第49話 ギガンツァー戦.1


 村の出入口でフィーアに呼び止められた。


「失礼ながら、ゼント様はどうギガンツァーを倒すおつもりなのですか」


「俺があんなデクの棒如きに作戦が必要だと?」


「あ!申し訳ありません。どうか失言をお許しください」


「そうですよフィーア、ご主人様はあの死神をも正面から戦い勝ったのです。相手がギガンツァーだろうと負けるはずがありません」


「死神とは……勇者の物語にあった魔王の幹部のことですか?」


「はい、私は死神の前で立っていられず、その勇姿を拝見することは叶いませんでしたが、それはかの魔王の如く圧倒的な強さを見せつけて勝ったことでしょう」


「私もそのお姿を見たかったです」


「どらいも〜」


 フィーアは驚きすぎて口が開いたままだった。

 アインスは俺も話をする時はいつも以上に饒舌に語るよな。

 悪い気はしないが期待せれるのは得意じゃないんだよな。


 前世で期待通り応えられた試しがなかったからだ。


 実際、あんな巨人にどうやって戦えばいいか分からなかった。

 流星弾を使ったらタール村まで吹っ飛ばしてしまうから使えない。

 周りにあまり被害を出さないようにデクの棒を倒す方法を考えないといけない。


「ゼント様、改めてお礼を言わせてください。タール村の人々を救う為にありがとうございます」


 こいつは何を言っているんだ?

 洞窟の魔物は倒したが、まだあのデクの棒が残っているんだぞ。


「あのままでは村人は救いも無くバラバラになっていたことでしょう。ですが、ゼント様という希望が生まれたました。例えゼント様が魔王であろうと命を救っていただけるのでしたら、これ以上の希望はありません。村人はバラバラにならず、一丸となって希望を持つことがてきました。本当にありがとうございます」


 なんか勘違いが生まれてるが、忠誠心が芽生えたならそれでいっか。

 あんな家畜ども死んでもどうとことないが、勝手に思わせておこう。

 真実を語る必要なんてないからな。


「お前達は近付くなよ、戦いの邪魔だからな」


 奴隷達がいてもただ足手纏いになるだけだ。

 それなら村の残って貰った方がいい。

 奴隷達が村に入れば、もしもの時見捨てて逃げようなんて考えないだろうからな。

 自分への保険だ。

 俺は奴隷達の為なら、命懸けで戦える。


「かしこまりました。ご主人様の無事の帰還を心から願っております」


 他の奴隷達もアインスと一緒に頭を下げた。


 1度守ると言ってしまったからな。

 全力を出そう。

 俺は約束を守る魔王だからな。







 ギガンツァーとの距離が残り300メートル程に迫った時、ギガンツァーが此方に振り向いた。


 俺の魔力や気配にでも気づいたのか、隠密スキルがあるから考えにくい。


 俺は挨拶代わりに火魔法で槍を10本作った。 


「クリムゾンジャベリン!」


 宙に浮いていた炎の槍が高速でギガンツァーに向かった。

 頭、胴体、腕、脚に当たった。


 当たった箇所から煙が出るが、ギガンツァーにまるで怯んだ様子は無かった。


 魔法が効きにくい相手なのかもしなれない。


 俺はデスサイズを構えて、光魔法を纏ってで飛び上がった。

 ギガンツァーの顔正面に向かって、光魔法を纏ったデスサイズをおもいっきり振り下ろした。


 ギガンツァーは2歩後ろに下がったが、それだけで、顔には擦りむいたような軽い傷ができているだけだった。


 もう一度振り下ろそうとしたが、その前にギガンツァーの拳が左横から迫ってきた。


 2メートル以上ある拳だ避けきれない。


 俺は咄嗟に拳に向かって振り下ろすが、力と力のぶつかりは互角のようでお互いに弾かれた。


 俺はデスサイズを構え直そうとしたが、その前に後ろ斜め上から強い衝撃が襲った。


 耐えきれず勢いよく地面に落とされてしまった。

 見上げると、俺がいた位置にギガンツァーの左拳があった。

 感知スキルで気付いていたが、避けようとする前に襲われてしまった。


 現実で巨人と戦うのは初めてだが、予想よりも動きが早いな。

 ゲームやアニメだともっと鈍いイーメジだったが、右手後の左手攻撃が早く、相手の運動神経が良いことが分かった。


 ギガンツァーは突っ立ったまま動こうとしなかった。

 こちらの様子を伺っているのか?


