第41話 タール村
洞窟で一夜を明かした後、ゼントの体調は完全に回復し、アインスとドライも痛みは無くなっていた。
「ご主人様、そしてツヴァイにはご迷惑をお掛けしました……ですが、もう大丈夫です。ありがとうございました」
「つゔぁい……ありがとう」
「いえそんな、私なんかがお役に立てて良かったです」
奴隷達が打ち解けて話をしている。
助け合って行くことで仲が深まるのをしみじみと感じる。
だが、こんな和むような空気を感じられるのも今の内だ。
何故なら俺たちは絶賛遭難中だからだ。
デトートスを倒した後、闇雲に山道を進んだせいでここが何処だか全く分からない。
商会で高額だったが国の地図を買った。
だが俺は前世でも地図なんて全く読んだことが無い。
携帯で見たことはあっても、それも現在地や行きたい方向が分かる携帯の機能を使ってやっとのレベルだ。
そんな人間がただだだ地図を見ただけで現在地と進む方向が分かる筈もない。
唯一アインスが王都の場所を知っているが、現在地が分からなければ案内のしようがない。
ゲームだったら、マップ機能で簡単に現在地と目的地が分かるのにな。
なんて不親切な地図だ。
取り敢えず、朝食の後にアインスと話してスリュート伯爵領からそんなに離れてないと思って、自分達の大体の位置を決めて、王都の方角へと続く北へ目指すことにした。
この世界も前世と同じで日は東から西へと沈むというのだ。
バ◯ボンの世界のように西から日は昇らない。
コンパスなんてないし、日を見て何となくの方角で進むことにした。
間違えたらその時はその時に考えればいい。
結果的に目的地に辿り着けばいいんだ。
俺たちは歩き出した。
目的地は王都シュテート。
王都を目的地にした理由は簡単だ。
この国は滅ぼして手に入れるには、そのトップを殺した方が1番早いと思ったからだ。
世界征服のやり方なんて魔王それぞれだ。
平和的に和平交渉をする魔王もいれば、裏組織を使って操ろうとする魔王もいる。
俺はそんな面倒臭いことはしない。
国を壊して作り直す。
それが手っ取り早いからだ。
壊すのは俺がやる。
作り直すのは誰かにやらせる。
オーストセレス王国にはアインスの友人で絶世の美女と呼べるような王女がいるらしいからな。
そいつを奴隷にして体も心も俺のものにすれば、オーストセレス王国が王女が統治してくれれば、この国は俺のものとなる計画だ。
奴隷達にこの話をしたら、
「さすがはご主人様です。感服いたしました。王女様もご主人様のことを知れば身も心も持つ物全てを捧げるでしょう」
「そう、ですね……わたしもそう思います」
「???」
アインスとツヴァイはいつも通り全肯定のようで気分が良い。
ドライには難しい話だったな。
おかしい?
アインスに聞いたところ、スリュート伯爵領から王都までは馬車で半日もあれば着くという話だった。
だが、一日中歩いたが街が見えて来る気配が全く無い。
一応山道から開いた通りに出たから、その道の通りに行けば着くはずだ。
歩いても歩いても建物も見えないどころか、人とすれ違うこともなかった。
王都なんだから商人などの行き来する人が多い筈だ。
これはどういうことだ。
答えは簡単に出た。
道を間違えたんだな。
それならそれで特に問題はない。
人に聞いたりすれば、そいつから正しい道を教えて貰えればいい。
まぁ、それを教えてくれる人がいないのが問題なんだがな。
もうすぐ夕暮れだ。
今日も野宿するとなると場所を考えないといけない。
アインス達も最初こそたわいも無い話をしていたが、今は黙ってしまっていた。
このままでは俺への信頼が落ちてしまう。
主人としてそれだけは回避しなければならない。
俺は魔法で空へ飛ぶことにした。
本当はこんな目立つ方法を使いたくなかった。
この世界で魔法を使える人は多くない。
その中でさらに空を飛べる人となると限られるだろう。
今のレベルなら、国の軍団が相手でも戦えると思ってるし、実際その通りだと思う。
レベルが200なら勇者か魔王でも出て来なきゃ問題はないな。
それでも俺より高いレベルがいないとは限らない。
レベルが上でも知識では圧倒的に劣っている。
戦術で戦略の全てを超えられることはないだろう。
前世でアニメや漫画やゲームをやっていて、圧倒的な強者が弱者に負けるシーンは何度も見ていた。
ここでもそれが起きないとは限らない。
あるアニメで主人公が言っていた。
強者なんてどこにもいない、人類全てが弱者なんだと。
人類である俺は弱者で無能なんだ。
それを忘れてはいけない。
レベルにあぐらをかいてはいけない。
警戒心と向上心を失っては成長がそこで止まってしまう。
俺は『無能』だからな。
無限の可能性がある。
どこまでも進んで行こう。
今は何処に進めばいいか探している最中なんだがな。
周りを見渡すと、俺たちが進んでいる道の先に集落があるのが見えた。
2つの小さな山に囲挟まれていて、全体を見て小規模であるのがよく分かる。
歩いて行くと着くころには完全に日が暮れて夜になっているだろう距離だった。
仕方なく俺は3人を抱えて村まで飛ぶことにした。
これなら歩くよりもすぐに着くな。
村の入り口近くで着地して、村の入り口にある木造の門を通った。
いきなり村の中心に降りるなんてバカな真似はしない。
そんな目立ち方をする得が分からないからだ。
夕方だが、村にはそれなりに人数が住んでいるのが分かる。
数人が俺たちを見ている。
もうすぐ日が沈むこんな時間の来訪者だからか。
村には高い建物はなく平屋か2階建だけだった。
伯爵領では石造りというか丈夫そうな建物が多かったが、ここは全部木造だ。
家の数は50もない程度でそれだけ住んでる人数が少ないのがわかる。
村人の服装もボロボロとまではいかないが、新品さや綺麗さはなかった。
男性に村人に旅人であることと、先日あった隕石から逃げて来たと伝えたら同情の目を向けて村長の家に案内してくれた。
「どうも、私がこの村の村長です……長旅ご苦労様です」
物腰の低い村長だと思った。
年は50くらいのおじさんだ。
こんなやつが村長で大丈夫なのか?
