第58話 正義の味方


「正義の味方だ」


 俺は拳を構えた。

 魔剣を使う程でもない。

 騎士達のレベルは20代ぐらいで、敵にならない。

 なら、スキルを上げるのに使わしてもらおう。


「武器を構えないなど、俺達を舐めてるのか」


「愚か者に使う武器は持ち合わせてない」


 俺のアイテムボックスには、超大刀シュヴェルトリーゼとデスサイズと魔剣の三つだ。


 聖剣とか持っていれば勇者ぽかったかもしれないが、無いものは仕方ない。


 そんなことはどうでもいい。


 一番許せないのは此奴らのせいでアインスが奴隷に堕ちたことだ。

 そのおかげで俺がアインスを手に入れることが出来たんだが、アインスの気持ちを考えるとそんなことは言えない。


「王城内部への不法侵入、並びに騎士への暴言、即刻処刑してやる」


 4人の騎士は剣を振りかぶって襲いかかった。


 罪人はどっちだよ。

 自分達がしていたことを棚上げにして、何言ってんだ。


 こいつらの動きなど、俺にはスローモーションに見えていた。

 回避するのも、カウンターをするのも簡単だ。


 だから、4人を倒すのに10秒もかからなかった。


「雑魚共が」


 殺してはいない、気を失わせてるだけだ。

 まだ、大きな騒ぎを起こすつもりはないからだ。


「あのーありがとうございます。あなたはいったい?」


「俺は正義の味方……魔王だ」


 魔王が正義の味方なんて、矛盾してるかもしれないがそれが真実だ。

 俺は自分の正義を信じて行動している。

 だから俺は正義の味方だ。


「シューネフラウ王女様がおっしゃっていたことは本当のことだった。疑っていた自分が恥ずかしい」


 王女?

 なんのことだ?


「その王女はなんと言ってたんだ?」


「はい、フラウ王女様は偉大なる魔王様がこの世に再び君臨し、我々を導き、安寧の日々を与えて下さると申していました。勇者ではなく魔王ということに疑いを持っていましたが間違いでした。わたしを助けて下さった魔王様はまさしく救世主とお呼びするべき存在です」


 王女は魔王を信仰しているというのか。

 なんでそんなことになってるか分からないが、利用できるものは利用させてもらおう。


 女騎士は目を閉じて両手を合わせて祈りのポーズをとった。

 なんだろう?

