第47話 フィーア


 日が完全に落ちた夜にタール村の入口に着くと、すでに戻っていたアインスとツヴァイが待っていた。


「お帰りなさいませご主人様、お怪我がないようで安心しました」


「当たり前だ、あの程度の相手に遅れをとると思うな」


「はい、私は信じておりました」


 ツヴァイの言葉に少し棘を感じた。

 仲が良くなってはいるのだろうけど、対立している部分はあるようだ。

 変に突っ込むのはやめておこう。


「そっちは無事掃討できたのか?」


「はい、オークの群れがいました。ですがすみません。何匹かにかには逃げられてしまい、全滅とまでは行きませんでした……不甲斐ない私をお許しください」


「そうか……こっちは全滅できたし残りは明日片付ければいいだろ」


「ありがとうございます。この槍にかけて次こそはあの豚どもを全滅させて見せます」


「あぁ、期待しているよ」


 フォウのスキルを使えば掃討出来るだろうが、それはマーキングした魔物が残っていればだ。

 マーキングした魔物が残って無ければ、生き残ったオークを見つける方法は難しく時間が掛かってしまうだろう。

 明日一日で何匹か倒して殲滅したことにすれば良いや。

 その後に出で来て村を襲って来たとしても、その時はあの冒険者もどきの連中とかが処理すればいいんだ。

 被害が出ても俺の知ったことではない。

 村をちゃんと守れないそいつらが悪いんだ。


「よし、報告して報酬を貰いにいくぞ」


「「「はい」」」


 ドライも含めてちゃんと返事が出来るようになったな。

 調教の成果が出できた。


 俺はやる気がない奴が嫌いだ。


 前世のゲームでイベントの時でギルドを組んでいた時のことだ。

 そのイベントはギルドに加入しているプレイヤー向けのイベントで、指定時間にログインしていたプレイヤーのみで戦う。

 期間は3週間と長めで指定時間が午後9時だった。

 これは朝やお昼にすると学生や社畜が参加しづらいための処置だ。

 21日間の勝率で報酬が決まった。

 しかもイベントボーナスでイベント中は経験値にプラス10%を付けるという当時は素敵なサービスがあった。

 ま、ソロプレイヤーには端に経験値アップ期間なだけのイベントだ。

 イベント1週間前にいつも通りの場所で狩をしていると、あるギルドに声を掛けられた。

 イベントの為に

 こういう勧誘は偶にあるので、慣れたものだ。

 リーダー的なプレイヤーに誘われて、そのイベント限定にチームに加入した。

 その時に所属していたギルドメンバーが悪すぎた。

 ガチ勢ではなく、まったりした人達ばかりで、ギルド全員が揃ってログインした時なんて片手の指で数えられた。


 イベント中俺は毎日ログインしていたが、ギルドで毎日ログインしていたのは俺とリーダーだけだった。

 他はほとんど集まらなかった。

 1週間に1度しかログインしないプレイヤーもいた。

 リアルが忙しくてログインしづらいのは分かるが、週一はないだろ。


 それでも俺はワンマンアーミーのように戦い抜いて、イベントはなんとか勝ち越しする事が出来て、ランキングで上位にランクインすることが出来た。


 イベントが終了した後もギルドには一応名前だけは残したが、それからは誰かと組むことに抵抗を強めて、ソロプレイに徹していた。


 この世界で奴隷達と一緒にいるが、あれはギルドメンバーというよりアイテムなどの道具に近い認識だ。


 命があるちゃんとした『物』なのは理解しているが、やはり『物』は『物』だ。


 これからそこに『綺麗な物』を1つ増やしに行くところだ。


 さっさと貰ってこんな村からはおさらばしよう。




「終わったぞ」


 俺は集会所に入ると同時に受付に座っていたフォウ向かって言った。


「お疲れ様でした。どうでしょうか?魔物を倒せそうでしょうか?」


 おそらく、今日は様子見で本格的に動くのは後日とでも思っているのだろう。


「俺は終わったと言ったんだ、洞窟の魔物は殲滅して来たぞ」


「え!……それは……全ての魔物を今日一日で倒したということでしょうか?」


「あぁ、その通りだ」


「そのなの嘘に決まってる!」


 後ろの男の叫び声が聞こえた。

 振り向くと今朝見た斧を背負った男がいた。


「今日一日で魔物を全滅させただと、そんな嘘をついてフォウさんを手に入れようなんて汚い奴だ」


 男はダンッダンッと大股で近寄って来た。

 威張り散らしているが全く怖くない。

 蟻がいくら叫んでも魔王には何も響くことはない。


「うぅぅぅ!」


 俺と男の間にドライが割り込んで、男を睨みつけた。


「な……なんだこいつは……」


 ドライを恐れたのか男が後退った。

 ごみに怯むとは情けない男だ。


「ご主人様を侮辱するとは万死に値します」


 アインスは槍を男の首に当てていた。

 目が本気だ。

 男は顔が青ざめて血の気が完全に引いていた。


 ツヴァイの方を見ると杖を男に向けて、いつでも魔法を打てる準備が出来ていた。


