第68話 演説


 俺はシューネフラウを抱えたまま、王城から飛び出した。

 途中、騎士達が邪魔に入ったが、邪魔する奴は魔法でぶっ飛ばしたので関係なかった。


 王城を出る前に運良く見つけられたギャラルとヴンディルに準備が出来たらすぐに行動しろと命令しておいたので作戦は大丈夫だ。


 メイドのディナも作戦の内容は知っているから、無事に行動してくれるだろう。


 俺はアインス達と待ち合わせた街の広場に着地した。


「魔王様。予定より早いですが、どうかなされたのですか?」


 準備をしていたフィーアが尋ねて来た。

 本来の予定ではフラウを連れてくるのは夕方だ。

 それが今の時間は昼間だ。

 計画が前倒しになってしまった。


「王城内でトラブルがあってな、全部コイツのせいだ」


 俺は隣にいるフラウを指さした。


「魔王様……この方はまさか……」


「この国の王女様だ」


 フィーアは表情、服、姿勢を整えた。


「私は魔王様の奴隷フィーアです」


「はじめまして、シューネフラウ・ロウ・オーストセレスと申します」


 お互い礼儀正しく挨拶をした。

 二人の視線がぶつかっているような気がするが、面倒事には口を挟まないでおこう。


「アインスはどうした?」


「あちらの通りに看板を出しに行っています」


「そうか、騒ぎが起きれば自然と来るだろ。フラウには予定通りここで演説をしてもらう。本来ならもっと人を集めてちゃんとした舞台を用意してやりたかったんだけどな。悪いな」


「いいえ、私程度のために魔王様が手を貸していただけるだけで至上の喜びにございます」


 フラウは深く頭を下げた。


 広場に少なからず人が集まっていて、王女が少年に頭を下げている景色を不思議に思っていた。


「おい、あれシューネフラウ王女様じゃねぇか?」


「ほんとだ、何でこんなところにいるんだ?」


「看板に書かれてた演説って、王女様の演説なのか?」


「だとしたら、何で名前を書かないんだ?」


「一緒にいる男の方は誰かな?」


「なんか雰囲気がカッコ良さそうね」


「たしかに、いい男よね」


「あの青髪の女は美人だな」


「見てるだけで癒されるぜ」


 周りの住民達が王女の登場に騒ぎ始めた。


 フラウは2メートル程の木製の演説台の階段を登った。

 本当はもっとちゃんとした方が良かったのだが、急いで用意するにはこれが限界だ。


 まぁ、フラウが輝いているように目立っているので、舞台がダサくても多少問題ないだろ。



「皆様。お聞きください」



 騒いでいた人達が一斉に静かになった。

 それだけの魅力やカリスマみたいな力がある証拠だ。


 フラウが演説を始めたことによって、次々と人が集まりだした。


「緊急を要する案件のため失礼します。私、シューネフラウ・ロウ・オーストセレスは宰相達の企みにより、この身を犯されそうになりました」


 住民達がざわざわと小さく騒ぎだすが、すぐに静かになった。


「ですが、ここにおられる魔王ゼント様が私を救ってくれました。それだけではございません。魔王様は第四騎士団が己の欲望を満たすために襲った村を救って下さった救世主様なのです」


 俺も演説台に上がり、フラウの隣に立った。


「魔王様だー」


「救世主さまー」


「魔王さまー」


「あの時はありがとう」


 声がした方を向くと、以前助けた子供達がこっちに向かって手を振っていた。

 もちろん、手を振り返したりなんて俺はしない。


「魔王様。あの子達と何かあったのでしょうか?」


「前に貴族に攫われた子供を助けたことがあるんだ」


「そうだったのですか。未来ある子供達を悪の手から救ってくださり感謝致します」


 フラウを周りに見せつけるかのように、優雅なお辞儀をした。


「聞いての通り、魔王様は私達を救ってくださる存在です。

 勇者の物語では魔王様は悪と書かれていますが、あれは間違いなのです。誰かが事実を曲げて隠蔽しようとしたのです。

 魔王様は我々を高天の世界へと導いてくださる救世主様です」


 フラウは一歩前に出て両手を大きく広げた。


「魔王様のお導きくだされば、この国は救われます。ですが、父である現国王は停滞を望み上位貴族達が好きに政治を動かしているのを傍観しているばかりです。今の腐敗したこの国を立て直すために、現国王を廃し、魔王様の忠実なる僕の私がオーストセレス王国の新女王として即位することを宣言致します」


 オオオオオオォォォォォォ!!!


 住民達の後にいつの間にか集まっていた街の見周りをしていたであろう何人かの騎士達が拳を振り上げて叫んでいた。


 住民達は戸惑っていた。

 急な新女王即位宣言により、どうすればいいか分からないでいた。


 そこに馬に乗ったギャラルが来た。

 急いで来たのか、足元に土煙が舞っていた。


 その遠く後ろからはざっと百人を超える騎士連中が列をなして歩いて来るのが見えた。


「シューネフラウ女王陛下、第一騎士団長ギャラル並びに騎士団員153名、遅ればせながら到着いたしました。我らの忠誠は女王陛下の元に」


「貴方達の忠誠嬉しく思うわ。その力魔王様のため、存分に発揮してください」


「はっ!」


 作戦通りだ。


 これで俺は大義名分を得られた。


 フラウが新女王になるのを協力するために反対する奴らをぶっ殺す。


 今は王城に残ったディナとヴンディルは使用人達を避難させている最中だろう。

 自分達も作戦決行時間までには逃げろと伝えてある。


 計画が前倒しになったせいで逃げ遅れたりする奴らがいるかもしれないが、それは俺のせいじゃない。


 逃げ遅れた奴らが悪い。


 ディナとヴンディルが避難するまでは待ってやるつもりだが、俺だって我慢してきたんだ。


 その後は俺の好きにさせてもらう。

 誰も文句は言わせない、邪魔する敵は殺す。


 オーストセレス王国は俺が滅ぼす。

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