のモノだ。従うモノには幸福を、逆らうモノには消滅をもたらす。俺にモノであることを幸せに思え!」


 これでオーストセレス王国は魔王の国として大陸中に響き渡った。

 魔王の復活と同時に人属の国が堕ちたことに絶望する者もいれば、反発しようとする者、あるいは命欲しさに従おうとする者。様々な思惑が各国で交錯していた。


 チュラント大陸の西側にあるヴェストニア法国では、聖女と呼ばれる一人の少女が大聖堂の女神像の前で祈りを捧げていた。


(私はいつ彼と会えるのですか?早く彼の側にいたいです)

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