第46話 ドライの勇気


 ハイオークのいる部屋はハイオーク1匹しかいなかった。

 スリュートダンジョンのボスのように子分のような奴等が何匹か隠れてるかもしれないが、そんな伏兵を使うなんて頭を使う作戦をあんな豚野郎が考えるとは思えない。


 おそらく洞窟内にいるオークは全部倒してしまったんだろう。

 何回戦闘したとかは覚えてない。


 あんな雑魚が何匹いようがどうでも良い。


 そう考えているのは俺だけで、目の前で一歩一歩慎重に進んでいるドライはそれどころじゃなさそうだ。


 戦いに慣れて来たと言っても今だに緊張の糸が解けないでいた。


 広場に入るとハイオークがこちらに気付き、両手に1メートル程の斧を持って戦闘態勢をとった。

 雄叫びのような叫び声をあげると、すごい勢いで突っ込んで来た。

 スピードは速くはないが、ハイオークの重量から考えてその突進の威力は計り知れないものだ。


 ドライの小さい盾で防げるわけがなかった。

 震えて動けなくなっているドライを抱えて俺は真横に回避した。


 ハイオークは俺達のいた位置を通過するとブレーキをかけ、再びこちらに突進して来た。


 俺はハイオークに向かって剣を構えた。

 抱えているドライが何か騒いでいるが、邪魔なので大人しくして欲しかった。


 ハイオークは右手の斧を勢いよく振り下ろしてきた。

 スピードも乗せたこの攻撃は威力はあるが、それ故に単調だ。

 俺は軽く斧を回避すると右手の人差し指から子指にかけて斬り落とした。


 ハイオークは汚い呻き声を上げた。

 その隙に俺はハイオークの左肘部分を斬り裂いた。


 急いで下がったが、返り血を軽く浴びてしまった。

 あぁ、すげー汚い。


 これでハイオークの両手は使い物にならなくなった。


 俺はドライを下ろして、前に行くように背中を押した。


「ここからはお前がやれ、もう奴に大した攻撃力は残って無いだろうからな。お前でも倒せるだろ」


「…………はい!」


 ドライは息を大きく吸い込み返事した。


 気合いが表れてるのはいいが、期待はしないでおこう。


 ドライは盾を構えながら、ハイオークに近付いて行った。


 ハイオークは親指だけになった右手を振り回して攻撃してきた。

 痛みを堪えながらで振り回してるので、命中率は無いに等しかった。

 ドライの盾にも当たってないが、その暴れっぷりの威力は恐怖を与えるのに十分だった。


「さっきの気合いはどうした?攻撃しないといつまで経っても倒せないぞ」


 殺られたくなければ、殺られる前に殺るしかない。

 身をもってそれを覚えろ。


「ぅ……ぁあ……ああ……あああぁ!」


 ドライは盾を構えたままハイオークに体当たりをした。


 ゲームで言うシールドアタックのようだった。


 運良く振り回す手に当たることなくハイオークの腹に一撃を与えた。


 ドライはそのまま盾を構えたまま剣を突き刺したり、盾で殴ったりと連撃をした。


 ドライのステータスに『盾士』のスキルがついていたが、こういうことだったのか。


 今のドライの盾は小さめだが、大楯を用意してやった方がいいのかもな。


 だが、ドライの連撃でもハイオークを倒すまでにはいかなかった。

 ハイオークは右腕を振り払う様にドライを攻撃した。


 ドライは攻撃に夢中でハイオークの腕に気付いていなかった。

 助けようかと思ったが、俺はあえて見過ごした。


 ドライは壁まで吹っ飛ばされた。

 所々から血を流していた。


 立ち上がろうとしているが、ダメージが酷くて上手く立てていなかった。


 ハイオークはドライにとどめを刺そうと近づいて行くがそんなことを俺が許すはずがなかった。


「アクアブレス」


 俺の手から放たれた水鉄砲はハイオークの心臓部分に大きな風穴を開けた。

 そのままハイオークは倒れ絶命した。


 俺はドライに光魔法をかけて回復させた。


 気を失ってはいるが、命に別状はないだろう。


 王都についたら高級な美味い飯でも食わせてやろうと思った。




 名前:ゼント

 レベル:201 up

 魔法:〈火魔法(上)LV10〉 〈水魔法(上)LV5〉up〈地魔法(上)LV4〉up 〈闇魔法(下)LV3〉up 〈光魔法(上)LV2〉up

 スキル:〈剣王LV10〉〈槍士LV7〉up〈闘王LV1〉〈投擲LV10〉〈隠密LV10〉〈自然回復LV10〉〈運搬LV10〉〈奴隷契約〉〈鑑定〉〈アイテムボックス〉

