第48話 家畜


 翌日、ツヴァイの作った朝食をとった後、集会所に『綺麗な物』を受け取りに行った。


 中には昨日と同じ受付嬢が2人がいた。

 受付嬢はこの2人だけなんだろうな、フィーアがいなくなったら、残り1人になるがどうでもいいか。

 足りなくなったら、どこかから足してくるだろう。


 集会所の奥では中年ぐらいの男が1人でテーブルで食事をしていた。

 他に人はいなかった。

 あの冒険者もどき達がいないのはよかった。

 また変な絡みかたをされたら、衝動で殺してしまうかもしれないからな。

 面倒くさいことはしたくない。


 フィーアは俺を見るなり早足で近付いてお辞儀をした。


「おはようございますゼント様、主人にわざわざ御足労いただき申し訳ございません」


「別にいい、引き継ぎ作業や荷物の整理は終わったのか」


「申し訳ございません、まだやる事が残っていまして……」


「分かった、俺達はこれから森に入って残った魔物を狩ってくる。王都に行く商人はどこにいる?」


「商人でしたらあちらで食事を取っています」


 奥のテーブルで食事を取っていた男が商人だった。


 俺は商人の向かいの椅子に腰掛けた。

 丁度商人は食後のドリンクを味わってるところだった。


「食事中に悪いな、話は聞いてると思うが俺がゼントだ」


「はじめまして、私はバアナと申します。こんな形での挨拶となりすみません」


「話しかけたのはこっちだ、気にするな」


「ありがとうございます。それで王都行の馬車に同乗したいと聞いておりますが、相違ないですか?」


「間違いない、人数は俺と奴隷4人でいくらぐらい掛かる?」


「お代は要りません、魔物を排除しこの村を救ってくださるお方に代金など請求できません。今回はその感謝の印だと思ってください。ただ、道中魔物が襲って来た場合の対処をお願いしても良いですか?」


「護衛も無しにここまで来たのか?」


「いいえ、護衛は信頼できる者がいますが、その者には主に馬車の荷物の護衛をお願いしています」


「なるほど……そういうことか……」


 護衛として魔物退治をお願いしたいが、信頼出来るかは別の話ということか。

 警戒心を抱くのは普通のことだな。


「ご不快でしたら、謝罪いたします」


「構わない、俺も同じ考えだ」


「御理解いただきありがとうございます。ですが、『フィーア』さんの紹介ですから、それなりに信用はしていますよ」


「俺もお前の信頼度が上がったところだ」


「恐縮です」


 フィーアが奴隷になったことは知っていたが、何も突っ込んで来なかったな。

 この村の出身と聞いていたから、何か言ってくると思っていたが、素直に状況を受け入れていた。

 情報を疑うのと信じないのでは意味が違う。

 事実を突きつけられて、信じたくないと思って行動し続けるとバカを見る。

 商人とって情報は武器だ。

 こいつはただプライドが高いだけのバカではなくて安心した。


 商人の人格と確認が取れた後、俺達は森に行こうと思って立ち上がった時、


 ドゴォォォォォォン!!


 大きな地震が村中を襲った。


「全員外に出ろ!」


 俺を含めて集会所いた全員が外に飛び出した。

 新しいとは言え、こちらの世界の木造建築の耐震強度が分からない。

 木造の建物に潰されても俺は死なないと思うが、奴隷達はそうは行かない。


 逃げ遅れた所為で建物に潰されて死ぬなんて勿体ない。

 そんなことでせっかく手に入れた奴隷を失いたくはなかった。

 他2人はどうでもいいが、奴隷達は守らなければならない。

 まさかこっちに来ても、自然災害に巻き込まれるとは思わなかった。

 考えてみれば災害が起きるなんて当然のことだが、なんとなく考えから外れていた。


 地震の原因は詳しくないが、こんな山奥まで大きく揺れるなんて相当でかい地震なのだろう。


 集会所を出ると、多くの村人が次々と外に避難していた。

 倒壊している家は無いようで、重傷者は見当たらなかった。

 転んだりなどで軽い怪我をしている人はいるかと思うが、魔法で治してやる義理はなかった。

 そんなのは唾でもつけてればいいんだ。


 5分以上は経つというのに、今だに揺れはおさまっていなかった。


「長すぎないか、こっちの地震はこんなに長いのか?」


「ゼント様……じしん、とはなんですか?」


 は?


