第23話 スリュートダンジョン 2日目.2
これは好機だ。
今日私は命を救っていただいた恩人に自分を力を示すことが出来る。
教会の廃墟から伯爵領まではご主人様と2人(主にご主人様)で戦闘をしていたが、
今回は私1人に任された。
王都の騎士団にいた頃から鍛錬を積んできた。
自分の力には多少なり自身はあった。
ご主人様の奴隷になってからもご主人様が寝静まった後に宿の外で鍛錬をしてきた。
当時は主である王女殿下のためにこの腕を磨いてきたが、
今私は新たなる主を得た。
私を拾ってくださった王女殿下の恩義を忘れたことはない。
しかし、私の後ろには忠誠を誓い、心からお慕い申し上げてる人物がいる。
こんな呪われた私を愛してくださった。
たとえそれが一夜限りの夢であろうと、こんな体を求めてくれたことがとてつもなく嬉しい!
ツヴァイが来てからは体を求めるどころか一緒のベッドで寝ることもなくなり、毎夜床で布に包まって寝るばかりだ。
それでも奴隷の待遇としては大変豪華とも言える。
毎日食事を与えてくれて、宿の部屋で布をもらって寝られる。
こんな贅沢な毎日を過ごさせてくれるご主人様に感謝をしないわけがない。
だが夢叶うならもう一度私を求めて欲しいという思いがある。
もしかしたら、今回のダンジョン攻略で手柄を上げれば、またご主人様の寵愛を受けられるかもしれない。
奴隷の分際で主人に褒美を求めるなど分不相応な行為でご主人様のお怒りに触れるかもしれない。
だから示すのだ。
あんなご主人様の偉大さに気づきもせず、感謝の気持ちを持っていないあの愚か者より、私の方がご主人様の奴隷に相応しいことを!
こんな目の前の蟻の群体にご主人様の奴隷である私は負けない。
毒針を持った蜂共をご主人様の奴隷である私が葬れないはずがない。
大きく強力な鎌をもったカマキリにご主人様の奴隷である私が勝てない理由などない。
毒の糸を吐く蜘蛛だろとご主人様の奴隷である私の進みを止められない。
ご主人様から名前をいただいたこのアインスが虫共ごときに遅れをとることなど許されない。
ご主人様からの寵愛を受けたこの私を、
愛を理解しない魔物が倒すことなどできない。
そこがあの愚か者との決定的な差だ。
2日もご主人様と夜をともにしながら寵愛を受けられる素振りはない。
ただ、あのあまりに大きな胸部に寝ているご主人様が顔を埋めている間、とても気持ち良さそうな表情をされていた。
あの顔をさせる事は自分にはできない。
ご主人様を恨むことはないが、あの凶器をこの槍で斬り落としたいと思ってしまう。
しかし、戦力の大きさが勝敗を分かつ訳ではない。
結果的に言えばご主人様の寵愛を受けたのはこのアインスただ一人だ。
あの愚か者は抱き枕か愛玩人形に過ぎない。
もう一つ不安要素があるとすれば、あの愚か者は魔法を習得したことだ。
この私にはできないことがどんどん増えてくる。
さらに料理スキルも持っているとすれば、旅をして行く中であの愚か者は重要な存在になってしまう。
これはまずい。
私が出来るのは戦闘と夜の相手だ。
この2つに関しては勝利してきたが、その一つが敗れれば、あと一つしか残らない。
ならば、あの愚か者が魔法を上達させる前にご主人様に私の力を示してみせる。
その為に私は進み続ける。
ご主人様の歩む道を邪魔する敵はこの魔槍で貫き薙ぎ払ってみせる。
私達はさらに下の階層に降りて行き8階層までたどり着いた。
ここに来ると、レベル20近くのモンスターが現れる。
大きく開けた場所に出るとそこに大蛇が現れた。
体長は30メートルを超えている
私よりレベルは上だろう。
昔の私では絶対に勝てない相手だろう。
だが、今の私にはご主人様から頂いた魔槍とこの奴隷紋がある。
この誇りが私を強くする。
レベルが上だろうと、ご主人様の奴隷である私が退くわけには行かない。
戦闘開始して数分が経つ。
大蛇はその巨大と毒の牙をいかして変幻自在な攻撃をしてくる。
防戦一方な状態だ。
反撃の糸口がみつからない。
その時後ろから大きな火の球が飛んできて、大蛇の頭に命中した。
大蛇は片目が潰れ、所々から煙を上げ、大きなダメージを受けているのが分かる
「そいつはお前一人では無理だ。魔法で手助けする」
「……はい!」
私は悔しかった。
今は自分の武勇をご主人様に見せるにはまだまだ力不足だ。
ご主人様の手助け無しではこのダンジョンを攻略することができない。
「地魔法で動きを制限させて誘導するからトドメはアインスが刺せ」
「かしこまりました」
今は仕方ない、だがいつかは、ご主人様に足元に届くように修練をつんでいく。
大蛇よその糧となり散れ!
