第54話 敗戦処理と出発


 晩飯の支度をツヴァイとフィーアに任せて俺は村の様子を見るためアインスを連れて適当に歩いていた。

 ドライは干し肉を与えて大人しくしてもらった。


 随分とボロボロにやられていた。


 ギガンツァーが現れたときの地震からさらに魔物達に壊されたり、自分達がつけた火によって焼けてしまったりと、まともに残っているのは全くと言っていい程に無かった。


 家畜共も今は仮設テントで治療を受けてる者や焚火の近くで黙って座ってる者など皆意気消沈と言った感じだ。


 すると、一匹の家畜が俺の目の前に立って深くお辞儀をした。


「魔王様……この度は私共を救っていただきありがとうございます」


 確かこの村の村長だったな。


 村長に続いて他の家畜達が集まって来た。


「ありがとうございます魔王様!」

「魔王様のおかげで家族を失わずにすみました」

「あなたこそ私たちの救世主です。この恩は絶対に忘れません」

「魔王様……本当に感謝いたします」


 家畜共はそれぞれ頭を下げながらお礼の言葉を口にした。


 ふーん。


 ちゅんと魔王の家畜という存在を受け入れているようで感心した。

 救って貰ったことを棚に上げて開き直るなんて奴がいたら、殺してやろうかと思ってしまうだろう。

 死人も出たが、それでも生き残りは40人以上だ。

 命を救ってもらった恩にはそれ相応のもので返してもらわないとな。


「お前らの命は守れても村自体はそうはいかなかったな、それについては悪かった」


「魔王様……」


 これは俺の本音だ。

 俺は約束を守らない人は嫌いだ。


 俺は守ると約束した。

 しかし、村はこの有様だ。

 俺からして見れば敗戦に等しかった。


 俺個人としての勝負には勝利した。

 だが、全体的な試合には負けてしまった。


「壊れた家はまた建て直せばいいことです。しかし、失われた命は戻ることは出来ません。助けていただき本当にありがとうございます」


 村長達は言い終わると、食事の用意をしている集団の方へ戻っていった。


 食事は魔物の肉が大量に手に入ったので、問題はないだろう。

 不味い物や食えない物は村の隅で燃やして捨てたそうだ。

 死体を放置するのも衛生上良くはないだろうからか。


 そういえば、異世界に来てこんなにも感謝されるのは初めてだ。


 今までは自分のためだけに人や魔物を殺して来た。

 恨みを買おうが、なんと思われようが仕方ないと諦めていたところがあった。


 今回は違った。


 家畜同然に扱うと言っているのにそれを受け入れられ、感謝されてしまった。


 不思議な感覚だ。


 元を辿れば、すべての原因は俺にあるような気もするが気のせいだろう。


 誰でも助けようなんて思いはしないが、俺のものになった存在の助けぐらいは聞くようにしようと思った。


 大勢の人に感謝されるのも気持ちいいもんだな。


 その後はツヴァイが用意してくれた美味い飯を食ってすぐに寝た。


 早く体と精神を回復させるためにツヴァイを抱き枕にした。


 寝る時にアインスとフィーアが何か言っていたようだが、気にしないでおくことにした。






 次の日の昼間


 俺はアインス達に命じて荷物をまとめて村人達を村の隅に集合させた。

 怪我人もいたが、無理矢理にでも移動させろと言った。

 でないと死人が出ることになるからだ。


「魔王様、村人達の移動を完了しました」


「ご苦労さま」


「ゼント様……これから何をなさるのですか?」


「このまま村に住み続けるのは難しいからな。住めるところを用意してやろうと思ったんだ」


 ツヴァイはどうするのか分かってないようだが、黙って見てろと後ろに追いやった。


 まずは片付けと掃除だな。


 俺は潰れた家の前に移動すると両手を地面につけて、地魔法を使った。


 潰れた家を穴に沈めて、その中に土を盛り込んで埋めた。


 何か使える物や遺品が残っているかもしれないが、それは朝食を済ませて後に家畜達にすぐにやれと命じていた。


 間に合わなかったとしたら、それは俺のせいじゃない。

 間に合わせなかった家畜達が悪い。


 家の掃除が終わったら、次は住むところだな。


 俺は再び地魔法を使った。


 地面が大きく揺れると、巨大な四角形の箱が出現した。


 一辺6メートルの土で出来た箱だ。

 中はただの空洞だが、人1人通れるぐらいの入り口があった。


 俺はそれを元あった潰れた家の跡に建てていった。


 その後も潰れた家を埋めて、その跡に箱を建てていった。


 全ての片付けと建て直しが終わり、アインス達のところに戻った。


「ゼント様……これは……」


「いつまでもテント暮らしってわけにもいかないだろ。家を用意してやったんだ」


 家畜達を見ると驚きで声が出ない者、涙を流してる者もいた。

 よくは聞こえなかったが「魔王様」や「救世主様」など呟いていた。


「ありがとうございます魔王様、命だけでなく住む場所まで……本当にありがとうございます」


 フィーアは泣き崩れてしまった。


「この村は魔王の領地なんだぞ、繁栄こそあれ、衰退なぞありえない」