 そっちから来ないなら連続して仕掛けるだけだ。


 俺はもう一度飛び上がると、魔法で水と岩で作った槍をギガンツァーに向けて放った。


 ギガンツァーは防御する姿勢すらとらなかった。


 ババババババババッ!


 胴体や顔に何十発も命中しているが、まるで効いている素振りが無かった。


 属性を変えても駄目か。

 遠距離魔法は通じない、近距離ではタコ殴りに合ってしまう。


 さて、どう倒せばいいんだ?


 ゲームだと攻略サイトに弱点とか戦い方とが書いてあったりするが、異世界では検索することは出来ない。


 前世でも初見殺しに何回か出会したことがあった。

 今がまさにその時だ。


 勇者の物語を読んでいれば多少の情報を知ることができたかもしれない。

 前にも思ったが、本をどこかで手に入れる機会があればそうしよう。


 全く情報がない敵を相手にするのも面白いが、命が掛かっていると話が違う。

 ゲームだと死んでも情報を得て再戦出来るが、現実はそうはいかない。

 やはり人生なんてクソゲーだ。


 それよりもギガンツァーが攻撃して来ないのが気になっていた。

 カウンターしかしない自動人形なんてものを漫画やアニメやラノベで知っているが、こいつもその類いなのか?


 だったら、続けて攻めてやる。


 俺はデスサイズを構えると、闇魔法でギガンツァーの顔を黒い陰が襲った。

 これは攻撃力もない下位魔法だが、目眩しぐらいには使えた。


 俺はギガンツァーの後ろに回り込むと、その首筋の鎧の隙間に向かって闇魔法で強化したデスサイズを振るった。


 巨人の大方の弱点はここだからな。


 キンッ


 金属同士がぶつかって弾けるような音がした。


 振り下ろしたデスサイズが首に弾かれてしまった。


 は?


 大体の敵と言ったら首が弱点と決まってるだろう。

 それがなんでこんな硬いんだよ。

 混乱していた俺は迫り来る攻撃に反応が遅れてしまった。


 ギガンツァーの裏拳だ。


 俺は咄嗟に水魔法で盾を作った。

 一瞬拳が止まったかのように思えたが、盾1枚では勢いは消えることは無かった。


 拳はまたもや俺のを地面に叩きつけた。


 土埃をの中で俺は立ち上がった。

 気のせいかもしれないが、今度の拳はさっきよりも早く強く感じた。


「ウォォォォォォ!!!」


 ギガンツァーが雄叫びを上げた。

 鼓膜が破れるんじゃないかという声量に俺は耳を塞いだ。


 ダメージを与えていないから悲鳴ではない。


 ギガンツァーを俺を見下した。

 その目は今までとは違い鋭く、それだけで相手の動きを鈍らせ、その睨みだけで生物を殺せそうな恐怖を与えそうだ。


 すると、その睨みが緩んだ。

 口がニヤケて嘲笑ってるようだった。


 俺の中で何がキレた。

 魔王である俺を見下し嘲笑ってたあいつを無性にに殺したいと思った。


 ブッ殺してやる!


 どちらが上で見下す存在なのかを思い知らせてやる。


 攻略方法などたくさんあるんだ。

 俺には前世で得た知識がある。

 装甲の防御力が高い相手の崩し方だって知っている。

 巨人との戦いだって見たり読んだりもした。

 俺だってゲーマーの端くれだ。

 攻略サイト使わずに攻略してやるよ。


 本当の戦いはこれからだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 その頃、村には1人の男が村に到着していた。