「さすがご主人様は博識でいらっしゃいますね。この現象の名をご存知とは」


 なんだ?

 異世界では地震という言葉はないのか。


 ドォォォォォォン


 さっきもりもデカイ揺れが起きたと思ったら、洞窟があった方向から大きな土煙が上がった。


 その中から巨人というべき大きな人型の影が出て来た。


 なんだあれは⁉︎


 50メートル以上あるぞ。


 オオオォォォォォォ!!


 叫び声と共に出てきたのは、全身を鎧で覆っている武者だった。

 ご丁寧に頭には日本で何度も見かけた兜がついていて、腰には日本刀を差していた。


 異世界で鎧武者って場違いだろ。

 武器屋でも確認したが、こっちに刀とかの文化があるように思えなかった。

 もしかしたら、俺以外の転生者がいて日本文化を伝えていたのかもしれなかった。

 それでもなんであんな巨人が鎧と刀を持っているんだよ。


「あれは……まさか……」


「フィーアはあれが何か知っているのか?」


「あの魔物はギガンツァーです。勇者の物語に出てくる最悪の魔物です」


 また勇者の話か……いい加減にしてくれって感じだ。


「それはどんな話なんだ?」


「魔王が自らの魔力で異界から召喚した魔物なのですが、召喚主である魔王ですら支配出来ない程の力を持ち、その力は一夜にして街を壊滅させ、その勢いは止まることを知らず、一国をも壊滅寸前にまで追い込んだ災厄の魔物と言われた存在です」


 国が滅ぶって、そりゃあ災害レベルだな。


 当時の魔王がどれだけの力を持っていたかは知らないが、アレを倒せれば俺が先代の魔王より上であることの証明になるな。


「伝承では賢者様が自らの命と引き換えに地下深くに封印しました。その証として賢者様が使っていた杖を要石としていたのですが、封印の力が弱まり、破られたのかもしれません」


 え⁉︎


 それってもしかして、俺が洞窟で引き抜いた杖のことなのか。

 つまり、ギガンツァーの封印が解かれたのは俺のせいってことか。

 まぁ、抜いてしまったものはしょうがない。

 これからのことを考えよう。


「もうこの村は終わりだ」


「私達はここで死ぬのね」


「勇者様でも倒せなかったあんなのをどうしろってんだよ」


 村人達はみな絶望していた。


 そりゃあ、ぱっと見で体長は50メートルは超えている化け物の相手なんて普通の人間がどうにか出来るわけがない。


 レベルまでは分からないが、死神より上なのは確かだな。

 あんなのに襲われたら、こんなチンケな村なんて見向きもされず、ただ歩いて踏み潰されて終わりなんだろう。


 そこに村長が十数人の村人をつれてやって来た。

 怪我人もいるようで、治療をしたあとがあった。


「みなさん、このタール村はもう終わりです。災厄の魔物が復活した今、この国で生きていられる場所はごく僅かでしょう。死ぬ覚悟を決めて村に残る者、少しでも生き延びる可能性を得るために逃げる者、選ぶのは自分自身です。どちらを選んでも責めることはありません。覚悟を持って選んで下さい」


