第52話 崇拝
どれくらい眠っていただろう。
起き上がろうと手を伸ばすが上手く力が入らなかった。
朦朧とした意識の中、倒れる前の記憶を思い出そうとした。
ギガンツァーにトドメを刺した後、急な目眩や脱力感と共に意識を失ったんだ。
俺は前にスリュートダンジョンでアインスがツヴァイに教えていた話を思い出した。
「ツヴァイあまり魔法連発してはいけませんよ、貴方のレベルではすぐに魔力量が底をついてしまいますから」
「魔力量が無くなるとどうなってしまうのですか?」
「私は体験したことないので聞いた話ですが、魔力切れになると急に目眩や脱力感が襲って来て意識を失ってしまいます。それから1日か2日……1週間以上意識が戻らないこともあるそうです。ですから、ご自分の魔力量に注意してください」
そう言えばアインスがそんなことを言ってたな。
その時は俺がそんなことになるわけ無いと思って特に気にしてなかったが、これが魔力切れというやつか。
意識が戻ったという事は魔力量や体力がある程度は回復したということだ。
しかし、脱力感というか微妙に体に力が入らなかった。
意識が無い中、他の魔物に襲われなかったのは奇跡だったな。
と思ったが周りを見渡すとそうでもなかった。
焼け野原・大型の穴・特大の瓦礫など。
周りに魔物がいたとしても巻き込まれてくたばってるか。
それにそんなことをする相手にむやみに手を出すことなんてしないか。
それよりも気になるのは目の前に転がってる超大刀だ。
周りにある肉片はどうでもよかった。
スプラッタなんてもう気にならなくなっていた。
俺は戦利品に手を伸ばした。
超大刀の持ち手に触れると光だしたと同時に刀が縮小していって、俺の手のサイズに合った丁度良い大きさへと変わった。
刀身も2尺3寸(60センチメートル強)ぐらいで前世の博物館で見た基本的な打刀の大きさへと変わった。
この武器もデトートスが持っていたデスサイズと同じで使用者に合わせて大きさを変えてくれる便利機能付きだ。
ギガンツァーの身体がバラバラに吹っ飛んだにも関わらず、この刀は原形を止めて刃こぼれが全く無かった。
いったい何で作ったらこんな武器が出来るんだ。
デトートスに聞いておけば良かったな。
次にこういう武器を持ってる奴に会ったら聞いてみよう。
まぁ、会いたくはないけど。
このまま行ったら、前魔王関係者に会ってしまいそうで嫌だが、世界征服の為には仕方ないことだと諦めよう。
鞘にも触れると刀身に合わせた大きさに変わった。
刀を鞘に収めて鑑定してみた。
名前:シュヴェルトリーゼ
補正:破壊不能、切れ味+(特大)、貫通プラス+(大)
実際に使って見ないと分からないこともあるだろうが、能力だけ見ればレッドベアーの魔剣と比べるとかなりの高性能だ。
鞘を腰のベルトで縛ろうとしたが、上手くいかなかった。
しょうがないので、アイテムボックスにしまうことにした。
後でアインスか家畜共の誰かにベルトにホルダーみたいな物を作ってもらって付けるようにしよう。
タール村に戻ろうと足を向けたら、村の方から火の手が上がっていた。
周りの焦げ臭い匂いや黒い煙りで気付かなかった。
いったい誰が村を襲っているんだ。
ギガンツァーは間違いなく倒したはずだ。
考えたところで答えは出なかった。
まだ全回復してはいないがそんなこと言っていられる状況じゃなさそうだ。
俺は飛んでタール村まで急いだ。
昨日の魔物共のレベル程度ならアインス達でも大丈夫だと思うが、もしかしたらまた前魔王の幹部関係者が襲って来るかもしれなかった。
誰であろうと俺のものを俺以外に傷つけられることを許さない。
タール村の上空まで来ると、いくつもの魔物の死体が転がっていた。
そこに混じって人間の死体も転がっていた。
アインス達はすぐに見つかった。
広くない村だから見つけること自体は簡単だった。
問題はアインスの前にケンタウロス?がいた。
前にアインスから聞いた前魔王の幹部にはケンタウロスはいなかった。
ここからでも分かるが、奴のレベルは70から80ってとこだな。
デトートス程じゃないが、アインス達は到底太刀打ち出来ない相手なのは間違いない。
会話をしているようだから聞いてみよう。
俺は悟られないように気配を消して近づいた。
相手の情報を少しでも収集しとかないとな。
「それは出来ない。この身この魂までその全てがご主人様の所有物だ。ご主人様の許可なしにおまえに渡すわけにはいかない」
「ふん、くだらい……おまえの魂はフェンリルのもの、つまりは魔王様のものだ。おまえに所有権など最初からありはしない」
ケンタウロスがアインスに向かって槍を振り下ろしたと同時に俺は瞬足の動きで移動した。
アイテムボックスから納められた刀を取り出して抜刀した。
抜刀術など全く分からないと思っていたが、スキルによりやろうとすると体が勝手に動くように自然に出来るようになっていた。