 称号:無能王


 名前:ドライ

 レベル:23up

 魔法:なし

 スキル:〈剣士LV1〉new〈盾士LV8〉up〈人化〉

 称号:ゼントの奴隷

    ゼントの配下




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 少し休憩を挟んだ後、更に洞窟の奥へ進もうとしたが……


 ビンッ


 魔法の障壁のようなもので先に進めないでいた。

 この俺が通ろうとする道を阻もうとすることにムカついた。


 魔王の通る道は誰であろうと邪魔出来ないものだ。


 俺は魔剣で障壁を破ろうとしたが、ヒビすら入らなかった。

 武器をデスサイズに切り替えて攻撃すると障壁が1枚壊れたが、障壁は何重にもなっていてまだ通れなかった。


 もう一度デスサイズで攻撃したが壊れなかった。


 今度は火魔法で攻撃すると壊れた。


 どうやら、物理と魔法を交互で攻撃しないと破れないようになっていた。

 俺はムキになって攻撃し続けた。


 10回繰り返すとやっと最後の障壁を壊すことが出来た。

 最後の障壁は武器を魔法で強化付与しなければ壊せないようになっていた。


 こういうのはゲームで似たようなイベントがあったが、1人で実際にやってみると本当に面倒だった。


 途中でドライに物理攻撃をさせてみたが、びくともしなかった。


 ある程度レベルの高い攻撃じゃないと壊せないようになっていたようだ。

 ゲームだとこの先にはお宝が眠っている筈だ。


 さぁ、お宝を手に入れに行こう。

 もし手に入れても村の奴らには黙っておこう。

 邪な考えをもつ者が宝を横取りしようと考えるかもしれないからな。


 まぁ、その時は返り討ちにするだけだ。


 俺は無駄な争いを好まない、なんて世間に優しい魔王なのだろう。


「ごしゅじんさまわらってる……なんかいいことあったのですか?」


「ん?……あぁ、この先のお宝が楽しみなだけだ」


 奥に進んで行くと、1本の古びた杖が地面に刺さっていた。

 地面には薄くなった魔法陣が書かれていた。


 宝箱のような物は見当たらないところ、この古びた杖が攻略報酬ということか。


 スリュートダンジョンの時は既に攻略積みでボスを倒しても報酬は無かったが、ここはまだ未攻略で報酬が残っていた。


 俺は杖を引き抜こうとしたが、簡単には抜けなかった。

 多分、地面に描かれた魔法陣が邪魔をしているのだろう。

 俺は闇魔法をデスサイズに付与して魔法陣に向かって振り下ろした。

 闇魔法の中には魔法を打ち消す効果はないが、光魔法と同じ武器の切れ味や強度を強化する魔法があった。

 こういう時は闇魔法であっているだろう。


 ゲームをやって来た感だ。


 幸いにもここの広さはハイオークのいた部屋程じゃないが、デスサイズを振り回すのに十分だった。


 何度か振り下ろすと、魔法陣はパリンッと音と共に壊れた。


 俺はデスサイズをしまい、杖を抜いた。


 今度はさっきとは違い、簡単に抜くことが出来た。


 名前:ズィーゲルトック

 補正:魔法威力+(高)、魔法発動+(高)、対魔族上昇、封印魔法(超)、破壊不能


 杖を鑑定で調べると高性能でスリュート伯爵領で手に入れたものより数段上だった。

 さすが攻略報酬だけあった。

 古びた見た目が中古みたいで気になるが、味があると思えばいいか。


 俺は杖なんて使う予定はないので帰ったらツヴァイに渡そう。

 今使っている短い杖とは違い今回手に入れた杖は1メートルぐらいの長めの杖だった。


 こっちの方がゲームの見た目的に魔法使いっぼいな。


 報酬も手に入れたし、後はフォウを奴隷にすれば万事解決だ。

 アインス達の方が気になるが、多分死んではいないだろう。


 ツヴァイの報酬は杖でドライの報酬は飯にするとして、アインスの報酬はどうしようか?


 今晩かもっと雰囲気のある宿とかで存分に可愛がってやればそれでいいか。

 アインスはそれで満足するから楽でいいな。


 フォウを手に入れたら、回数は減るがそこは我慢してもらおう。


 あぁ、これからが楽しみで仕方ない。

 笑いが溢れて顔だけでなく、口からも声が出そうだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 ゼント達が洞窟を出た日の夜。

 洞窟の最奥、賢者の杖が封印されていた地下から地鳴りがしていた。


 封印の為に施された魔法陣が消え、供物とされていた賢者の杖が消えたことにより、地下に封印されていたものが動き出そうとしていた。


 今それに気付くものは誰もいなかった。


 勇者さえ恐れ、仲間と共に戦ったが封印するのが精一杯だった怪物が地上に再び出ようとしていた。



 

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