 この男はトンズという名前でギガンツァーが見えると、直様反対の南側に1人で逃げた男だ。


 トンズは村の広場に向かい、村長を発見すると大声を上げた。


「おーい、たいへんだー!」


「トンズ……探したんだぞ、今まで何処に行ってたんだ?」


「…………」


 トンズは言えなかった。

 此処には村長だけでなく、村人の殆どが集まっていた。

 村人達の救助を放棄して1人で先に逃げたなんて言えなかった。

 そんなことを言ったら何をされるのか恐怖で声が出なかった。


「それを問うのは後にしましょう、それより何が大変なのです?魔王様のことでしたら皆知っていますよ」


「魔王⁉︎魔王が現れたのか?」


「おい、魔王様の家畜の分際で呼び捨てにするとは何事ですか?」


 アインスにトンズ後ろから槍を首に当て付けた。


「ひぃ⁉︎」


「アインス様どうかお許しください。トンズはまだ魔王様ことを知らなかったのです。どうかご容赦ください」


「ふん、以後気を付けるようにしてください」


 アインスは槍を引いた。

 本当は殺すつもりなど無かったが、魔王の配下としてこうあるべきだ、こうするべきだと色々考えた結果だ。


 それでも罪もない一般人を殺すことは無かった。

 そう、罪が無ければだ。

 暴言という罪が無ければ。


「それでトンズ続きを話しなさい」


「あ……あぁ……聞いてくれ、南の森から大量の魔物がこっちに向かってるんだ」


 その言葉を村人だけでなく、アインス達も信じられなかった。


「それは本当なのか?」


「当たり前だ、こんなところで嘘なんてつくはずないだろ!数は分からないが、すごい数だったのが山を登る途中で確認できたんだ」


 村人達は魔王という希望が芽生え、生き残れるかもしれないと思っていたが、それがまた地獄へと叩き落とされることになってしまった。


 村長もなんて言葉は発せればいいか分からなかった。


 魔王はギガンツァーの相手をしている。

 ここからでも細かいところは分からないが、戦っていることは分かった。


 なら、誰が対処できるのか?

 村にそんな力を持った者などいない。

 今度こそお終いだと、誰もが思った。


 ドンッ!


「私達が戦います」


 アインスが槍を地面に叩きつけて、大きな声が宣言さした。


「アインス様達だけで魔物大群をすべて倒せるのですか?」


「それは難しいでしょう」


 村人は顔を上げたが、すぐに俯いてしまった。


「我々魔王様の奴隷が前線に立ちます。それでも魔物は村を襲います。その魔物は貴方達が倒すのです」


「わたしたちが……ですか?」


「貴方達も魔王様の物となったとならそれを誇りに思いなさい。この村を守るの貴方が自身なのです。武器を手に取り最後まで生き残る為に戦いなさい!」


 アインスの演説が終わると、沈黙が流れた。


「俺は戦うぞ!これでも村で1番強いからな」

「ゾウルが戦うなら俺も戦うぞ」

「ずっと一緒に戦って来たからな」

「俺だってやってやるよ」


 最初に立ち上がったのは、この村で唯一の冒険者チームだった。

 武器手に取って気合いを入れていた。


 それに呼応するように他の村人達も立ち上がった。


「僕だってやってやる、今年子供が産まれたばかりなんだ。家族を守ってみせる」

「俺もやるぞ、絶対に故郷を守るんだ」

「私だって子供を守るために頑張るわ」

「村1番の鍬使いはこの私だ」

「村で1番木を折って来たのは俺だ」


 皆々が気合いの言葉と共に立ち上がった。

 先程の空気とは比べ物にならないぐらい高い士気だ。


 兵の強さが士気の高さが決まることが多々ある。

 たとえ劣勢に立たされていても、士気のが高まれば逆転することだってある。

 歴史がそれを証明していた。


 アインスも元は騎士団に属していた身だ。

 士気の高さの重要性を理解していた。


「覚悟は決まったようですね、それでは我々は魔王様の領地と物をお守りするために命を賭けます。絶対に生きて魔王様の凱旋をお迎えするのです」


 オオオォォォォォォ‼︎


 村人達は気付いていなかった。

 アインスも気付かずに喋っていた。

 アインスの後ろにいたフィーアだけが気付いていた。

 これが洗脳に近いということを。

 自分達が魔王の物だと魔王の為に戦うのだと洗脳されていっていた。

 最初は自分や仲間を守る為に戦っていたが、これが段々と変わっていき、完全に毒されるまで時間は掛からない。

 戦いが終われば、魔王への印象がすごい角度に変化しているだろう。

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