第57話 王都シュテート

 

 川での野営後、3日間馬車でゆっくり旅をしていた。

 ついに王都に到着することができた。


 王都は20メートル程のスリュート伯爵領よりも大きく厚みのある壁に囲まれていた。


 王都周辺には草原が広がっていて、木などが大きくならないように手入れがされてるのが分かる。


 門では馬車や荷物を背負った人達で行列が出来ていた。

 検問みたいなことをしているみたいで、入るだけでも時間かかりそうだ。


 1時間以上たってやっと、俺達の番が来た。


 身分の確認と馬車の荷台をチェックした。

 この国じゃ俺は貴族でもないただの平民だからな。


 旅人で魔王が現れたと聞いて、王都なら安全だと思って来たと言ったら簡単に入れてくれた。


 俺の見た目はただの好青年だし、荷台に乗ってるのは食料やお泊まりセットだけで武器などの危ないものは乗せてない。

 奴隷もドライとフィーアの2人だけだ。


 アインスとツヴァイは近くの洞窟で待機してもらってる。


 さすがにアインスを王都に連れて行くのまずいと思ったからだ。


 いきなり全面戦争でも良かったのかなと思ったが、フィーアから情報収集してからでも遅くはないということで争いの種になるものは置いて行くことになった。


 アインス1人だけでは不安なので念のためにツヴァイを置いて来た。


 決めた方法はくじ引きだ。


 ツヴァイは残念がっていたが、実際ツヴァイで良かったと思っていた。


 旅をして分かったが、ツヴァイの生活能力は奴隷で1番だ。

 炊事洗濯掃除どれを取っても誰にも負けなかった。


 何日滞在するか分からないからな。

 ツヴァイがいれば何日でも生活できるだろう。


 寝静まった夜に魔物が襲って来てもふたりともレベル30を超えているし、大丈夫なはずだ。


 性の相手と抱き枕が無いは残念だが、新しいものを見つけるのもいいだろう。

 王都にも奴隷商会があるはずだ。


 こういうのが欲しいというもの決まってないが、覗いてみるだけでもいいだろ。


 門番に俺達は馬車付きでも泊まれる宿がある聞いたら親切に教えてくれた。

 チップをやったら穴場とかも含めて複数教えてくれた。

 ついでに奴隷商会の場所も教えてもらえた。


 街中の建物は木造もあるが、石や煉瓦に似た造りをしていた。

 さすがに鉄筋コンクリートなわけは無かった。


 宿は三階建てで、裏手に厩舎と馬車を置く場所があったので、旅人や商人用の宿なんだろう。


 情報収集といっても何をすればいいかなんて、俺には全く知識が無かった。


 ゲームだと、公式ホームページや誰かが作った攻略サイトを見れば、進行の仕方がすぐに分かるのに。


 フィーアに聞いてたら、敵地に潜り込んで知りたい情報を持ってる奴を拷問したり、快楽に溺れさせて吐かしたりするそうだ。


 俺が知りたい情報は、相手の戦力かな。

 王都にどれだけの戦力が集まっているか。

 俺を超えるレベルはいないだろうが、警戒はするべきだ。

 この世界について俺には知らないことが多すぎる。

 俺が死ななくても奴隷達が殺されるかもしれないからな。

 奴隷達が勝てない相手は把握しておこう。


 となると、ターゲットはそういうのに詳しい貴族か騎士団員だ。


 夜に大きな酒場とか行けば、そういう奴が見つかりやすい。

 酔った相手を拉致すればミッションコンプリートだ。


 作戦も決まったところで、それまでは自由時間だ。


 買い物のために俺は今アヌビス商会本店に来ていた。

 スリュート伯爵領の商会も大きかったが、こっちとは比べ物にならないな。


 あっちは二階建てだったが、こっちは五階建てで横幅も10メートルぐらいある。

 周りの建物と比べても頭一つ抜きん出ていた。


 買い物のメニューは服や食料や消耗品だ。


