第44話 調教開始


 やっと洞窟に辿り着くことが出来た。

 本当に俺は方向音痴のようで、30分くらい歩けば着く距離を1時間以上かかってしまった。


 その間、腕に抱えていたドライは黙ったままだった。


 時折話をふってみたが恐怖のせいか全く喋らなかった。

 俺も途中で諦めてしまった。

 しゃべらない理由はいろいろとあるだろうが、それほど気にかける相手でもないので、どうでも良かった。


 どさっ


 ドライを降ろすとそのまま尻餅をついた。


 アイテムボックスからドライの武器を取り出して持たせた。

 恐る恐るゆっくりと手に持ったが、ビクビクしていて頼り甲斐が全くなかった。

 武器を持っているのに強そうと全く感じない。

 はっきり言って弱そうだ。


「これからお前の調教を始める。洞窟の中にいる魔物をお前が倒すんだ」


「…………」


 ドライは涙目になってさらに小さく固まってしまった。


 俺はドライを片手で持ち上げると、そのまま洞窟に入った。

 ドライが喚いたりしたが無視した。


 洞窟の中はスリュートダンジョンよりは狭めだが、特に近接戦闘をする分には大丈夫そうだ。


 中を進んで行くとゲームで見たオークのような豚人間がいた。

 一匹でいるということは見張りかなのかもしれない。

 武器も持ってないし、防具ではないが服はちゃんと着ていた。

 ただ、座り込んで眠たそうにしている。

 仕事に不真面目なようで、こっちにも気づいてない。 


 丁度一匹でいるし、こいつで試してみよう。

 仲間を呼ばれても俺が他を倒せばいい。


 ドライを降ろして無理矢理立たせた。


「あいつを倒してこい」


 ドライは左右に首を振って拒否してきた。

 ツヴァイの時は素直に言うことを聞いたのに強情な奴だ。


「ドライ、命令だ!あの豚を倒せ!」


 ドライはそれでも嫌なようで動こうとしなかった。


 すると、ドライの奴隷紋が光出して、全身に電流が流れたかのように倒れて苦しみだした。


 へぇー、主人に逆らうとこうなるのか。

 アインスとツヴァイは俺の命令に忠実だから分からなかったが、相当痛そうだ。


 体罰を勝手にやってくれるなんて便利な紋だ。

 直接俺が手を出す必要がないなんて楽でいい。


「早くしないといつまでもその痛みは続くぞ」


 奴隷紋の光が小さくなると、ドライは立ち上り、剣をオークに向けた。


 ドライの装備はスリュート伯爵領の武器屋で買った剣(右手)と盾(左手)と体は防具覆っていた。


 相手のレベルが分からないが、レベル8のドライで勝てるかどうかなんて知らない。


 取り敢えず、一撃で死ぬことはないだろうし、やらせてみよう。

 負けたら負けたでしょうがないとは思う。

 俺もゲームに慣れない内は負けたりすることはよくあった。

 だから、負けることは問題ではない。

 だが、戦おうとしないのは大問題だ。

 これは早急に解決しなければならない。


 ドライはゆっくりゆっくり一歩ずつ近づいて行く。


 あっちはまだ気づいていななそうなのに、折角の奇襲のアドバンテージを棒に振るとか有り得ない。


 相手を倒す気持ちよりも死にたくない気持ちが勝ってしまって動きがガタガタだ。

 ドライにも分かってもらわなければならない。


 死にたくないなら戦うしかない。

 逃げてもいずれは殺される。

 殺される前に殺すしかない。


 これが分からなければ、いつまでも腰抜けのままだ。

 魔王の奴隷のカーバンクルなんだから、先祖のように敵は全て食い尽くす勢いで戦って欲しい。


 そうこうしている内にオークがこっちに気づいてしまった。


 俺とドライを交互に確認すると急に笑いだして、歩いて近づいて来た。


 侵入者が2人だけで、しかも前に出て武器を持っているのが腰抜けだからな。

 ドライが舐められるのは仕方ないが、俺も一緒に格下に舐められた態度を取られるのは腹立たしい。


「さっさとそんな雑魚倒してしまえ」


「は……あぁ…………」


 まともに返事が出来ないほどに怯えてしまっていた。


 ゴミのように役に立たないやつだな。


 せめて戦う意思があれば良かったが、それが全く感じられなかった。

 あの時のように逃げることを考えてるかもしれない。

 今回それは許さない。


「命令だ。戦え!」


 それでもドライは中々前に出なかった。

 すると、ドライの奴隷紋から電流のようなものが流れてドライを苦めた。


 その隙を突くようにオークは右手拳を振り上げて殴ろうとして来た。


 俺は仕方なく、魔剣で振り上げた腕を切り落とした。


 オークは一瞬固まって、何が起きたか分かってないようだ。


 腕が無くなってことに気付くと汚い叫び声を上げて、のたうち回った。


「チャンスだ、さっさとトドメをさせ!」


 ドライは剣を突き刺そうと走った。

 剣はオークの腹に刺さったが、それでは死ななかった。

 ドライが剣を動かそうとするが、奥に刺すことも抜くことも出来ないでいた。


 ドンッ!


 ドライが暴れ回るオークの脚に当たって吹っ飛ばされてしまった。


 オークは立ち上がると残った腕でドライを攻撃しようとした。

 剣は腹に突き刺さったままだが、脂肪が分厚くて致命傷にはなっていなかった。


 ドライは持っていた盾を前に突き出して防ごうとしていた。


 しょうがないなー。


 俺は魔剣でオークの首を刎ねて絶命させた。


 オークの体がドサッと倒れた。


 ドライはまだ盾に隠れてビクビク震えていた。


「終わったぞ、ささっと立て」


 ドライはゆっくり目を開けると安堵した。


 俺はオークから剣を抜くとドライに手渡した。


「まだ戦いは始まったばかりだ、次に行くぞ」


 ドライは顔が青くなり、立ち止まってしまった。


 俺は仕方なくドライを担ぐように持ち上げた。


 歩いている間俺はさっきの戦闘を振り返った。


 攻撃したのは良かったが、攻撃の仕方も悪かった。

 オークが攻撃というよりは暴れてる時に盾で防げることが出来なかったのも悪い。

 攻撃を受けた後もじっとして震えてるだけで、反撃も回避もしなかった。

 その時に逃げて攻撃を回避しようとするなら、逃げても何も言う気は無かった。

 むしろ生きようと足掻くことを褒める程だ。

 しかしドライは動こうとせず、盾に隠れるだけとか、俺からしたら殺して下さいを言っているようなものだ。


 俺の奴隷なんだから、そう簡単に死んで貰っては困る。

 ドライが死を望んだとしても、俺が許さない限り死ぬことなんてさせない。

 無理矢理にでも生きながらせてやる。


 次の獲物が見えてきた。

 オークが3体いるが関係ない。

 俺が2体を倒して、残る1体をドライにやらせる。


 あと何回か戦闘すれば、ドライも慣れてきてまともに戦えるようなになるだろうと淡い期待を抱いておこう。




 名前:ドライ

 レベル:11 up

 年齢:9歳

 性別:女

 種族:獣人

 魔法:なし

 スキル:〈剣士LV1〉new〈盾士LV1〉new〈人化〉

 称号:ゼントの奴隷

    ゼントの配下

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