第13話 ご主人様のために

 伯爵の屋敷のあとは武器屋へ向かった。

 そこは一軒家ぐらいの大きさだが、昨日商会の人についでに聞いていた。

 商会でも武器を扱っていたが、値段的に辞めておいた。


 武器屋の中には様々な武器、防具が取り揃えられていた。

「いらっしゃい!本日はどんなものをお探しかい?」


 やたら元気のいい店員だ。

 短髪の坊主頭に近い髪をした。30代前半の男だ。


「武器と防具を買いに来た。剣と槍を一本ずつ頼みたい。防具を楔帷子見たいな頑丈で動きやすいのを頼む」


「既製品ならそこらに並んでるものから好きなの選びな。オーダーメイドは高いが、お客さんにあったピッタリのを造るぜ」


 オーダーメイドという言葉に心惹かれた。

 やはり唯一無二の武器というのは素晴らしいと思った。

 しかし、これで人を殺したり犯罪を犯せば身バレの可能性が高くなる。

 まぁ、その武器を使わなければいいのだけどな。


「オーダーメイドはいくらするんだ」


「素材の持ち込みなら金貨1枚、素材を含めてならその素材料も貰うことになる」


 俺はアイテムボックスからレッドベアの両腕を取り出して床に転がす。


 レッドベアの本体は冒険者ギルドに渡してしまったが、切り落とした両腕は渡さずに持ち歩いていた。

 何かに使えるかもと取っておいてよかった。



「これはレッドベアの腕か、そういえばある冒険者がレッドベアを退治したって聞いていたがにいちゃんだったのか、これなら良いものが作れるぜ」


「剣と槍の2つでも平気か?」


「あぁ、ちょうど腕も二本あることだし大丈夫そうだな。料金は本来なら金貨2枚頂くところだがお客さんは有名人だからな金貨1枚と銀貨5枚でいいぜ」


「いや、金貨2枚払う。そのかわり防具をタダでくれ。素材は余ったらそのままくれてやる」


「オーケー、サービスだ。店に置いてあるのから好きなのを選んでいいぜ」


 なら片っ端からアイテムボックスに詰め込んでやろうかと思ったがそこまで俺も鬼じゃない。


 既製品の中から俺とアインスの2人分貰うことにした。


「素材を貰えるからって、武器に使う分をケチるなよ」


「当たり前だ。これでもこの腕に誇りを持ってやってんだ、自分の造る武器の価値が下がることはしねぇよ」


「その言葉を信じよう、いつまでに出来る?」


「今から造るとなると、最低でも夜まではかかるからな……明日の昼には渡せると思うぜ」


 なら明日取りに行くということにした。

 ただ防具は今すぐに貰うことにした。

 俺は楔帷子と皮の鎧とコートを2つずついただいた。


 だが、これはまだ装備しない。

 この防具は明日武器を取りに行く時に着るんだ。

 今つけると今夜のことに足がついてしまうからだ。


 その後は俺とアインスの身長やら腕の長さやら測った。

 もしアインスに不埒なことをしようものなら殺してやろうかと思ったが、そんなことはなかった。






 ご主人様は宿に戻り、今夜の作戦の説明会を始めた。

 私はすぐにご主人様の座る椅子の元へ駆け寄り跪いた。


「今夜俺は伯爵の屋敷に侵入し、あの奴隷を取り戻す。もちろん伯爵にはそのツケを払ってもらうがな」


「それは!いかにご主人様でも危険では……」


「今夜にもあの奴隷が伯爵に犯される可能性が高い、俺のものを他人に汚されるなど我慢できない」


 まだご主人様のものではないと否定しようとも思ったが、将来的にご主人様のものになるのならご主人様のものだと無理矢理納得した。


 ご主人様が強いのは昨日の冒険者ギルドの件で分かっているが相手が悪い。

 今回の相手は伯爵だ。

 そこらの冒険者を相手にするのとはわけが違う。

 指名手配され、国中から追われることになってしまう。

 今のご主人様では国を相手になどできないだろう。


「前にも言ったが俺はこの国を滅ぼすのが目的だ。貴族の領地1つ敵にする事など些細なことだ」


 確かにその通りだ。

 私は目の前の男が国を滅ぼすことを本気だと理解した。


 最初聞いた時は半信半疑だったが、ご主人様の話を聞いていて本気で伯爵様を敵にするのだと分かった。


「分かりました。微力ながら私もお供させていただきます」


「いや、アインスはここで待っていてくれ」


「‼︎、……私では足手まとい…ですか?」


「はっきり言ってそうだな、向こうで戦闘を行う可能性もある。その場合お前を庇いながら行動することは出来ない。今後のために出来れば正体を隠して行動したいんだ。お前が一緒にいることで正体がバレる可能性がある。だから今回はお前を置いて行く、分かってくれ」


 そう言うとご主人様は黙ってしまった。


 私は悔しかった。

 自分が未熟のためにご主人様の役に立てないのが悔しかった。


 私がこれまでご主人様の役にたった事といえば、夜の相手ぐらいだ。

 それもあの奴隷を手に入れば私は用済みになってしまう。


 容姿については顔は悪くはないと思っている。

 だが体つきについては女性らしくない。

 獣人という他種族というのも引け目を感じる。


 フェンリルの子孫ということだけでもご主人様に迷惑を掛けているのにもかかわらず、

 昨日には冒険者ギルドで揉め事を起こし、ご主人様に尻拭いをさせてしまった。


 本来なら自分で解決せねばならないことだ。


 戦闘ではご主人様に囮にしか役立てない。

 私には魔法は使えない。

 魔法が使えれば、ご主人様の戦闘の支援をできたかもしれない。


 夜の相手としても不十分だ。

 昨夜は大変激しく満足されていたようだが、それは私が初めてで今後がどうなるか分からない。


 このままではいずれご主人様に見捨てられてしまう。

 ご主人様は簡単には捨てないと仰ってくださったが、それは私が役に立っているからだ。

 役に立たない、足枷にしかならない奴隷など捨てられるか殺されるかだ。


 私がご主人様のために出来ることいえは、戦闘でしかないというのにそれさえも今は足手まといにしかならない。


 なら、私が出来ることを考える。


 戦闘においては今は無理だが、鍛錬を毎日欠かさず行い、いつかご主人様の足元に届くようになること。


 ご主人様はこの国を滅ぼすのが目的と言っていた。


 そこにどんな恨みがあるか私には分からないが、この国について調べ、ご主人様の役立つ情報を入手すること。


 命を救っていただいた御恩と私を見捨てないと言ってくれたあの言葉を信じて、ご主人様にために出来る最大限をことをしようと心に誓った。


たとえそれが、以前仕えた王女様に逆らうことになってもだ。


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