「おまえ達はここで服を選んでろ、俺は別のところに行ってる。アインス達の分も忘れるなよ」


「はーい」


「いってらっしゃいませ」


 女の買い物は時間がかかることぐらいは知ってる。


 なら、俺はそれ以外の消耗品を買うとしよう。


 30分以上時間を掛けて買い物をした。

 やはり、アイテムボックスは便利だ。

 いくら買っても荷物にならない。


 一階の服売り場でフィーア達を探した。

 出入り口付近にいなかったから、まだ選んでるのか。

 試着室エリアでやっと発見した。


「ドライこっちはどう、綺麗な青色で可愛いわ」


「きいろいほうがすき」


「ドライは黄色が好みなのね、じゃあこっちの黄色いスカートにしましょう」


「うん」


 まだ服を選んでいたのか。

 女の子は買い物が好きだな。

 俺なんて服は決まった店で見た感じ適当に選んですぐに終わる。


「服は決まったのか?」


「ゼント様、申し訳ございません。もう少々お時間をもらえますか?」


「さっきの服で決まったんじゃないのか?」


「いえ、とらあえず5着ずつ選ぼうと思っていたのですが、10着までしか絞れてないのです」


 フィーアの後ろの服が満タンに入った籠が3個あった。


「その10着全部買おう」


「よろしいのですか?」


「構わない」


 金と時間なら俺は時間を選ぶ。

 これから選ぶとなるとどれだけ時間が掛かるかなんて考えたくない。


「フィーアの分は選び終わったのか?」


「はい大丈夫です」


 バサーッ


 丁度ドライが試着を終えて出てきた。


 白色のシャツに黄色のスカートで爽やか系といったところだ。

 今までのドライのイメージとは正反対だ。


 磨けば光るもんだな。


 男の子のような顔だが、ボーイッシュな可愛いさがあって将来有望なのが見える。


「ぜんとさま……なんか……ちかいです」


「気にするな、おまえも女だったんだなと再確認しただけだ」


 俺が会計に行くぞと歩き出した。

 荷物を持つ気なんて無かった。


「ぜんとさま、このふくきていってもいいですか?」


「好きにしろ」


 ドライは回ったりしてスカートが動くのを楽しんでいた。

 前世で犬が喜ぶ時に回ったりするが、それと一緒か。


「後でその髪もセットしてもらおうか」


「はい!」


 拾った時より伸びてきてるようだ。

 ツヴァイとかに任せてもいいが、せっかくだから専門に任せてみよう。

 どこまで光るか楽しみだ。


「あのー……ゼント様……わたしもよろしいですか?」


「あぁ、そのつもりだ」


「ありがとうございます!」


 フィーアは綺麗に一礼した。

 美容とか俺は気にしたこと無いが、綺麗になるっていうのは嬉しいことなんだな。

 特に女は。

 アインスやツヴァイにも今度連れて行ってやるか。


 商会の人間に聞いたら、この店でもやっていることだったのでそのまま頼んだ。


 ついでに俺もセットしてもらうことにした。

 服は選ぶのが面倒なのでオススメを適当に購入した。


 そうこうしている内に日が完全に暮れてしまった。

 ドライとフィーアの綺麗な姿を見れたからよしとしよう。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 アヌビス商会に聞いた有名な大きい酒場で俺達は夕食をいただいていた。


 ドライの食事はちゃんとフォークとナイフが使えるようになっていて、もう汚いとは言わせないという感じだ。

 これもツヴァイの教えの成果だ。


 問題は周りに騎士団連中が一人としていないことだ。

 この国では騎士さ酒場に出入りしたりしないのか?


 近くを通りかかった店員に聞いてみた。


「そうですね、最近は戦の準備とかで街で見かけることは少ないです」


 戦の準備?