「やめろ3人共……こんなところでそいつの汚い血をばら撒くな」


「では、森の中へ移動して処理してきます」


「必要ない、ここから追い出してくれればそれでいい」


「なんと慈悲深いお言葉……ご主人様の度量の大きさ感謝しなさい」


「…………」


 男はもう何も喋ることが出来ないでいた。

 足腰に力が入らなくなって、ふらふらと集会所を出でいった。


「騒がして悪かったな」


「いえ、こちらこそ面倒をかけすみません」


 こいつはやはりちゃんと仕事が出来る女なんだなと再認識した。

 自分が行ってなくともその関係者が迷惑を掛けたことに誠意を持って謝ることが出来るのは良いことだ。

 自分がやってないから関係ない、悪くないと思ってる奴はだめな人だと思っている。

 それをちゃんと分かっているんだな。


「それで本当に魔物を倒し終わったのですか?」


「洞窟の中のはな。ただ外に溢れて出た魔物はまだ残ってるようだからな、明日再度森に入って狩ってくる。商人には王都に行くのをそれまで待ってもらえるように伝えて貰えるか?」


「分かりました、商人も道の安全を確保するためだと伝えれば大丈夫だと思います。ユリア、すみませんがバアナさんに伝えて来てもらえませんか?私はこれからゼント様と話がありますから」


「……分かったわ」


 ユリアは早足で集会所を出で行った。

 出て行く前に1度振り向くとすぐに出て行った。


 おそらくこれから何が行われるか想像したのだろう。


「人払いは済みました、契約方法ですが村の者には奴隷契約のスキル持ちはいませんがどうしますか?」


「安心しろ、スキルなら俺が持っている。だが、まだお前と奴隷契約をするつもりはないぞ。約束は魔物を倒し終わってからだ」


「いえ、洞窟の魔物を全滅させたことで村への脅威は排除されたものと思っています」


「確認しなくていいのか?」


「あなたが嘘をつくような人には思えないからです。これでも人を見る目は持っています」


「それは光栄で楽だな、なら約束通りお前を奴隷するぞ」


 俺はアインス達と同じように鎖骨の間を見せるように肌蹴させた。


 フォウは首元まで隠れるようにピシッと服を着ていたので、それを脱ぐ動作は中々にそそられた。


 ん?


「なんだお前……奴隷だったのか?」


 フォウにはすでに奴隷紋が刻まれていた。

 今は自由に行動しているところを見ると、解放されているようなので良かった。


 誰か主人がいたらそいつを殺さなくてはいけなかったからな。

 余計な手間が増えるところだった。


「…………」


「言いたくないなら無理には聞かないが、それだけお前の俺からの信用度は下がると思っておけ」


 誰でも知られたくない秘密を1つか2つ持っているものだ。

 それを話さないとなるとそれだけ信用度は下がるのは当たり前だ。

 人と人が親密になるには全てを曝け出して受け入れて貰う必要がある。

 俺は何でも受けいれることは出来る。


 魔王だからな!


 後はこいつが話す勇気を持っているかどうかだ。


 それともう一つ確認しなければならないことがあった。


「お前は処女か?」


「…………」


 また返答は無かった。

 さっきよりも顔が赤くなっていた。

 恥ずかしがってるいのか?

 可愛いな。

 無理に聞き出さなくても、本番になったら分かることだ。


 俺は奴隷契約スキルを発動させ、フォウの奴隷紋に血を垂らした。

 フォウの奴隷紋が光り契約が完了した。


「お前の名前は今からフィーアだ、俺のためにおまえの持つ物全てを捧げろ」


「フィーアですか?」


「お前はもうフォウではないフィーアだ。フォウという名前を捨て、俺の奴隷として一生尽くす

んだ」



 名前:フィーア

 レベル:17

 年齢:18歳

 性別:女

 種族:人間

 魔法:なし

 スキル:〈糸術用LV5(封印)〉〈隠密LV3〉〈記憶探知〉

 称号:ゼントの奴隷

    ゼントの配下

    不殺


 今度はちゃんと欲しいと思った奴隷を手に入れることが出来た。

 仕事や荷物の整理が残ってるということなので、今晩はフォウだった時の部屋に帰ることを許した。


 今回の戦いは疲れるものじゃなかったし、自然回復スキルのおかげもあって夜になっても体力的にはなんの問題もなかった。


 しかし、このやるせ無い気持ちをどこにぶつければいいのか。


 俺の視線はアインスを向いていた。


「どうかされましたかご主人様?」


「ツヴァイとドライは先に戻って飯の用意をしていてくれ、俺はアインスの2人で話がある」


「…………分かりました、行くよドライちゃん」


「うん」


 多分ツヴァイは話が何のことだが気付いていたようだが、特に問題はないな。


「行くぞアインス」


「はい」


 外で楽しむのは初めてでドキドキするが、偶にこういうのを挟んだ方が刺激があっていいよな。

 アインスも楽しんでくれる筈だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る