第43話 魔物騒動


「すみません。聞き間違いをしたと思いますので、もう一度お聞かせいただけませんか?」


「魔物討伐の報酬として、フォウの全てを俺に捧げろ」


 俺は目の前の女性を指差して宣言してやった。


 室内は静まり返り、沈黙の時間が数秒流れた。


 奴隷達の顔は分からないが、驚いたような顔をしているだろう。

 普通なら金銭を要求するところを俺は人を要求しているからな。


 フォウという美人を手に入れたいと思っていたところに本人から報酬を払うと言って来たのだ。


 そりゃ本人を報酬として要求するのは当たり前だろ。

 俺の理論は何も間違っていない。


「わたし……というのはどういう事なのでしょうか?」


「理解出来ないか?お前は仕事が出来て頭の回転が良さそうに見えていたんだがな」


 もしかすると、本当は分かっているが単刀直入にはっきりと言って欲しいのかもしれないな。

 女心とは本当に理解出来ない。


「俺の奴隷となって、一生俺の為に尽くせと言っているんだ」


 また沈黙の時間が流れた。


 望み通りはっきり言ってやったというのに反応がさっきと変わらない。

 本当にアンドロイドみたいな女だな。

 そこもまたいい味を出していて、そそられるな。


「ふ、ふざけるな!」


 いきなり怒鳴ったのは、6人組の中で一番大柄で背中に斧を背負ってる男だった。


 ばんっばんっと木造の床から悲鳴を鳴らしながら近付いて来た。

 そんなに力を込め過ぎると、綺麗な床に傷つくだけで済まなくなって穴が空くぞ。


「何故フォウさんがお前なんかの奴隷にならなきゃいけないんだ!」


「それは俺がお前らには出来ない魔物討伐を行い、その報酬として貰うからだ」


「報酬なら金でいいだろ」


「さっきも言ったが、金は沢山持っていてな……必要とはしていない」


 もし金が欲しくなったとしたら、魔物討伐の報酬なんて面倒な事はせずに、金を持っているだろう貴族を襲って奪う方が簡単で分かりやすい。


 俺は魔王だからな。

 欲しい物は奪って手に入れる。


 しかし、人は違う。

 人はものだが、金じゃない。

 心がある。

 俺もそれぐらいは理解してる。


 無理矢理奴隷にしても、心までは俺に捧げずに反抗の意思を示すだろう。


 だから、相手から差し出させるように仕向けるんだ。

 報酬と要求したのは俺だが、その道を教えてあげただけだ。

 でないと目の前のアンドロイドからはこんな答えは一生出さないと思ったからだ。


 道を教えてやった後はその道を自分意思で歩き、進めさせるようにするんだ。


 そうやって体や心だけでなく、持っているもを全てを捧げさせる。


 心理学とか勉強したことないから分からないが、多分こんな感じで良いだろう。


「だからお前が決めろ、俺の奴隷になるならこの村を助けてやるよ」


「…………」


 フォウは俯いてしまって何も答えない。

 もし断られたら、村が魔物に襲われるのを待って、奴隷達の言うお伽話の王子様のように助けてやるだけだ。


 他の村人が何人か死ぬことになるだろうが、それは仕方のない犠牲だ。

 それが彼女の選んだ答えなのだからしょうがない。


「わたしじゃ……だめ……ですか?」


 もう1人の受付嬢が恐る恐る手を挙げた。


「お前はいらない。俺が欲しいのはこいつだ」


 相当勇気出して言ったことだとは思うが、そんなことは関係ない。

 見た目が幼過ぎる。

 それは俺の好みじゃない。

 ドライを拾ったのはたまたまだ。

 俺が欲したわけじゃない。


「わ……り……した」


「なんだ?聞こえないぞ、はっきり大きく宣言するように言え」


「ゼント様の奴隷になりますので、村を助けてください!」


 フォウは俺よりも上の天井に向かって宣言した。


 おぉ!

