第67話 時は少し遡る


 時は少し遡る。


「俺に仇なす奴らを全て殺してやる」


 タール村に壊滅的被害が出た日俺はこの国を完全に敵に定めた。


「ゼント様の真の目的である世界征服に必要であれば、私も微力ながらお供させていただきます」


 フィーアは跪いて首を垂れる。


「ご主人様のお気持ちは重々承知ですが、計画を変更するということでしょうか?」


 アインスは今日話した俺とフラウが決めた計画のことを言っているのだろう。


「そうなるな。途中までは一緒だが……」


 俺は奴隷達に変更点を話した。


「かしこまりました。もしよろしければ私に復讐の場を設けていただけないでしょか?」


「もちろんだ。お前の全てをぶつけてやれ」


「感謝いたします」


「アインスもそれでいいな」


「はい。私はご主人様のお心に従うまでです」


「戦えない、殺したくない奴がいたら今の内に言えよ」


「シューネフラウ王女様がご主人様の奴隷となられるのであれば、他に望むものなどありません」


「お前達もないな」


 俺はツヴァイとドライに一応確認を取った。


「ありません」


「ドライもありません」


 俺は次に生き残った家畜達の前に立った。


「今回起こった報復は俺がしてやる。自分の手でやりたい奴は後で場を用意してやる。だから死ぬな!大切な人を失っただろうが後追い自殺なんてするんじゃないぞ。お前達が死んでいいのは俺から許しを得た奴だけだ。だから絶対生き抜け!」


 こいつらの全部は俺のモノだ。

 だから命も俺のモノだ。

 生かすも殺すも決めれるのは俺だけだ。


 俺はアイテムボックスから食べ物や飲み物、衣類などを取り出した。


「ツヴァイとドライはここに残って家畜達の管理をしろ。王都の用事が済んだら迎えに来る」


「かしこまりました。ゼント様」


「かしこまりました」


 ツヴァイとドライは並んで綺麗に一礼した。

 ドライの行儀が良くなってきたな。

 アインスやツヴァイに鍛えてられた成果だ。


 本当は二人も連れて行きたいが、家畜共をこのまま残しても生きていくなんてほぼ不可能に近いだろう。

 せっかく救ってやったのに、その後直ぐ死ぬなんて救ってやった意味がない。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 シューネフラウが部屋から出た後、俺はメイドのディナに紅茶を淹れてもらっていた。


 普段から王族に出す紅茶は俺がいつも飲んでいるものより香りが良い。

 甘さや舌と喉の触りも良く、完璧と言っていい。

 王女のお付きなだけあるな。

 ツヴァイよりも淹れ方が上手い。


「うん。紅茶が上手い気分がいい」


「魔王様のお口に合い幸いです」


「この紅茶は何処から仕入れているんだ?」


「こちらはノルトワット王国から仕入れたものです。ーーあの国は海と山に囲まれて農業や漁業が盛んですから」


 へぇー、取り敢えずフラウに言えばいつくか貰えるだろう。

 そういう面倒くさいことは奴隷に任せておけばいいや。


 俺は紅茶を飲みながら改めてメイドのディナを眺めた。

 ディナは緑色の長髪に細めの顔立ち。

 貴族っぽさはなく、前世で言う喫茶店の看板娘を思わせる。

 落ち着いた雰囲気で話やすい。

 美人よりは可愛いが似合う女だ。

 胸部はアインス程じゃないが、微妙に膨らみが見える程度だ。

 今はそれが良い方向に働いた。

 これからフラウと楽しむというのに他の女性に手を出すわけにはいかない。

 最初ぐらいは一対一で挑むとしよう。

 若干の怖さはあるが、俺は魔王だ。

 逃げるわけにはいかない。


 そこにトンットンッとノックの音がした。

 ディナが出ると、すぐに戻って来た。

 悪い方の内容だったのか、顔色がよくなかった。


「申し訳ございません魔王様。フラウ王女はカンズ宰相閣下に呼ばれた為に遅れるそうです」


「はぁ⁉︎」


「ひぃ!」


 俺は思わず声を荒げた。

 ディナは腰を抜かして涙目になっていた。


 こんなメイドのことはどうでいい。

 それよりフラウは俺よりも宰相とやらを優先したというのが許せない。

 アイツはまだ俺の奴隷じゃないが、近い内に俺の奴隷となるなら、俺のモノになっているのと一緒だ。


 俺の奴隷なら主人である俺を他の何よりも優先させなければならない。

 性の相手をしろと言えば、どんな状況であれ受けなければならない。


 それが奴隷だ。


 俺の奴隷になる意味を分かっていないアイツにはお仕置きをしなければならない。


 あと気になるのが、ディナから報告を聞いて俺の背筋に冷たい何かが襲って来た事だ。

 フラウからタール村が襲われた事を聞いた時に似ている。


「宰相はフラウをどこに連れ出したか分かるか?」


「え、えと……」


「早くしろ!」


「えっと、噂で聞いた話なのですが、宰相がメイドなどの女性を連れて相談をする部屋が一階にあるとかないとか……?」


「一階だな」


 俺は部屋から飛び出した。

 近くに階段はない。


 廊下の窓ガラスを割って、一旦外へ出た。

 地面に着地して、近くにある窓ガラスを割って再び中に入った。

 階段を探すよりこっちの方が簡単だし、時間の短縮になる。


 丁度近くに騎士が二人いたので、一人は殺して、もう一人に宰相の場所を聞くと素直に教えてくれた。


 俺は所属を聞くと第四騎士団と名乗ったので、教えてくれたご褒美として楽にしてやった。

 苦しまなくてすんでよかったな。


 俺は教えてもらった部屋に急いだ。

 部屋の前に騎士がいたが、相手をするのが面倒なので火魔法でぶっ飛ばした。


 もちろん手加減はした。

 大きさは小指の先程度だ。

 この攻撃でフラウを殺してしまわないようにな。

 当たった奴らもギリギリ生きているだろう。



 さて、宰相は使い道があるから生かしといてやるが、他は殺そう。


 フラウにはどんなお仕置きをしてやろうか……。


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