第29話 スリュートダンジョン 4日目.2

 カメレオンの魔物は子供追いかけ回している。


 必死に逃げるがその距離は段々と縮まって行く。


 ついに終わりの時が来た。

 壁まで迫り、逃げ道がなくなった。


 子供はしゃがみ込み、頭を抱える。

 自分の死が間近になり、恐怖に怯えてしまった。


 魔物が丸呑みにしようとその舌を伸ばした時、

 魔物と子供の間に壁が出現した。


 舌が壁に当たったが、ひびも入らなかった。


「こっちだ」


 そこには冒険者がよく使うような革の鎧を装備した俺がいた。


 魔物は俺に向かって舌を伸ばし攻撃を仕掛ける。


「遅い」


 手に持っていた魔剣で舌を切り裂いた。


 魔物にとってこの攻撃は最速で最大の攻撃だったが、所詮はレベル20以下の魔物にすぎない。


 レベルが倍以上ある俺に効く道理はない。


「アインス!」


「はっ!」


 アインスは魔物の横に回り込むと、魔槍に渾身の力を込めて3連突きをくり出した。

 これは今アインスが出せる最大値の連撃だ。


 怯んだ魔物には躱せない。


 魔物は倒れなかったが、もう虫の息だ。


「ツヴァイ!」


「はい!」


 ツヴァイは杖に魔力を込める。


「アクアブレス!」


 杖から水鉄砲のような攻撃が発せられた。


 それは一直線に進み魔物に当たった。


 魔物は半回転するまでになった。


 仰向けになった魔物に動く気配はなく、2度と活動を開始することはなかった。


 元々、前の冒険者達がダメージを与えていたこともあり、特にゼントがトドメを刺す必要はなかった。

 

「やりました!ゼント様」


「あぁ、よくやった」


 あの冒険者達が敵わなかった敵を倒せた事が嬉しいんだろう。


 その気持ちを持ち続けて愉悦となれば、ツヴァイは向上心をもってさらに強くなるだろう。


「アインスもな、上手く決まったじゃないか」


「いえまだまだです、あの程度の魔物私1人で倒せるようになってみせます」


 ストイックなのはいい事だが、ツヴァイの喜ぶところを喜んだ方がモチベーションが上がる気がするだがな。


「おい、生きてるよな」


 俺は未だ壁の側で小さくなってる子供に話しかける。


 だが、全く反応がない。

 死んでないよな。


 ツヴァイが駆け寄って様子を見たら、気絶していた。


 念のためツヴァイに光魔法で回復させてから移動することにした。


 俺は持つのは面倒で嫌だったので、アインスに運ぶのを頼んだ。

 こいつをどうするかだが、特に決めていない。

 俺の奴隷にするのも、子供を奴隷にするのは躊躇われる。

 奴隷にするなら、せめてツヴァイと同じくらいの年齢がいい。

 どっかに捨てるわけにもいかないからな。

 奴隷商に売ればいいか。


 そういうことでお荷物が増えてしまったが、今後の戦闘には特に問題はなかった。


 アインスもツヴァイもすでにレベルが20を超えているが、お荷物を抱えたままで戦闘するのを難しいので、俺が1人でちゃっちゃとやっつけて10階層に到着した。


 10階層はボス部屋のみで、他の魔物はでない。

 俺たちはバカでかい扉の前で休むことにした。


 ボスは絶対に部屋から出ないので、ここは安全だ。

 アイテムボックスに入れていた食料で腹を満たしたら、ボス戦だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る