第33話 冒険者ギルドへ報告
朝起き上がると、ササッという音と供にアインスとツヴァイが俺の近くで跪いた。
ドライはアインスに頭を掴まれて床にべったりと伏していた。
ごみのような扱いは名前が変わっても変わらないな。
こんな感じで俺の奴隷達が朝に揃うのは初めてだな。
悪くない景色だ。
こういう景色を見ると気分が良い。
俺は着替えをすませ、奴隷達を連れて宿の朝食を取りに行く。
「ご……どらいもごはんいいのですか」
「当然だ、俺は約束を守る男だからな」
朝なのにドライの目が星のように輝いて見える。
けっこう扱いやすい奴だ。
飯を運んで来た宿屋の娘がまさかっ!みたいな顔をしていたが、気にしないでおこう。
一応ドライには人間の姿になっている。
カーバンクルはこっちでは恐怖の対象らしいからな。
目の前のご飯に夢中になっている姿を見て、誰がこいつを恐怖を覚えるんだ。
ただのガキにしか見えない。
飯を食い終わると、そのままの足で武器屋に向かった。
ドライの装備を整えないといけない。
俺の奴隷になった以上、簡単に死んでもらっては困る。
昨日のように魔物に逃げ回るのではなく、勿論戦ってもらう。
ただ飯ぐらいは俺の奴隷ではない。
「お、来たのか、にぃちゃん達ダンジョンを歴代最速で攻略したらしいな」
そういえば、昨日ダンジョンの魔法陣から出た後、ギルド職員がそんなことを言っていたと思うが、聞き流してたな。
「それで、今日は何のようだ?」
「こいつの防具と武器が欲しい」
俺は後ろに隠れているドライの背中を前に押し出す。
「こんな子供に戦わせるつもりか〜、奴隷のようだし扱いにどうこう言うつもりはないが、おとりにしかならないぞ」
その予想は当たっている。
実際、ごみのように逃げ回ることしか出来ない。
「俺もそんな期待はしてない、ただ、旅をする上で武器も防具もなしでいるよりはマシだろ」
「そりゃそうだな、ちょっと待っててくれ」
おやじは店の奥に消えて行った。
数分すると木箱にを抱えて戻って来た。
「あんまし子供用の物は置いてなくてな、これぐらいしかないんだ。それでよかったらやるよ、調整が必要なら言ってくれ」
木箱の中には皮の鎧があった。
体だけじゃなく、手や足にもちゃんと着けられる物も入ってた。
新品さはないが、中古という訳でも無さそうだ。
おそらく、作ったはいいが誰も欲しい客が現れなくて放置していたのだろう。
ドライに渡してアインスに手伝ってもらいながら装着していく。
サイズに問題はないみたいだ。
中々様になってるな。
冒険者を目指す子供に見える。
防具の下がボロい服だが別にいいだろ。
万が一怪我をしないように着けるだけだからな。
アインスやツヴァイとは違い、バレても困らないのでフードを被る必要はない。
そういう意味で人化スキルは便利だな。
アインスに覚えさせたいほどだ。
多分無理だけどな。
レベル20を超えても槍スキルしか会得しないところから、槍以外のスキルを覚えるとは思えない。
それでも戦闘に十分に役立つからいいけど。
「おまえ、武器は何が使えるんだ?」
「どらい……ぶき、つかったことない」
何もスキルがなかったから当たり前か。
昨日宿屋で魔法書を見せたが、?を浮かべて文字がまったく読めていなかった。
魔法についてはアインスと同じ期待ゼロだ。
「こいつにオススメの武器はあるか?」
「そうだな〜、小型のナイフとかはどうだ?あとは小さい盾を持たせれば防御がより安全になるぞ」
「その2つは置いてあるのか?」
「ちょっと待っててくれ」
おやじはまた店の奥に行ってしまった。
あるならまとめて持って来てくれたらいいのに。
数分すると、また木箱を抱えて来た。
中にはナイフと言っていいほどの小さい剣と丸とか四角の小さい盾がいくつか入っていた。
こちらも新品さは無くなっていた。
いくら異世界でも子供が武器を持つことはそうそうないということなのだろう。
試しにドライに持たせてみた。
重量は問題ないようで、剣も盾も両方持てていた。
レベルは低いがそこは幹部の子孫の力なのか大丈夫そうだ。
剣は腰に、盾は背中に背負うように装備した。
手にずっと持っているのはキツいし無理だろう。
