第32話 ドライ

 ごみに服を着せた後は尋問の開始だ。


「なぜお前にその紋がある?親とかから聞いたことを答えろ」


 俺は椅子に腰掛けて、目の前には跪いた3人がいた。

 正確には跪いてるのはアインスだけで、ツヴァイは正座、ごみはちょこんと座っている。


 俺を見上げているなら細かいことは言わない。


 恐らくこいつも魔王の幹部の子孫なんだろうが、スタ◯ド使いみたいに引き寄せ会う力でも持ってるのか。


 だとしたら、今後も紋を持った奴が集まってくることになるのか。

 それでもアインスを見捨てる気は全く起きない。


「ごみ、わからない……きづいたらやまのくらいところにいた、おや……知らない、もん……わからない」


 聞こえづらいし、分からないことが多すぎだ。

 奴隷なのだから、それなりに悲惨な過去をもっているとは思っていたが、生まれたときから1人だったのか。

 なんの獣人かは知らないが、千尋の谷に突き落とすことをそのままやるとは。

 かわいい子には旅をさせよとも言うが、かわいくない子は捨てるのか。


 そっか、ごみだから捨てられたんだな。


「アインス、魔王の幹部は何人いるんだ?」


「はい、魔王には7人の幹部がいたと伝えられています。ルシファー、フェンリル、レヴィアタン、ミノタウロス、死神、カーバンクル、セルケトの7人がいます」


 へぇー、そんなにいるのか。

 幹部って言うから、最初は四天王だと思ってたけど予想と違ったな。


「ゼント様は勇者と魔王の物語をご存知ないのですか?」


 知らない。

 興味ない分けじゃないが、なんとなく知らないとは言いづらかった。

 みんなが当たり前のように知ってることを知らないというのは恥ずかしい。

 だが、自分から知らないとはプライドが邪魔をして言うことができなかった。


 だから、アインスからちょっとづつ聞いて内容なんとなく理解しようと思ったんだ。

 アインスならそこら辺に配慮してくれそうだからな。

 

 なのに、目の前の少女は人が気にしていることをズバリと言い当ててくる。

 

 ツヴァイに優位に立てられるというのがこんなに悔しいものなのか。

 アインスの気持ちが少し分かった気がする。


「その通りだ、そんな昔話に興味はないからな、物語に思いを馳せるよりも俺は自分の望みを現実にさせる方法を考えるのに頭を使う」


 痩せ我慢だ。

 本当は知りたい。

 もう引くに引けない状況になってしまった。


「ご主人様の仰る通りです、私もご主人様に相応しい奴隷になる為に鍛錬をします。貴方も夢物語を見るより現実を見て努力をしなさい」


「は、い……私もゼント様に相応しい女性になる為に頑張ります」


 アインスのようにいい意味に受け取ってくれる奴隷がいると言い訳が楽で助かる。

 ツヴァイの心情にも変化があってなによりだ。

 やっぱ、話し合いは重要だな。


「それで、こいつはどの幹部の子孫なんだ?」


「すみません、さすがに紋から推測することはできません」


 そりゃそうか。


「おいごみ、おまえの本当の姿を見せろ」


 ごみは黙ったまま動かない。

 聞いてやる気はないが、嫌なら嫌と言って欲しい。


「ごみちゃん……」


 ツヴァイが優しく声をかけるが、反応を示さない。

 

「元の姿を見せたら、明日もちゃんと飯を食わせてやる」


 ぎょ!


 音が鳴るような勢いでごみの目が開く。

 

「ほん、と?」


「1日ちゃんと飯を食わせてやるよ」


 ごみはスッと立ち上がると、体が白っぽく光った。

 人化スキルを解除したんだ。


 ツヴァイが声をかけてもダメだったのに、ご飯の為なら見せられるのか。


 次からこいつに言うこと聞かせるときは飯をちらつかせよう。


 ごみの頭の上から赤い尖ったような長い耳が出てきた。

 髪の色と一緒なんだな。


 犬でも猫でもない、見たことある気はするのだが思い出せない。

 

