第69話 再会


「魔王様!」


 演説台から降りるとアインスが駆け寄って跪いた。


「魔王様の晴れ舞台に遅れ申し訳ございません」


「いやいい、演説の主役はフラウだからな」


 俺は親指で後ろを指差した。


「……フラウ王女」


「エラ!」


 フラウはアインスを『エラ』と呼んで抱きしめた。

 『エラ』とはアインスが奴隷になる前の名前か。


「閉じ込められていたあなたが誘拐されたと聞かされて心配していたのよ。生きていて良かったわ」


「全て魔王様のおかげです。魔王様が私の命を救い、力を与えてくれました。それと今の私は『エラ』ではなく魔王様の奴隷『アインス』です」


「そう……それも魔王様が……」


 アインスとフラウの目は涙でいっぱいだ。

 お互いに色々と思うところがあるのだろう。


「話たいことは山程あるだろうが、楽しむのは後にとっておけ、それより優先することがあるだろ」


「そうでしたね。第一騎士団も合流したことですし、彼等と一緒に逆賊を打ち倒しましょう」


「は⁉︎違うだろ!」


「え⁉︎」


 フラウは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。


「あいつらは俺の獲物だ。邪魔しようとしてんじゃねぇよ」


「いや、ですが、王城にはまだ300人以上の騎士や兵士達が……」


「そんな雑魚が何百人いようが関係ない。これは俺の復讐だ!誰にも邪魔はさせない!分かったか!!」


「は、ぃ……も、もうし……わけ、ご、ございません……でした」


 先程の感動の場面が嘘だったかのように青い顔になり、両膝を突いて頭を下げた。


 アインスは固まって、瞬きすることすら忘れてしまっていた。


「アインス!フィーア!行くぞ!!」


「は、はい!」


「かしこまりました!」


 アインスとフィーアはすぐ用意していた武器を手にして俺の後ろをついて来た。


 第一騎士団長ギャラルが俺の前に立つ。


「魔王様。我らも一緒に」


「退け!!」


 俺の気合いに当てられてギャラルは数歩後ろに下がって膝をついた。

 他の騎士・兵士達も自然と俺達が通るための道を開いた。

 従わなければ、殺されると思ったからだ。


 俺達は開いた道を歩く。

 アインスとフィーアのみが後ろをついて歩く。


「お前達はついて来るなよ。俺のしたいことを邪魔をする奴は殺すからな」


 念のために釘を刺しておく。

 これだけやれば、ついてこようと思う者はいないだろう。


 魔王の出陣だ。


 本当なら攻撃開始のラッパが響いているはずだが、現実は静かで少し寂しいな。


 今は我慢してやるが、いつかフラウに命令して用意させよう。

 魔王の進軍なんだからもっと派手でなければな。

 音楽が有る無いかで士気が変わったりするもんだ。


 そんなことを考えている間に王城の正門が見えてきた。


 正門の前にはパッと見て、50人以上の人が集まっていた。


 騎士のような整えられた防具ではなく、様々な武器・防具を装備した連中がいた。

 人間だけでなく獣人やドワーフなどが混ざっていて様々な種族がいた。

 おそらく、宰相達が雇った冒険者ってところだろう。


「一度だけ言う。邪魔をするなら殺す」


「あんたの首に賞金がかけられていてな、金貨1000枚。生死は問わないってことだ。大人しく殺されてもらうぜ」


「賞金はうちのパーティーのものだ!」


「早いもん勝ちって約束だろ」


「同士討ちも無しって約束だ」


「俺が先に行かせてもらうぜ」


 男冒険者が短刀を両手に持って正面から来た。


 正面からとかバカなのか?


「フィーア」


「はい!」


 短刀が俺の首に当たる前にフィーアが糸術で身体を縛り、冒険者の動きを止めた。


「魔王様へ刃を向けた罪、万死に値します」


 フィーアが指を動かすと、冒険者の首を絞めてそのまま殺した。


 さすがに身体がバラバラになるとまではいかないか。

 そんなにいい武器でもなさそうだしな。

 いつか、相手をバラバラに出来るくらい鋭く切れ味のいい糸を用意してやろう。


「バカが!何してやがる!一斉に行くぞ!!」


 冒険者達が一斉に動き出した。


 俺はアイテムボックスからデスサイズを取り出して、振りかぶった。


 デスサイズの刃に水魔法を込める。


 冒険者達の勢いは止まらず走って来る。

 一斉に来てくれるなんて協力的でいい的だ。


 俺は横に一閃を放つ。


 直径三メートルの三日月型の刃が冒険者達の胴体を切り裂きながら進む。


 水魔法『水刃』


 切断された上半身が地面に落ちる。

 下半身の切断面から出た血飛沫が血の水溜りを作っていく。


 両端にいて運良く生き残った冒険者達は何が起こったか分からず混乱する。


「言ったぞ、邪魔をするなら殺すと」


 尻餅をついて血溜まりに手を付けた冒険者の若者は叫び声を上げて逃げ出した。

 そいつを皮切りに俺達の前にいた冒険者は全員逃げ出した。


 俺はアインスとフィーアを抱えて光魔法で血溜まりを飛び超えた。

 汚らわしい血で汚れたくなかったからだ。


 正門の前に着いた。

 正門は両開きで高さ六メートル以上あった。

 飛び超えることも出来るが、ちゃんと正面から入ってやろう。


「今すぐ門を開けろ!出ないと無理矢理壊して開けるぞ!」


 俺は門の向こうにいる奴らに聞こえるように叫んだ。

 一分ぐらい待ったが門は開かなかった。


 魔王の来訪だというのに開けるそぶりが見えない。

 徹底して抵抗するらしい。


 仕方ないな。


 俺は地魔法で直径一メートルの岩の弾数十個を出現させた。


 空中の浮いているそれは、俺が右手を前に出すと一斉に門を襲った。


 正門は簡単に砕けて、瓦礫の近くに兵士達を巻き込んで崩れていった。


 俺は瓦礫の前に立った。


「歓迎準備は出来ているんだろうな。ぶっ殺してやるから楽しみしてろよ」

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