予備も含めてまとめて買った。
金額はダンジョン攻略祝いと在庫処分ということで無料でいいと言ってくれたが、今回も悪いと思い金を支払った。
おやじの手に銅貨1枚を落とした。
「ありがとよ……こいつも大切にしておくぜ」
苦笑いな感じだったが、相当喜んでくれたはずだ。
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冒険者ギルドの中に入ると俺を見てざわつきを見せる奴らがちらほらといた。
最速で攻略したと言っても低レベルのダンジョンだというのに騒ぎすぎだろ。
受付嬢のところに移動しようとすると、この前までいた受付嬢が姿を消していた。
たまたま休みだったのか、それともクビになったかな。
後者だとありがたい。
他人の不幸は蜜の味と言うしな。
「いらっしゃいませ、あ!この度は最速ダンジョン攻略おめでとうございます」
俺の顔はすでに知れ渡っているようだな。
全然嬉しくない。
ゲームならランキングとか気にして喜んでいたところだが、ここは異世界だ。
俺の後ろには魔王の幹部の子孫が2人もいるんだ。
さらに伯爵殺害の目撃者and証拠までいるし。
俺が目立つことによって、2人の正体がバレる可能性が高くなってしまう。
今のレベルなら多少の問題は1人でなんとかなるが、こいつらを庇いながらできるかと言えば、不安だ。
もっとレベルを上げたい。
それでもやってしまった事は仕方ない。
後は野となれ山となれ精神を変えるつもりはない。
報告を済ませるとダンジョン攻略報酬と魔物の買取で金貨を20枚(内ダンジョン攻略報酬が10枚で残りが魔物の買取額)貰ったが昨日の飯代の半額ぐらいなので、元が取れたぐらいに思っておこう。
倒した魔物の内、全部は渡していない。
8層、9層辺りで取れた武器や防具に使えそうな、魔物の素材は保管している。
奴隷が無料で1人手に入ってしまったことで飯代が増えたからな。
貰える金はいくらあっても困らない。
伯爵から頂いた金があるとはいえ、無限ではないからな。
まぁ、もしなくなったらまた何処かから補充すればいいことだ。
そのせいで誰かが死ぬことになってしまってもそれは俺のせいじゃない。
俺に殺されるやつが悪いんだ。
誰かの物は俺の物、俺の物は俺の物だ。
「すみません、ギルド長がゼント様が来られたらお呼びするように言われているのですが、ギルド長は只今別の件で接客中でして、申し訳ありませんがギルド内でお待ち頂けないでしょうか?」
「どのくらいかかりそうなんだ?」
「申し訳ありません、私には……」
「分かった、待っててやるからなるべく早くしろ」
「ありがとうございます」
受付嬢は礼儀正しく頭を下げた。
俺がダンジョン攻略をしたせいか、元から人ができてるのか、受付嬢の態度がすごくいい。
前の受付嬢より笑顔が輝いて見えた。
見た目も前の受付嬢よりスタイルがいい。
胸もツヴァイ程じゃないが、大きい部類に入るな。
うん、好印象だ。
俺はしょうがなく空いてる席に着き待つことにした。
あまりガン見するのも失礼だからな。
しかし、アインス達は座ろうとせず、立ったままだ。
「お前らも座ったらどうだ?」
「いえ、私達はけっこうです」
アインスはいつもの事だが、ツヴァイもドライも座ろうとしなかった。
ツヴァイはアインスの奴隷理論授業の成果だとして、ドライは前の主人の時にそういう扱い方だったのだろう。
主従関係を見せつけるのも主人の務めか。
公共の場でこうする事によって、どちらが上でどちらが下がはっきりする。
「ちょっといいかしら」
なんだか気が強そうな女性が勝手に向かいの席に座って来た。
見るからに不機嫌そうな感じだ。
皮の鎧をつけ、腰に短剣を刺している。
このギルド所属の冒険者なのだろう。
逆ナンでは無さそうだ。
ダンジョン攻略を祝福しに来たわけでも無さそうだ。
ここに来るのは今日が最後なのに、なにやら一悶着ありそうだ。
騎士団もこの街にいることだし、出来るだけ穏便に済ませるとするか。
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