 この村長は見た目の割に男気のある言葉をしゃべるな。


「俺は残るぞ!死ぬ時はこの村でってきめてるんだ!」


「私は子供と一緒に逃げます。この子だけでも生き延びて欲しいんです」


「私はどしたら……」


「死にたくない……でも……この村を見捨てるなんて嫌だ」


 重い空気を漂っていた。

 覚悟を決める人もいれば、どうすればいいか決められない人もいた。


 さて、俺はどうしようか。


 ギガンツァーを放っておけば、勝手に国を滅ぼしてくれるんだから楽できていいなという考えもあるが、そんな考えはすぐに捨てた。


 俺はソロプレイヤーだったんだ。

 他人に寄生なんてしない。

 他のプレイヤーと共闘もしないし、報酬を横取りなんてこともしない。


 独り占めするときはいつも最初から最後まで自分だけの力でやるんだ。

 だから楽しく面白いんだ。


 あんなデクの棒が壊滅させた国や街を支配して、俺の物だと言えるのか。

 答えは否だ。


 壊すのは俺の役目だ。


 他の誰にも譲ったりなんてしない。

 火事場泥棒みたいなカッコ悪いことを魔王が出来るわけないだろ。


 あいつが俺の道の邪魔をするなら排除してやる。


「おい村長もう一つ選択肢があるぞ」


「あなたは……この状況で他に何が出来るというのですか?」


「この俺様……魔王の所有物になり、命乞いをすることだ」


 俺は魔王としての威厳を見せる為に気迫というのか、魔力を込めて力を見せつける。


 漫画とかの通りだと多分こんな感じで合ってる筈だ。


 村人達から声は聞こえなかった。

 顔面蒼白で立ち尽くして動けない人、涙を流しながら四つん這いに倒れる人様々だ。


 そんなに恐ろしさかったか?

 加減が難しいな。


 振り向くとアインス達は並んで跪いていた。

 おそらくアインスの指示なんだろうな。

 いつ見ても気持ちの良い景色だ。


 俺は力を抑えると村人達は海から上がってようやく息ができるようになったかのように呼吸が乱れていた。


「おい、早く返事をしろいつまでも俺を待たせるな」


 村長の襟首を掴み顔を無理矢理上げさせた。


「村を……たすけ、て……くれるのですか?」


「お前達が俺の所有物になるのならな、俺は許可なく自分の物を誰かに傷つけられるのが嫌いだ。だから、お前達が俺の所有物になれば全力で守ってやるよ」


「それは魔王様の……奴隷になる……ということですか?」


「は?……何を身の程知らずなことを言っているんだ。お前達が俺の奴隷になる価値があると思っているのか?」


「それは、どういう……」


「フィーア程の有能さと美しさがあれば奴隷にしたが、お前達にそんな価値はない。せいぜい家畜かそれ以下のレベルだ」


 家畜という言葉があっているか分からないが、奴隷より下の身分だとそんな感じだろう。


 今後領地が多くなってきたら、物の位や名前はその時に考えればいいな。


「家畜でも助けてやるんだありがたく思え」


 村人達は俺に聞こえないように小さく話していた。

 内容は分からないが、不満があるようだった。


「人間のままでいたのなら好きにしろ、あの巨人に踏み潰されるか、俺に消されるかのどっちかだな」


 村人はまた黙ってしまった。

 顔色がさらに悪くなっていた。


「俺の誘いを断るんだ……その言葉に命賭けろよ」


 これで村人達の未来は決まった。


 死か服従か。


 俺はどっちでも良かった。

 あのデクの棒を倒すついでにこの村を貰ってみようと思ったからだ。


 魔王がいつまでも領地が無いというのもカッコがつかないからな。

 この機会に手に入れてみるのも悪くないと思った。


「魔王の家畜になることを受け入れる奴はそれを態度で示せ」


 真っ先に村長が俺に向かって土下座の姿勢をとった。

 こっちに土下座という言葉があるのか知らないが、日本出身からして見ればそれは正解の態度だ。


 次に土下座をしたのが赤ん坊を抱えた母親とその夫だ。

 それからも次々と土下座をしていった。

 あの冒険者もどきも土下座して命乞いをした。


 村人全員が土下座をして、家畜になることを受け入れた。


 うん。

 こういう景色も悪くないな。

 この景色を見るために生かしておいてやるか。


「今からお前達は俺の家畜だ。この村は魔王の領地となった。俺に逆らうことは許さない、俺以外に従うことを許さない、お前達はこの国の敵となったそれを自覚しろよ。俺の言うことを聞かない物はすぐに捨てるからな。俺の所有物である限り、ちゃんと守ってやるから安心しろよ」


 さてと、魔王の最初の領地を守るためにあの巨人と戦うとするか。

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