 感謝されてるのだが、そのポーズは嬉しくなかった。

 それよりも自分の格好に気付かないのか。

 見えてはいけないものが全て見えてしまっている。

 俺にとっては目の保養になるからいいが、その状態でいつまでもいられると、理性を保てなくなってアイツらと同じになってしまう。


「良く分かった。だから早く服を着たらどうだ」


 俺はこれ以上見ないように背中を向けた。

 女騎士はバサッバサッと慌てて服を着た。


「すみません。お見苦しいものをお見せしました」


「そんなことはない、白く輝いていて綺麗な身体だ」


 着終わったと思って俺は振り向いた。

 女騎士は片膝をついて、アインスと同じように忠誠のポーズをとっていた。


「こんな傷だらけで……」


「おまえの名前は?」


「え……ヴンディルと申し訳ます」


「ヴンディル、おまえは生まれた時からそんなに傷だらけだったのか?」


「いえ、違います」


「その傷はおまえの努力の証だ。自分の為、他人の為、大切なものの為、色んなものを守ろうとしてついた傷なんだろ」


 俺はヴンディルの手を取って、目を見つめた。


「その傷は美しい。こんなにも美しい身体を持つ騎士を俺は他に知らない。見ていて不快になんて一切ならない。誇りを持っていい」


 ヴンディルは真顔のまま涙を流していた。

 感情が分からない。

 どういう顔なんだそれは。


「ありがとうございます。私の魔王様にシューネフラウ王女様と同等の感謝を捧げさせていただきます」


 なんか上手くいって良かった。

 これでこいつは俺の味方だ。


「なら、俺のものという証として奴隷になる気はあるか?」


「奴隷ですか?」


「そうだ。俺は自分のものと決めたものは魔王の奴隷にしている。おまえにはその価値がある」


「ありがたい事ではありますが、私はシューネフラウ王女様に忠誠を誓っています。シューネフラウ王女様より先に奴隷にしてもらうなど、おこがましい事です」


「そうか、それがおまえの意思か」


「ですが、シューネフラウ王女様が魔王様の奴隷になった暁には私も魔王様の奴隷にさせていただきたいです」


 ふーん。

 こいつなりの流儀とかポリシーみたいなものか。

 将来的に俺のものになるなら、もう俺のものってことだよな。


「ヴンディルの気持ちはよく分かった。明日同じ時間に来るから王女に準備をしておけと伝えてくれ」


「かしこまりました。魔王様のお出迎えの準備を整えておきます」


「それと此奴らの後始末を頼んでいいか?」


 俺は転がっている5人を指差した。


「はい、この不届き者達は我々で処分しておきます」


「よろしくな。じゃあ俺は帰るから」


「お気をつけて」


 俺はジャンプして壁を登ると、そのまま屋根伝いに暗闇に消えた。


 ヴンディルに案内してもらって、そのまま王女に会うよりも、向こうから出迎えてくれる方が侵入も脱出も上手く行きやすい。

 急ぐ事でもないし、ゆっくり安全に行動しよう。



 宿に着いたが、部屋の中は暗かった。

 旅で疲れていてすぐに眠ってしまったのか?


 アインスが知ったら説教だな。

 奴隷が出迎えもせず、主人よりも早く寝るとはなにごとですかってな。


 ドアを開けて部屋の中に入ると、ドライとフィーアの姿がなかった。

 代わりに剣と防具を武装した男が3人いた。


「ようやくお帰りか、王都の夜は楽しめたかい?」


 ベッドに腰掛けていた男が立ち上がって近づいて来た。


「俺の奴隷はどこだ?」


「それなら俺らの雇い主が貰った。ほら……これで新しい奴隷でも用意しな」


 男は俺の足元に銀貨を2枚投げた。

 ドライとフィーアがの金額がこれとは安く見られたもんだな。


「逆らうなんて思わないことだ。俺達の雇い主はこの国の上級貴族のエントフュールング様なんだぜ。殺されたくなかったら素直に諦めな」


「おまえも悪いんだぜ、あんな可愛い女を2人も侍らせていたんだからな。貴族連中に目をつけられるのは当然だろ」


「あそこの貴族の長男は幼い子好きで有名だからな……今頃お楽しみの最中だろうよ」


「もう1人も美人だからな、他の兄弟に相手をさせられているだろうしな」


「そういうことだ。次からはもっと醜女の子を奴隷にするんだな」


 男達は笑いだした。


 もういいだろ。

 今聞ける情報はこれだけだ。


 なら次は……




 拷問だ。




 バタッという音が3回した。


 男達が床に倒れた音だ。

 意識は無くしてない。

 俺も手加減が上手くなったな。


 男の髪を掴んで持ち上げた。


「てめぇ……こんなことしてただですむと……」


「俺の質問にだけ答えてろ。2人の場所を言え」


「誰が言ぎぃやややや!!」


 俺は男の右手にナイフを突き刺した。

 アヌビス紹介で買ったばかりで、切れ味は保証付きだ。


「早く答えろ、出ないと身体が穴だらけになるぞ」


「俺達は上級貴族にいてええええー!」


 左手にナイフを突き刺した。 


「早くしろ、答えないなら死んでもらう」


「待ってくれ、俺達だって好きでこんなこと……」


 俺は男の首を切って絶命した。

 時間がないんだ。

 余計な話を聞いてる暇はない。


「さぁ、次はお前たちだ。俺は寛大だからな、正直に喋った方は逃してやる」


「分かった!2人は貴族の屋敷にはいない。あの野郎はいつも西通りの奥に連れ去るんだ」


「おい!づるいぞ!貴族連中は凄腕の元冒険者を雇って用心棒にしてるんだ」


 その後も2人は我先にと続けようとするが、2人もいらない。

 場所を知っている方を残して、もう1人は斬り殺した。


「おまえには道案内をしてもらう」


「俺は生かしてくれるんだよな」


「嘘をつかなければな」


 俺は男を抱えて外に飛び出した。

 今のレベルなら男1人ぐらい片手で持つことが出来る。

 人目など気にしてる場合じゃない。

 死体を部屋に残してしまったが、隠滅する時間などないので放置するしかなかった。

 宿の人にバレたりするかもしれないが、仕方ない。


 今優先することは1秒でも早く移動することだ。


 もしドライとフィーアに手を出したその時は……

 この王都をスリュート伯爵領と同じ目にあわせることとなる。


 それをしないのは、王女がこの王都にいるからだ。

 アインスのために王女だけは生かしといてやらないとな。

 それとヴンディルも。


 ヴンディルの話だと王女は魔王を信仰してるらしいからな。

 それが本当なら、滅ぼさずに奪ってしまおう。


 俺も国を手に入れられるなら手に入れたい。

 世界征服の第一歩を踏み出す時だ。


 それでも……


 俺の怒りとアインスの気持ち、どちらを優先するかなんて決まっているがな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る