「魔王の持ち物ということなら問題ないな」
ケンタウロスの槍先はカタンと音と共に地面に落ちた。
「俺が魔王だからな」
刀の切先をケンタウロスに向けて言い返してやった。
俺のものに手を出した奴は絶対に殺してやる。
「誰だきさまは?」
「魔王だと名乗ったはずだが」
「きさま如きが魔王様の生まれ変わりなどであるわけがないだろ!このグラータを馬鹿にするなよ人間」
グラータと名乗ったケンタウロスは背負っていた二刀の両刃剣を抜いて左右に構えながら怒りを露わにした。
言って分からない奴には力で示すしかないか。
それにアインスやドライに怪我をさせた魔物を生かしておく理由はない。
情報?そんなものは収集できる時にすればいい。
今は俺の鬱憤を晴らす方が優先される。
「おまえ達は下がってろ、後は俺がやる」
「申し訳ございません」
「すみません」
アインスはドライを抱えてツヴァイと一緒に村人達と一緒に治療を受けた。
俺はグラータに殺気を放った。
殺気の放ち方なんて良くは知らないが、目に力を入れて『おまえを殺す』という気持ちを込めて睨んだ。
グラータは数歩後退り、大量の汗を流した。
後ろの魔物達は逃げ出したり、恐怖を取り払おうと暴れたりと大惨事だ。
「あなたは……いえ、あなた様は本当に……」
グラータは思った目の前の少年が敬愛するケンタウロスに匹敵どころか凌駕するやもしれない存在なんだと。
そんな存在は魔王だけだと。
俺は刀を鞘に納めて抜刀の構えを取った。
「今更気づいたところで遅いんだよ、俺のものに手を出した時点でお前は死んでいる」
それは一瞬だった。
アインス達からはいつの間にかグラータの前から後ろへ瞬間移動したようにしか見えなかった。
首を切られて崩れ落ちるグラータにはなんとか見えていた。
見えたが反応出来なかった。
見るだけで精一杯だった。
抜刀の構え→抜刀→刀を納める。
それは1秒未満に行われた出来事だ、
見ることが出来たとしても、避ける事も防御する事も許さない最速の攻撃。
斬られた相手は気づいた時には死んでいる。
グラータの頭が落ち、遅れて体が頭を斬られたことに気づいて崩れ落ちた。
「さてと、あとは雑魚の処理だな」
俺はシュヴェルトリーゼからデスサイズに持ち替えた。
殲滅戦には刀よら鎌の方が大量の敵を倒しやすいからな。
その後の戦場は地獄絵図と言っていいような惨状だった。
アインス達は治療を受けながらそれを見守った。
本来なら横になって安静にするべきなんだが、主の戦う姿を見れるというのにそれを見逃す愚行を犯すわけにはいかないと、前のめりに見開いていた。
フィーアもアインスに言われ、治療の手を止めて自分の主の戦う姿を見ていた。
これがフィーアにとって初めて見る主の戦闘姿だった。
抵抗する魔物、逃げ出す魔物、恐怖で動けなくなった魔物、戦意を無くしていようが容赦なく倒していった。
アインスを救った姿はまるで物語のピンチに駆けつける勇者のようでカッコいいと思ってしまった。
今の戦う姿は勇者とはかけ離れてはいるが、その強さに見惚れてしまった。
先程の刀を振るう姿は見えなかったが、今の鎌を振るう姿ははっきりと見ることができた。
フィーアはいつもポケットに入れていたメモ帳にゼントをスケッチし始めた。
ペンのスピードは書いていく度に段々と速度を上げていき、何枚も埋めていった。
顔のアップや全体図など様々な姿が書き写してた。
この書く速さはフィーアの持つ記憶探知スキルの副作用だ。
書くことを続けてきたフィーアの筆捌きは計り知れ無い腕になっていた。
摩擦で髪が破れたりしないように絶妙な力で腕を振るった。
集会所で事務仕事をしていたこともその一因だ。
周りがフィーアの行動に気づいて声を掛けようとしたが、その気迫に押し負けて黙ってしまう。
フィーアも声に気づいてはいるが、そんなことよりも重要なことが目の前で起こっているために無視するしかなかった。
一瞬でも目を離すことは許されないからだ。
その一瞬がベストショットを取り逃がしでもしたら、後悔しきれない。
あぁ、今ならアインスさんがあそこまで崇拝する気持ちが分かってしまう。
この気持ちを抑えることは自分でも難しい。
私の魔王様……どうかあなたのお側でその気高きお姿をいつまでもお見せ下さい。
名前:ゼント
レベル:260up
魔法:〈火魔法(上)LV10〉 〈水魔法(上)LV10〉up〈地魔法(上)LV10〉up 〈闇魔法(上)LV1〉up 〈光魔法(上)LV5〉up
スキル:〈剣王LV10〉〈槍士LV8〉up〈闘王LV1〉〈投擲LV10〉〈隠密LV10〉〈自然回復LV10〉〈運搬LV10〉〈奴隷契約〉〈鑑定〉〈アイテムボックス〉
称号:無能王
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