 今にも泣き出しそうな、いろんな感情が織り混ざったいい顔だ。


 前世の映画でヒロインのロボットが心を手に入れて、主人公に初めて喋ったような感動的シーンを見ているようで、最高の気分だ。


「あぁ、分かった。必ず助けてやるよ」


「ですが、私が奴隷になるのはゼント様が魔物を討伐して村が救われた後でも構いませんか?」


「それで構わないぞ。俺の奴隷だ。少しぐらいの我儘ぐらい聞いてやる」


 もう俺のものなった気で話しているように聞こえるだろうが、近い未来で俺のものになるのなら既に俺のものになったことと一緒のことだ。


「念のために言っておくが……後になってやっぱり嫌です……なんてことは言わないでくれよ」


「勿論でございます。その際は私の全てをゼント様に捧げさせていただきます」


「よし契約は成立だ。魔物について詳しく話を聞こうか……まずは、洞窟の場所と溢れ出した魔物達の規模と縄張りの位置だな」


 フォウは地図にペンで書きながら説明し始めた。


 その間、俺とフォウ以外は黙ったままだ。

 奴隷達は当たり前として、あの6人組も黙っていた。


 何を考えているか分からないが、下手な真似をしない限りはこちら干渉することは何もない。


 例え不意打ちでもなんでも襲って来たら返り討ちにするだけだ。

 正当防衛として殺したとしても、自分の身を守るためだ。

 誰も文句を言って来ないだろう。


 フォウによると、洞窟から溢れ出し出した魔物は十数匹程度で東の山の麓辺りの森にいるらしい。


 話を聞いて行く中で気になったことがある。


「なぁ、洞窟の場所とかをなんでそんな正確に地図に記すことが出来る?」


 フォウは地図に分かりやすいぐらいに書いていた。

 それにしてもこの地図は正確すぎる。

 森の規模や王都までの通りや他の村への道など、測量でもしない限り無理だと思った。


「あまりに正確過ぎる地図に迷いなく書いていくことに驚いた。測量の知識でもあるのか?」


「いえ、これは私の保有スキル『記憶探知』というスキルによるものです。このスキルは自分が見たものの場所を正確に把握することが出来るのです。ただ生き物に対しては効果は無く、あくまでも場所を記憶することが出来るのです」


 凄いの一言だ。


 つまり自分が一度見れば、迷いなく行けるということか。

 まるで前世のスマホの地図機能のようだ。

 こいつが入ればもう迷子にならなくてすむ。

 絶対手に入れてやる。


「この地図に光っている赤い点はなんだ?」


「それは魔物の位置ですね」


「おい、さっきは生き物の位置は分からないって言ってなかったか?」


「その通りです。ですが私がスキルを使って矢に魔法を付与して魔物に当てるとその魔物の位置を把握することが出来るのです。ですが、私は弓矢などは使えないので使える人にお願いするしかないのです」


 チラッと6人組を見ると弓矢を装備した男が1人いた。

 なるほど、アイツがやったのか。


「マーキングした魔物の状態については分からないのか?例えば寝込みを襲うようにすればアイツらでも勝てると思うが?」


「そこまで万能なスキルではありません。あくまでも場所が分かるだけですから」


 それでも優秀なスキルと思うけどな。

 どっかのごみとは大違いだ。


 もしかしたらスキルレベルによるのかもしれないと思った俺はフォウの手を握った。


 急なことに何事かと少し驚いたような顔をするが関係ない。

 俺はフォウに対して鑑定をした。


名前:フォウ

 レベル:17

 年齢:18歳

 性別:女

 種族:人間

 魔法:なし

 スキル:〈糸術用LV5(封印)〉〈隠密LV3〉〈記憶探知〉

 称号:不殺


 予想よりレベルが高いな。

 もしかしたら、あの6人組より高いんじゃないか。

 気になったのはスキルの状態と称号だ。


 どうしてこんな状態になったのは気になるが、今はいいだろ。

 奴隷になった後に聞けばいい。

 そうした方が命令で嘘偽りなく真実を聞けるからな。


「あの……離してくれませんか?」


 手を握ったままだった。


「わりぃな、続けてくれ……それと地図は2枚くれ」


「何故ですか?」


「2枚必要になるからだ」


 フォウは俺がこれ以上答えないだろうと思ったのか、何事も無かったかのように説明を続けた。

 と言っても、もう特に聞く事や答える事もなかった。


 気になった事はあったが、今すぐに聞きたいことでもないので別によかった。


「これで現状を理解出来たと思いますが、大丈夫ですか?」


「大丈夫だ、今すぐ出掛ける」


「え!すぐにですか?」


「早く片付く方がお前らもいいだろ」


「それはそうですが……」


「荷物をまとめて奴隷になる準備をしておけよ」


 俺は立ち上がると、集会所を出た。

 後ろで誰かが何か言っていたようだが無視した。


 俺は2枚の地図の内の1枚をアインスに渡した。


「アインス達は既に洞窟から出た魔物共の討伐に行ってくれ、お前達のレベルなら問題ないだろ」


 向こうのレベルは分からないが、多分大丈夫だろう。


 勝てないと分かった直ぐに撤退しろよと付け加えといた。

 こんな事に命を賭ける価値なんてない。

 あの村人の命とこいつらの命を天秤に掛けた時、どちらに偏るかなんて考えるまでもない。


「ご主人様1人で洞窟へ向かわれるのですか?」


「いや、1人じゃない」


 俺はドライを持ち上げた。


「こいつの調教をしてくる」


 俺は笑って答えてやった。

 さぁ、必死こいて俺の為に尽くしてもらおうか。

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