 次に俺は水魔法の水刃で森を伐採していった。

 ツヴァイにも手伝わせたが、レベルが足りず何発か打ってやっと一本倒した。

 勿論俺は一発で倒せた。

 威力を上げれば貫通して何本も倒せた。


「あれの中は空っぽだからな、家具や必要な物は自分達で作れ」


 俺はハウスメーカーじゃないからな。

 そこまで面倒見てやる気は起きなかった。


 でも、道具がないと作れないだろうからな。

 俺はアイテムボックスから最初に会った盗賊達から貰った剣や服などをすべて出した。


 レベルも上がったことでもう身を隠す必要もなかった。

 騎士団とかと戦っても大丈夫だろ。

 アインス達も今回の戦いでレベルも上がったことだし、正面衝突しても平気だと判断した。


「これで武装すれば、魔物が襲ってきても対処できるだろ。無理なら俺が作った家に立て篭れ。ここら辺の魔物が襲ってきても傷一つ付けることも出来ないだろうからな」


 家畜達は感謝を示すように膝をついてお礼を言ってきた。

 なんかアインスが後ろで手を上下させて指示でしているようだが、気づかないふりをしておこう。


「本当に何から何までありがとうございます。

ところで、魔王様はこれからどこかへ行かれてしまうのですか?」


「予定通り王都へ向かう。この国を滅ぼすためにな」


 俺は堂々と目的を告げた。

 家畜達はひそひそと話していた。

 さて、どんな反応をするかな。


「魔王様のことです。私共には理解出来ない深いお考えがあるのでしょう。私達は魔王様に救っていただいた身、魔王様のすることを信じております」


 深い考えなどないが、支持してくれるというなら見放さないでおくか。

 もし反対意見なんていったら、建てた家をぶっ壊してやろうかとか思ったが、やらずにすんだ。


「商人は生きてるのか?」


「はい、ここにいます」


「お前の馬車は残ってるか?」


「は……はい、無事です」


 なんだか歯切れが悪そうだな。


「どこにある、案内しろ」


 商人は森の中へと移動した。

 俺はアインスもフィーアを連れてついて行った。


 おそらく、いざとなったら一人だけでも逃げようと企んでいたんだろう。

 食えない奴だ。


 馬車は二頭引きの幌馬車だった。

 荷台の広さは5人が乗っても大丈夫そうだった。

 御者台の下に貴重品入れのような隠しスペースがあった。


 手入れもきちんとされてるようで、問題は特に無さそうだった。


 アインスとフィーアもそれぞれ馬や馬車の状態を確認した。


「アインスとフィーアは操車が出来ると聞いたが、動かせそうか?」


「騎士団にいたときに習ったので大丈夫です」


「私も久しぶりにはなりますが、問題はありません」


 移動中に俺も習えば3人で交代で回して行ける。

 魔王が操車なんてやるものではないが、正直やってみたいという気持ちがあった。


 ゲームで乗馬なんてこともあったから、憧れがあった。

 その内馬を増やすのもいいな。


「ということだ。この馬車は貰っていくな」


「え⁉︎」


「家畜の物を魔王の俺が貰うことの何か変なことがあるか」


「全くございません」


「ありがたく献上するべきですね」


 商人はぽかーんと阿保らしく口を開けていたが、無視して馬車を貰った。


 アインスに手綱を握らせたが、馬は問題なく前へと進んだ。

 ちゃんと躾けてあるようで、アインスの扱う通りに動いた。


 ツヴァイ達のところに戻ると、ドライが小走りで近寄って来た。


「うまだー」


「ドライちゃん、あんまり近づく危ないですよ」


 ツヴァイがドライの肩を押さえた。


 ドライが人化スキルを使ってるせいもあって見た目姉妹のようだが、種族が全く違うんだよな。


「これから王都へと移動するから準備しろ。場所はフィーアが案内してくれる」


 馬車の中で今、フィーアが商人から王都へ道順を聞いてくれている。

 地図を見るのが得意なフィーアが案内してくれれば安心だ。


 俺がやったらまた迷いそうだからな。


 適材適所というやつだ。


 荷物と言っても殆どは俺のアイテムボックスの中にあるので、食糧や寝具などの道具をアイテムボックスから取り出して荷台に並べた。


 一々アイテムボックスから出し入れするのは面倒くさいし、魔王が荷物持ちなんてカッコ悪くて威厳がない。


 準備が終わると全員馬車に乗った。


 後ろでは家畜達が見送りに来ていた。


「魔王様、本当にありがとうございました」

「救世主様〜」

「アインスさん達もありがとうございます」

「また来てください」


 ツヴァイ達は手を振っていたが、俺は特に返事はしなかった。

 魔法を連発で使って少し疲れていたし、魔王がそんな事するわけないだろう、とやらなかった。


 それよりも王都に着くまでにどうするか考えなくちゃならなかった。

 魔王というのも楽じゃない。


 俺は目をつぶった。


 しばらくは村に戻ることはないだろうと思っていた。


 それが予想より早い時期になるのだが、この時のオレには知る由もなかった。

 

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