第14話 潜入

 アインスと宿屋で別れた後、俺は盗賊が持っていた別の全体的に黒っぽい服に着替えている。


 皮の鎧の上に盗賊の魔法使いが被っていたような、少し大きめのフード付きコートを羽織っている。


 念の為、市場で売っていたお祭りの余り物の仮面を被っている。


 目の部分が少し開いているだけなので、顔バレする事はないだろう。



 俺は闇夜に紛れて移動する。


 移動するスピードも道歩く人より数段早く、見つけることは困難だろう。



 すぐに伯爵邸の側まできたが、ここからが問題だ。


 アインスの手前、カッコよく出て来たつもりだが、特に作戦は考えていない。


 主人(伯爵)を殺せば奴隷が手に入ることは分かっている。

 奴隷契約スキルもあることだし。


 とりあえず、邪魔するやつは殺して、あの奴隷を連れてくればいいだろう。


 ゲームでもこういう感じの潜入イベントはあったが、実際やるのでは違うだろう。


 俺が思いつく手段は2つだ。


 ・密かに建物に侵入して、伯爵を暗殺して奴隷を連れて帰る。


 ・騒ぎを起こして、その間の侵入し、伯爵を殺して奴隷を連れて帰る。



 俺は考える。



 よし、決まった!




 俺は屋敷に向かって何発かファイヤーボールを放った。


 着弾したところから火が上がった。


 この攻撃で奴隷が死ぬかもしれないが、後は野となれ山となれだ。


 屋敷の使用人らしき人達が何人か慌てて外に出て来た。


 俺は隠密スキルを使って、使用人の1人である男性を捕まえて建物の影に隠れる。

 男性の喉元に小型のナイフを突きつけた。


「大きな声を出すなよ。伯爵と伯爵が今日買った奴隷はどこにいる?喋らなければ殺す」


 男性は小さく頷き、伯爵は地下室の拷問部屋にいるらしい。

 地下室への入り方を教えて貰った後はナイフで男性の首を裂いた。

 自分の存在がバレた時点でこの男を殺すことは決まっていた。


 身バレする可能性はちょっとでも少なくしていこう。

 なら魔法を撃つなよ!という声が上がるだろうが、大胆な方が実は都合が良かったりするんだ。

 特に根拠はない。


 俺は燃える屋敷の中に飛び込んだ。

 男から聞いていた通りに地下室に入った。


 地下にはいつくか部屋があったが、1番奥の部屋に伯爵と奴隷がいる。


 俺は走りながら、その勢いを利用してドアを蹴り飛ばした。


 部屋の中では両手を手錠で繋ぎ、鎖でぶら下がっている奴隷と、

 その前に立っている男が2人いた。


 1人は執事服を聞いたガタイの良い男。

 もう1人はいかにも高そうな服を着込んだ少し小太りの男だ。


「誰だ!きさまは⁈」


 俺は小さく呟いた。


「死神」


 前からどう名乗ろうか考えていたが、特に良いのが浮かばず、適当に聞いたことがあるセリフを言った。


「何やら上が騒がしいようだが、貴様の仕業のようだな。フランツ!こいつに俺様に楯突くとどうなるか思い知らせてやれ」


 執事は、はいと答えて俺の前に立ち塞がる。


「教えてやるよ。フランツのレベルは23、闘士スキルは6なんだぜ。お前なんかすぐにボロボロになっちまうぞ」


 俺は昨日冒険者ギルドで闘った男より弱いなとしか考えてなかった。


 執事は俺の出方を伺うように構えたまま動かない。

 カウンターが得意のかもしれないが、そんなのは関係ない。

 本人のレベルもスキルレベルも優っているので負ける気がしない。


 折角だから相手の土俵で闘ってやろう。


 俺は拳を構えて、真っ直ぐ突っ込んで右ストレートを放つ。

 執事は咄嗟にに防御するが、かなり効いているようだ。

 苦しい表情がその証だ。


 俺はその後も相手に反撃のすきを与えず、乱打する。


 最初こそ防御が間に合っていたが、次第に顔や体に当たる回数が増えていく。


 執事は一度下がり、最後の悪あがきのように拳を放ってくるが、そんな攻撃が当たるわけがない。


 俺はクロスカウンターのように執事の拳を避けて、自分の拳を顔面に放った。


 執事は壁に向かって吹っ飛び倒れ、そのまま起き上がることはなかった。


「……あぁ、フランツ……」


 伯爵は信じられないと言いたいばかりに顔を蒼白させていた。


「次はお前だ」


 俺はアイテムボックスから剣を取り出し、伯爵にゆっくり近づいた。


「お前の目的はなんだ⁈金ならいくらでも払うから命だけは助けてくれ」


 伯爵はガタガタと震えている。

 足は生まれたばかりの子鹿のようだ。


「死神を見たものには死を」


 俺は伯爵の首を裂いた。


 執事の喉にも剣を突き刺した後、血を拭き取り剣をアイテムボックスに戻した。


 証拠は残さない。


 奴隷の女に目を向けると、あまりのことに失神していた。


 まぁ、その方が運びやすくていいか。

 説明は宿に戻ってから、ゆっくり話そう。


 さっきから上からガタゴトと焼け落ちるような音が聞こえてくる。

 早く俺も脱出しないとな。



 名前:ゼント

 レベル:45

 魔法:〈火魔法(下)LV6〉

 スキル:〈剣王LV3〉〈槍士LV3〉〈闘王LV1〉up〈投擲LV7〉〈隠密LV9〉up〈自然回復LV10〉〈運搬LV8〉〈奴隷契約〉〈鑑定〉〈アイテムボックス〉

 称号:無能


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