第31話 傷跡
ダンジョンから地上の戻るとすでに日が沈んでいた。
地上の魔法陣から出ると、冒険者ギルドの職員が寄って何か言ってきたが、ウザかったので明日報告すると言ったら離れて行った。
疲れのせいで多少不機嫌に睨んでしまったが、問題はないだろう。
長い時間戦っていたせいで、全員体力的にも精神的にも限界に近かった。
俺はレベルとスキルのおかげで体力的には問題ないが、暗いダンジョン内に長い時間戦闘していると精神的に疲弊してしまう。
さすがに精神まではレベルやスキルでどうにかは難しい。
ゲームだと明鏡止水みたいな心に働きかけるスキルがありそうなのにな。
そこがゲームと異世界の差なのかな。
アインスも声には出さないが、様子を見ていれば分かる。
ツヴァイは見ての通りという感じだ。
戦いの最中は緊張感から来る集中でなんとかなっていたが、それから解放されたら溜め込んで来た疲労が一気に来るんだ。
ごみはアインスの背中で寝ている。
こいつも色々とありすぎて疲れたのだろう。
明日一日は休みにして、明後日あたりに出発しよう。
「今日は外で飯を食っていくぞ」
俺たちは外装が綺麗そうなお店に入った。
高めそうな店だが金はあるから問題ないな。
「こんな高そうなお店でいいのですか?」
「問題ない、今日の褒美だ、好きなものを好きなだけ食っていいぞ」
「「ありがとうございます」」
店員に席に案内されるなり、オススメを適当に持ってきてくれと頼んだ。
文字は読めるが、料理名や食材を聞いてもだいたいしか理解できない。
こういう時はお店に任せる方が楽だし安心だ。
数分すると、前菜が運ばれた。
コース料理な感じで順番に料理が運ばれてくるのだろう。
「……ん、ごはん……」
椅子に座らせていたごみが飯の匂いで起きやがった。
だが、ごみの分などない。
頼んだのは3人分だけだ。
働かざる者食うべからずだ。
こいつが俺の何の役にたったというのだ。
正直こいつを拾ったことは俺の損失にしかなってない。
これから利益が生まれるとは考えにくい。
ならなんで助けたかって?
それはあの冒険者共が俺の琴線にふれたからだ。
結果、ごみを助けたことになったが、それが目的ではなかった。
なので、こいつに食事を与える理由はない。
「…………」
よだれを垂らし、すごく物欲しそうに見てくる。
「ご主人様」
「ゼント様」
アインスとツヴァイが見つめてくる。
今度はアインスも一緒かよ。
正直嫌だが、今日はこいつらの要望に応えてやろう。
「お前らの皿から分けるなら好きにしろ」
「「ありがとうございます」」
2人は肉や野菜を小皿に分けてごみの前に差し出した。
俺からは分ける気は全く起きない。
2人から分けてる時点で俺がごみに食事を与えてるのと一緒だが正確には違う。
俺がアインスとツヴァイに与えて、それをごみに与えている。
ここが重要だ。
俺が直接恵みを与えているのではない。
そんなことしたくもない。
「食べていいの?」
「えぇ、好きなだけどうぞ」
ごみは満面の笑みで、礼儀作法とはかけ離れすぎな食べ方を始めた。
周りから嫌な視線が集まる。
俺も見ていて嫌な気分だ。
「そいつにフォークとかの使い方を教えろ、素手で食べるのをやめなければ、今すぐにお前らの食事は中止だ」
こいつに食事をさせたのは2人の責任だ。
素手の食事をやめさせなければ、2人からも食べ物を取り上げるのは当然だ。
こういう店でさすがに手掴みはありえない。
ご飯抜きと聞いた時のごみの悲しい顔への落差が凄かったな。
天国から地獄という感じだ。
この顔は面白かった。
初めてこいつが役にたったな。
その後はアインスとツヴァイがなんとか教えて、礼儀を知らない子供が食べる程度になった。
汚い食べ方なのは変わらなかった。
店を出た後、「あ、ありが……とう、ござ…います」
喋り方が怪しすぎるが、ちゃんとお礼を言えるのは好印象だ。
奴隷だから当然なんだがな。
もし、アインスかツヴァイが感謝の気持ちを忘れたら飯抜きの刑にしよう。
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宿に戻ると、水浴び道具で体を洗う。
本当は風呂に入りたいのだが、風呂は高級すぎて貴族の家にしかないらしい。
将来家を買ったら、絶対風呂は作ろう。
今回もアインスに洗って貰っている。
アインスも慣れてきたのか、最初の頃のような恥ずかしさはないようだ。
少しつまらないな。
ツヴァイは離れたところでごみを洗おうとしている。
一緒に部屋にいると、臭いがきついので念入りに洗ってもらう。
全体的に汚れも酷く、髪も肌も酷いもんだ。
しかし、いざツヴァイが服を脱がそうとすると、ごみがすごく嫌がった。
綺麗になるのが嫌なやつなんているのか?
汚いままでいたい願望でもあるのか?
どうせ体のどこかに見られたくない傷があるとかだろう。
その後も抵抗したが、俺が早くしろと命令するとアインスも参加して無理矢理脱がした。
「ご主人様!」
アインスが叫びのような声を上げた。
なんだ、
そんなに酷い傷があったのか。
アインスが裸のごみを掲げて見せてくる。
俺はロリコンではない。
ごみの体なんて全く興味ない。
「これを見てください」
生姜なく振り向いた。
そこには予想を超えるものがあった。
ごみの左胸にはアインスのフェンリルの子孫である証と似て非なる痣のような禍々しい紋様があった。
俺は本気で助けたことを後悔した。
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