「あぁ、ありがとう」
「失礼ながら、これからどちらへ向かう予定ですか?」
「王都へ向かう予定だ、そっちの方が安全だと思うからな」
「そうですか、今やこの世界に安全なところなどあるのやら……」
「それはどういう意味だ?」
「はい、あなた方の前にここに来た商人に聞いたのですが、どうやら魔王が復活したと噂が出回ってるらしいのです」
何故だ?
俺は奴隷達にしか魔王のことを話していないはずなのにいったいどこから情報が漏れているんだ。
「ただの噂だろう、真実かどうか怪しいものだ」
「そうですね、本当に魔王が復活したのであればこの世の終わりが近いのかも知れませんな」
この村長は恐ろしいことを普通の口調で言うな。
見た目とは違い、本当は度胸などの器が大きいのか。
「あんたらはここから離れたりしないのか?」
「私共の多くはこの村で生まれ育った者です。死ぬ時はこの村で戦って死ぬと決めています」
随分と大きく覚悟を決めているな。
「ここに来るまでに村人を何人か見たが、戦えるなんて思えないんだが」
「そうですね、多くの者は農業をしていますが、若者の中には魔物狩をしている者もいるんですよ」
「冒険者ギルドがあるのか?」
「そんな大層なものはありません。せいぜい情報を集めて共有する為の集会所がある程度ですよ」
俺はこいつを見直した。
生き残るための策としては情報は最大の武器だ。
それ集められる場所を作るとはなかなかにやるな。
「今日はもう遅いでしょうから、この村に泊まっていって下さい。村の者に空き家へ案内させますので好きなように使ってください」
「何からに何まですまないな」
「いえいえ、困った時はお互い様ですからお気になさらず、こういう人達は多いので慣れています」
多分ここは王都に近いから商人などが泊まりに来たりするのだろう。
案内はさっきのとは違う若い村人にしてもらった。
泊まる家を確認すると、部屋や台所に家具などがちらほらとあり、少し前まで人が使っていたようだが特に問題はなかった。
集会所へは明日顔を出して情報を集めるとしよう。
現在地と王都までの道のりを確認しないいけないからな。
今はそれよりも飯だ。
この家には台所があるからな。
「ツヴァイ、お前の腕の見せどころだ、任せたぞ」
「はい、ゼント様の期待に答えられるように頑張ります」
ツヴァイは気合いを入れて台所へ向かう。
俺が手伝えば、料理スキルを覚えて簡単に美味い料理が出来るだろうが、それは出来ない。
亭主関白の主というのは、台所には立たない。
女が作った料理を酒と肴を摘みながら待つものだ。
だから俺は絶対に台所には立たない。
と言ってもツヴァイ1人では心配なのは事実だ。
気休め程度だが、アインスを補佐に付けることにした。
ドライはどうせ役に立たないようだからな。
材料としてはここに来るまでに狩った魔物達だ。
調味料みたいのは、商会で買っていた分でなんとかしたみたいだ。
前世でも俺は料理なんて全くしなかったので、何が必要かなんて分からなかったので、適当にツヴァイに任せていた。
結果から言うとツヴァイが作った料理が普通に美味いレベルだった。
包丁やフライパンなどの調理道具を使っていたから、俺やアインスよりはレベルは上なのは確実だ。
アインスも覚えれば良かったが、予想通りにそんなことはなかった。
メンバーに1人料理が出来る人がいれば、それだけで充実度や健康状態の維持に繋がる。
取り敢えずは一安心だ。
明日は情報収集に努めるとして今日はゆっくりと休むとしよう。
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