地面から出てきた大きな壁が大蛇の行手を阻み、行動を制限していく。
その尾で叩き壊そうとしても多少のひびが入るがそう簡単に崩れそうにない。
さすがはご主人様の魔法です。
この大蛇ごときのレベルでは壁一つ壊すこと困難である。
わたしはチャンスを待つだけだ。
その時はすぐに訪れた。
大蛇は体全体に火傷を負い、横と後ろを多くの壁で囲まれていく。
進める道は正面のみ。
大蛇は最後の力を振り絞るように大きく口を開けて飛びかかってくる。
私は魔法で出てきた台を足場に大蛇より上に大きく頭から顎向かって魔槍を突き刺す。
魔槍は地面まで貫通し、大蛇はその動きを完全に止めた。
「やりましたご主人様。我々の勝利です」
ように思われた。
この時私は完全に油断していた。
槍を離し、ご主人様に向き直ると、
大蛇は起き上がり、私を一飲みにしようと襲いかかってきた。
だが、その攻撃が行われることはなかった。
ご主人様が放った水の刃によって大蛇は真っ二つになり、今度こそ倒された。
「大丈夫かアインス?」
「……すみませんご主人様、おかげで助かりました」
失態だ。
完全に油断していた。
そのせいで主に余計な手間をかけさせた上に自分の不甲斐なさを露呈させてしまった。
「連戦で疲れていたんだ、気にするな」
ご主人様は優しい。
普通なら罵倒され、売り飛ばされても文句を言えない。
「帰るぞ……この後は俺が戦う、お前は休んでろ」
私は体の力が抜けて、その場に座り込んでしまった。
「すみません……ご主人様の前で……」
「おまえのスタミナも限界だったんだろーーほれっ」
ご主人様は私の前で背中を向けてしゃがみこむ。
「どうした? 早くのれ」
「そんな⁉︎ ご主人様の背中にのるなど……、少し休めば大丈夫ですから……」
私は顔の火照りを感じながら手を横に振る。
「ここにもすぐにモンスターが来るかもしれない、休むにしても安全エリアに移動する必要があるんだ」
それでも動こうとしない私は命令をされ、体が拒否できず、ご主人様におぶさる。
「じゃあ行くぞ。落とされるなよ」
ご主人様は自分とあまり変わらない身長の私を軽々と持ち上げて颯爽と移動する。
途中にモンスターが現れても魔法でことごとく倒して行く。
防具ごしでも伝わるご主人様の背中の頼もしさ。
モンスターを倒しても慢心を感じさせない態度。
私を心配してくださる優しいお言葉と奴隷の失態をものともしない器の大きさ。
偶に出る横顔から見える微笑み。
ご主人様の動作全てが私の心を温かくし、同時にかき乱しもする。
ご主人様から目を離すことなどできない。
私はこの感情を今まで感じたことはない。
王女様からや王城のメイドの達の話しを聞いていて、その感情を言葉としては知っていたが、感じたことがない感情は私には分からないままだった。
今なら分かる。
昔、母親から聞かされた醜悪な魔物に変えられたお姫様をカッコ良く助ける王子様が出てくる御伽話が思い出される。
あの王子様に抱いたような感情が今は目の前のご主人様へ向けている。
王子様は醜悪な魔物になってもお姫様を愛し続け、呪いをかけた悪魔を倒してお姫様を元の姿戻して、ずっと幸せに暮らせた話。
しかし、奴隷である私がお姫様のようにこの想いをご主人様に伝えることなど許されない。
それが叶うとしたら、ご主人様が同じ感情を私に抱いてくれた時だと思うが、
偉大なるご主人様が私のような女性らしくない体躯、戦闘と夜伽でしか役に立てない私に抱いてくれるとは思わない。
異種属である私はご主人様の子供を身篭ることも出来ない。
そんな私は将来ご主人様の隣に立つことは出来ない。
可能性があるとすれば、妾としてご主人様の欲望を受け止めることだ。
やることが山積みだ。
将来ご主人様の妾として恥じないようになろう。
あの愚か者は妾にすらなれずに終わるだろう。
私は今勝ち誇ったような顔をしてるだろう。
不安要素であるフェンリルの呪いなどご主人様は気にしないと言ってくださった。
もしこの呪いが発動したら、私に構わずすぐに殺して欲しい。
ご主人様の手で殺されるなど、それ以外で死にたくないと思えるほどに素敵な事だ。
最後に思ったことだが、これはご主人様に失礼にあたることなのですぐに忘れる事にした。
ご主人様が魔王だったら良かったのに……
名前:ゼント
レベル:50 up
魔法:〈火魔法(中)LV1〉〈水魔法(中)LV5〉up〈地魔法(中)LV3〉up〈光魔法(中)LV1〉up
スキル:〈剣王LV3〉〈槍士LV3〉〈闘王LV1〉〈投擲LV7〉〈隠密LV10〉up〈自然回復LV10〉〈運搬LV10〉up〈奴隷契約〉〈鑑定〉〈アイテムボックス〉
称号:無能王up
名前:アインス
レベル:16 up
魔法:なし
スキル:〈槍士LV6〉up
称号:ゼントの奴隷
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