 尻尾は大きめで毛が多めでフワフワしてそうだ。


 なんとなく分かった。


「リスか?」


「そうですね、おそらくカーバンクルだと思います」


 カーバンクルってたしかリスとか竜なのかもとか言われていて曖昧だった気がしたが、

 この世界ではリスなんだな。


 魔王の幹部って恐ろしい連中のイーメジだが、こういう可愛い系もいるんだな。

 人間の姿よりも愛くるしい感じがしていい。


「その姿の方が可愛いくていいじゃないか、なんで人の姿をしているんだ?」


 俺が正直な感想と言うと、いつの間にかごみから離れていたアインスとツヴァイが、え!という感じでこっちを見てくる。


「どうした?2人もそう思うだろ」


「……ご主人様、申し訳ありませんが私にはご主人様のような寛大な心は持ち合わせていない為に同じ感情を抱けません。不甲斐ない私をお許しください」


「わたしも……その……すみません」


 リスはどちらかと言えば、女性に好かれる動物だと思っていたのだが、

 小学生の頃、女子がハムスターやウサギを可愛いと言っていた気がするがリスは対象外だったのか。


「カーバンクルは恐ろしい魔物です。村や町を襲っては食べ物や人属だけでなく、建物などまで残さず食べてしまうんです。伝承で伝えられている幹部は満腹という言葉を知らず、カーバンクルが通る道には生き物は生息できないと伝えられてます」


 なにそれ⁉︎

 すげー恐い。


 建物を壊すんじゃなくて食べるとか、昔漫画がそういう敵役がいたこと思いだすが、実際にいるんだな。


 さすがは異世界だ。


「おまえ……もしかして、俺たちを食べようとか考えてたりするのか?」


「ごみ……ひと、たべない……たべものしか……たべない」


 なんか涙目だし。


 今アインスが言ったことを思われるのが嫌で隠してたのか。


 勘違いってことなのかもな。

 幹部のカーバンクルがそういうことをしていたせいで、カーバンクル全体がそういう風に見られてしまったってところか。


 よくある話だ。


 でも、そう思われてたら迫害されてもしょうがないか。

 自分が悪くなくても代表者が悪く思われてたら、その下の奴も悪く思われるのは当然だな。


「……ごみ、なんでもする……だから捨てないで……くだ、さい」


 捨てないで、か。


 その言葉、俺にはクリティカルヒットだ。

 確かに、俺が助けて拾ってしまった。

 ここで、奴隷商に売ったら捨てたことになるのか。


 いらないけど、捨てられない。


 俺はミニマリストには一生なれない性格のようだ。


「こいつを俺の奴隷にしようと思う。おまえたちはどう思う?」


 2人は驚いた顔をする。


 アインスのここまで驚いた顔は初めて見た。


「それは……ご主人様の決めたことなら、私は受け入れますが……」


「…………」


 さっきまで可愛いがっていたツヴァイまで引いている。


「安心しろ、こいつは人を食べたりしない、それはこいつの顔を見れば分かる」


 こんな顔をするやつが人を襲って食べるとかないだろ。

 そうだとしたらペテン師の才能がありまくりだ。

 それで十分食っていける。


「ごみ…捨てられない?」


「そうだ、今からおまえのすべては俺の物だ、俺の奴隷となって役に立て」


 全く期待はしてないけど。


「……ん!……んん……」


 蹲ってめっちゃ泣いてる。


 顔は見えないが、多分喜んでるだろう。


 とっさにツヴァイが近づいて頭を撫でたり、背中をさすったりしている。

 分かってくれたようだ。


 アインスは見ているだけだが、ごみを見る目はもう恐怖など無くなっていた。


「そうなると奴隷契約をするぞ、こっちに来い」


 だが、ごみは泣き続けて動こうとしない。


 奴隷にしようと決めたら、さっそく命令無視だ。

 

 ツヴァイが支えてやっと手の届く距離に近寄った。


 俺はスキルを発動させ、ごみの奴隷紋に血を垂らした。


「お前の名前は今からドライだ、俺のためにおまえの全てを捧げて尽くせ」


「どらい?」


「そうだ、ごみという名前も過去も全部捨てろ、今からドライとして生きろ」


「わかり、ました、どらい.……ごしゅじんさまのために、がんばります」

 

 ドライは行儀よく頭を下げる。

 こういうところはちゃんとしてるんだな。


 はぁー、いらない奴隷が1人増えてしまった。


 今日はもう疲れたから寝よう。

 明日からのことは明日考えよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る