 魔王が攻めてくるかもしれないから、その準備をしてるっことか。


「にぃちゃん、ここのもんじゃねぇな」


 隣のテーブルで飲んでいた二人組のおやじが割って入ってきた。


「今日ここに着いたばかりだ」


「あんたも逃げて来たってことか?」


「そんなもんだ、ここにはそういう奴が多いのか?」


「そりゃあこの王都は王国騎士団が守ってるんだぜ。ここより安全な場所はねぇよ」


「魔王が攻めて来て、戦場になるとかは考えないのか?」


「ないない、第一騎士団長ギャラルは一人で竜を倒したって噂だ。魔王なんて真っ二つだ」


 おやじの言葉にドライとフィーアが何か言いそうになっているが、手で押さえてた。


「そうか、それは安心だな」


「ところでよ、にぃちゃん……話の礼がわりにそっちの別嬪さん達に注いで貰えないか」


 おやじ達の目線がフィーアを向いている。


 俺は首を指示を出した。


 フィーアは立ち上がって酒が入った魔法瓶でおやじに注いだ。


 それを見たドライが俺の卓の魔王瓶を持ってもう一人のおやじのところに歩いた。


「どうぞ」


「お、ありがとよ」


 おやじはドライの高さにコップを持ってしゃがんだ。

 ドライは両手で進捗に注いだ。


「美人の子供に注いでもらえて嬉しいぜ」


「俺も次はそっちの子に注いでもらいてぇな」


 フィーアに注いでもらったおやじは中身を一気に飲み干すとドライにコップを突き出した。


 ドライはまた進捗に注いだ。

 この一生懸命さがいいのだろうか。

 髪も整えて薄く化粧もしてるから多少年上に見えるだろうが、それでも半分以下の子にしてもらって嬉しいもんなのか。

 子供のいない俺には分からないし、ロリコンでもない。

 もしかしてたら、フィーアよりドライぐらいの年齢が好きな危ない連中なのかもな。


 おやじ達の話では今王都にいるのは第一騎士団と第三騎士団、第四騎士団は遠征中とのことだ。


 遠征先も目的も分からないが魔王の調査の為にスリュート伯爵領に向かったのではないかって噂してるらしい。


 オーストセレス王国には騎士団は四つのみだそうだ。


 他に貴族達が独自の部隊を持ってるらしいが、それも民間人や冒険者を金で雇った部隊らしく、強さは騎士団程ではないらしい。

 このおやじ達もドワーフ族との戦争に参加したことがあるそうだ。

 今はただの低級冒険者で軽く依頼をこなして生活費を稼いでいた。


「有益な情報をありがとう。ここの飯代は奢らせてもらうな」


 俺は立ち上がって、銀貨が十数枚入った袋を卓においた。


「気前がいいなにぃちゃん」


「美人の嬢ちゃん達もまた飲もうな」


 俺達は店から出た。


「俺はこれから城に侵入を試みてみる。おまえ達は宿に戻ってろ」


「ゼント様お一人で大丈夫ですか?」


「こういうのは人数が少ない方がいい。無茶をするつもりもない。駄目だったら素直に引き返してくるから安心しろ」


「かしこまりました。お気をつけて」


「いってらっしゃいませ」


 フィーアとドライは綺麗に一礼した。

 フィーアは当たり前だとして、ドライはアインスの授業の成果か。


 俺は建物の間の暗がりに入ると、アイテムボックスからフード付きの黒いマントを取り出して被った。


 隠密スキルがあるからバレにくいとは思うが、用心するに越したことはないだろ。


 アインスから王城内部の大まかな間取り図を貰っていた。


 人の出入りが多いところや誰の部屋とかも記入してある。

 王女の部屋の場所も記入してある。


 王女を奴隷にして内部と外部から攻めれば楽勝だ。


 今回はアインスが書いた間取り図があっているかの確認もある。

 王女の部屋に侵入出来そうならするが、そう上手くはいかないだろうな。


 門を飛び越えて乗り込むが魔法のセンサーのようなものに引っかかるようなことはない。

 魔法がある異世界とはいえ、そこまで技術が進んではいない。

 侵入は思っているよりかは簡単だが、人の目には気をつけて無ければならない。


 侵入経路は大体決めていた。

 アインスが外で水浴びをしてたという場所だ。


 そこなら警戒は薄い。

 男性はいないし、女性は無防備な姿を晒しているからだ。


 他意はない。

 そう、他意はない。


 近くの木に隠れて見ていると、1人の女騎士が来た。

 女騎士は周りに誰もいないことを確認すると甲冑と服を脱いで肌を晒していった。


 細身の顔と身体、肌は人形のような白さで病気ではないかと心配するほど白すぎて逆に綺麗だと思ってしまった。

 引き締まった腕と脚からは繊細さが感じ取れた。

 胸部はそれに反して主張していて、全体が細い分目立っていた。


 女騎士が全ての服を脱ぐと、その身体は傷だらけだった。

 お腹には大きな火傷のような跡、腕や脚にも切傷が多く刻まれていた。

 顔には傷は見当たらないが、服で隠れていた部分の殆どは傷があった。


 女とはいえ騎士だから傷があって当然なのだが、これは誰にも見せたくないのが分かってしまうな。


「おう、やっぱりここにいたかヴンディル」


 女騎士が来た方向から男騎士が5人現れた。


「おまえがいっつも1人で水浴びしていたことは知っていたが、そんな秘密があったんだな」


「傷だらけの身体なんて誰にも見せたくねぇよな。特に女は」


「今夜は俺達がその身体で楽しんでやるからよ」


「気持ちいいことしようぜ」


 女騎士はタオルと剣を手にするが、多勢に無勢だ。

 抵抗の意思はあってもそれが叶わないのが現実だ。


「前にもここで女騎士が水浴びしていたんだがよ。そいつは魔王の幹部の子孫でよ。楽しむどころじゃなくなったんだ」


「それからここに近づく人もいなくなってよ。俺達の楽しみが減っちまったんだ」


「最近ヴンディルがここを使ってることを知ってよ」


「こりゃあ、前に楽しめなかった分まで楽しませてもらうぜ」


 男騎士の1人がヴンディルに触れようとしたその時、


 男騎士は壁まで吹っ飛ばされそのまま意識を失った。


「誰だおまえは⁉︎」


 4人の騎士達が剣を構えた。




「正義の味方だ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る